2011年04月10日

震災

 
 ここを覗いて下さっている皆様は、ご無事でしたでしょうか?
 といっても、本当に大変な方には、こんな所で尋ねても届かない訳ですが。
 当方は、ご覧の通りです。元々長期不在中だったのと、緊迫した時期に回線の混雑に拍車をかけたり、節電が叫ばれている時期にネット巡回の電力消費を伸ばしたりするのもどうかなと思ったのとで、記事の投稿を怠っておりました。

 もしも、今回の大震災で亡くなられた方の中に、「もっと魔が堕ちる夜の続編が読みたかった」という方がおられましたら、本当にごめんなさい。謝りようがありません。
 ただ、真に屑で勝手な言い草ながら、これまでにも失職等々で生活を維持できなくなって、凌辱ライトノベルどころでは無くなってしまった方もおられたことと存じますので、今更悔いて行動を変えるということは、ございません。
 こんな時に恨みがましい話は止しますが、私が皆様に作品をお見せするには、自前の発表の場を設ける以外に、方法は無かったのです。
 深く、ご冥福をお祈りいたします。どの面を下げて、という感じではありますが。
 死後の世界という物が存在して、そこでは古今未来の作品を全て無料で読むことが出来て欲しいと、切に願っております。

 難を逃れた方は、ご無事で何よりです。
 誘発地震や二次災害、金欠などに、お互い気をつけましょう。
 どうか、長生きをしてください。
 もう発生から一ヶ月近く経つ筈なのですが、ちっとも過ぎた出来事に思えませんね……。
 被災地の復興が一日も早く成りますように。
 これ以上酷いことは起きませんように。
 
posted by 謡堂 at 23:19| 雑記

PDF

 
 ぶっちゃけ、当サイトのHP形式の方の小説、レイアウト的に読み辛いっすよね?
 特に、縦書きの方。
 オリジナルは一太郎の縦書きで書いているのですが、その状態では、きちんと書式に纏まっていて綺麗なのですよ…… orz。
 前々から、どうにかしなきゃなぁ、と思っておりました。
 スクリプトの本と睨めっこもしてみましたが、有り体に申し上げて、さっぱり内容が分かりません。日本語で書いてあるのに。
 いっそ、一太郎のファイルをそのまま公開してしまおうかな? と思っていた矢先、私は「PDFCreatorプロジェクト(日本語ミラー)」(http://sourceforge.jp/projects/pdfcreator/)なる物と出会ったのです。
 どうしてフリーツールなのでしょうか。仏様なのでしょうか。
 使用させて頂きました。大変かたじけなく存じます。ありがとうございます。
 一太郎の印刷ボタンから「PDFCreator」を選ぶだけという、怖いほど簡単な操作だったのですが、内部ではどれほど高度な処理が行われているのでしょう。

 とりあえず、分量的に試しやすかった「岩底の雑蟲」をPDF化してみました。
ganntei_no_zoutyuu__YOUDOU.pdf

 ルビも反映されます(上の「岩底の雑蟲」には含まれていませんが)。常用字以外への濁点も左詰の「゛」のルビで対応できます。縦中横も大反映です。禁則処理も、一切合切そのまま変換されるのです。素晴らしい。
 後ほど順次、リンクなどを追加していきます。
 
posted by 謡堂 at 16:28| 雑記

ランセリィの頭の柔軟体操コーナー (スクラッチ・クイズ)

 
 わたし、ヴュゾフィアンカとの戦いが終わったら、シェリスエルネスに首輪をつけてハネムーンに出かけるんだ♪
 ジャンボジェットをチャーターして、目的地は決めないで、何処にも辿り着かない常しえの旅をするの。
 そしていつしか永劫の果て、愛し合う二人は廃都のお星様に――歪んだ夜空を巡り続ける、帚星の住人になるのです!

 ……ところで、何のコーナーだっけ? あ、そだっ、クイズ!
 そんな夢一杯な旅客機の搭乗員さんの中で、一番のお洒落さんは、だーれだ?


答え: 副操縦士(服装重視) (←左クリック&スクロール)


 分かったかな? んじゃ、またね。バイバイッ。


・番外編
茜「で、そのハネムーンとやらに、あたしゃ置いてけぼりかよ」(ふて腐れて)
ラ「えー? だってお父さんに、酷いことは出来ないよぅ。時々、帰ってきてあげるから、それで我慢して?」(茜に身を寄せ、すりすりと)
シェ「……、酷いこと?」(眉を寄せ、腕を組み、言葉の意味を考え込む)
 
posted by 謡堂 at 14:23| 雑記

百物語 魚念仏 /話の採集者:悪龍妃ん所の鉄砲お嬢

 
 十五夜の晩ぁ、龍のお妃さまが、沖で月見酒の遊行ばなさるんだ。
 んだから、ワシら、漁さ出ちゃなんねぇ。
 そんのしきたりば破って、吾作さ、沖に漕ぎ出したこっさ。

 不思議な晩だったとよ。
 大きな魚も、小さな魚も、浅瀬にいる魚も、いつもは見もしねぇ魚も、わんさと海の面(おもて)に出てきてるんだ。
 波の数よりも多い鱗や背鰭が、風に吹かれた稲の穂みてぇんなって、月光に煌めいていることさ。
 皆、お妃さまのお伴なんだぁな。
 投網を打ちゃぁ、引いてる漁師の腕が痛くなっぐらい、魚がかかったんだとさ。

 するってぇとよ。
 舟の上に揚げられた内のぉ一匹が、吾作さ向けて、節をつけつけ囁きだしたことよ。
『帰りゃんせ、帰りゃんせ、ここはお妃様が酒肴を眺める波桟敷。それ以上の無作法は、決してお止し』
 吾作さ、取り合わずに漁を続けたことさ。
「すったこと言わんで、おらにも風流のお零れを分けてくんろ。何も、お妃さまの酒までお相伴にとは、言いやしねぇ」

 するってぇとよ。
 次に舟に揚げられた内のぉ一匹が、また吾作さ向けて、節をつけつけ囁きだしたことよ。
『帰りゃんせ、帰りゃんせ、知らぬか、海の御判行。今宵は十五夜、入ると酷い。悪妃様の雷立(かんだち)が、きっと、お前を焼き尽くすぞ、根こん際(ねこんざい)』
「こんな仰山の魚ぁ前にして、漁師がみすみす見逃す法こそねぇんだい。ちぃっとだけだぁ、ちぃっとだけぇ」
 魚如きの言うことに、いちいち傾ける耳もあるもんかい、ってな。
 そんな時間も惜しいとばかりに吾作さ、投網を打ち続けたこっさ。

 するってぇと、三度目だ。
 今度は舟に揚げられた魚ぁ、全部が全部、吾作さ向けて、一斉に叫びだしたことさ!
『痛い目見るぞ、いっぱい骨灰、五六杯! 今すぐ、あたしらを捕るのを止めないと、虎魚(おこぜ)の入道様が、きっと、お前を懲らしめにやってくるぞ!』
「まぁまぁ、も少し静かにしといておくれ。そう口を尖らせて叱られちゃあ、かえって止めたくなくなるもんさぁ」
 それでも吾作さ、引き返す素振りを見せやしねえ。
 しまいにゃ、布屑を耳に詰めて、栓をしちまった。

 こうなると、もう、魚どもも何も言わん。
 ただ、舟の周りの連中が、こう口々に嘆き合うだけなんだ。
『なめらさんぽう、南無三宝。しまったしまった、仏の顔の三回目』
『手遅れ手遅れ。入道様の思し召し』
『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』

 月光のしずしずと降り注ぐ、明るい晩だったとよ。
 油の膜に水を一滴落としたみてぇに、吾作さの舟の周りだけ、ぽっかりまぁるく魚の群れが引いていく。
 そこに海底(うなぞこ)から、ぬっ、と浮き上がる影があるこっさ。
 千石船より大きな虎魚の影だ。
 岩礁みてぇなゴツゴツの表面に、真っ赤な血と硫黄を混ぜたのかってぐれぇの斑の筋が入ってる。平べったい躯に、牙を剥いたおっかない顔を乗せて、坊主の袈裟を引っかけてやがるんだ。
 そいつが、背鰭の棘から猛毒の靄を漂わせながら、海面に口を近づけてくる。
 まるで、鯉が投げられた餌を呑み込もうとするみてぇにな。
 そうして吾作さ、ぱっくりと舟ごと食われちまったんだ。
 
posted by 謡堂 at 05:48| ◆聊枕百物語

裏竜宮衛士録

 
○虎魚入道(おこぜにゅうどう)
 袈裟を纏った巨大なオニオコゼ(鬼虎魚、鬼鰧)。

 得手の呪法は「三誶誅戮(さんすいちゅうりく)」。
 三度の警告の間に力を溜め、相手が従わないとみるや解き放つ、報復呪法。
 戦いで対手の攻撃を受けながら使うと、更に威力が跳ね上がる。

 変化の術は苦手。やむを得ず人間(っぽい姿)に化ける時は、後頭部にでっかい目玉が二つ並んだ、巨躯のお坊さん姿を取る。術を覚えたての当初、頭の天辺についてしまっていた口を、最近は何とか、鼻の位置にまで下げてこられるようになったらしい。
 何だか福笑いみたいなので、それを見ていると、裏竜宮の子供達は大層喜ぶそうな。
 
posted by 謡堂 at 05:37| ◆聊枕百物語

百物語 都市夜話「現代のオバリヨンたち」 /パルセイズ (魔が堕ちる夜/シニスター・ソワレ)

 
※含まれているのは偶然なのですが、震災の時期に不謹慎・不快かと思えた部分を隠しています。そこが無くても話は繋がりそうだったり。




 
 磯も静まる丑三つ時の、八潮路に波は影すら隠し、追いの帆風もぬるりと絶える。
 魚は鰓閉じ囁いて、揺れる玉藻も身振りを潜め、海すら己の欠伸の涙で鹹(から)くなりゆく。

 ふふん、妖の時刻に、こんばんは。
 天下無双の雷粧姫、十子の和風担当、パルセイズ様よ。
 ……るさいわね。
 海の底じゃぁ、こう言うの。陸(おか)の言い方なんぞに合わせる気は無いわ。ちなみに「鹹い」ってのは、香辛料で辛いんじゃなくて、塩気でしょっぱいっていう意味ね。
 とはいえ、日が暮れると人間共が怖がって家ん中に閉じ籠もる、なんてぇのも、今は昔の光景よね。夜更けに海へ出てくる漁師や釣り人は昔っから沢山いたけれど、最近じゃあ、陸の奥の連中も図々しいったら、ありゃしない。都会に至っちゃ、この時間でも平気で仕事はしているわ、店は開けているわ。挙げ句、少し周りのベッドタウンに目をやれば、暢気に駅からの家路を、てくてく歩いている、仕事帰りの奴までいる始末だし。
 もっとも? 生活が宵っ張りになったくらいで、あたしらの脅威を克服したと思って貰っちゃぁ困るわ。
 今宵はそんな、明るくて暗い、現代の夜道のお話。

 たとえば夜の繁華街とかを歩いていると、影が幾つも出来る事があるじゃない。
 勿論、それが怪奇現象じゃ無いのは知っているわ。街灯やら電飾付きの看板やらで、光源が幾つも別々の方向から照らしてくる所為よね。で、そういう別れて薄くなった影って大抵、最初はアンタの後ろの方に生まれて、歩いている内に前の方へ伸びて消えていく訳よ。何故なら、本人が路脇のネオンサインなんかを視界に入れつつ進んでいって、その前を横切って、次第に背中に背負うような形になるから。
 でもさ、眼ん玉、ひん剥いて、よく見ていてご覧なさいよ? 時々、斜め前に見えていたアンタの影が、すぅっ、と後ろの方へ流れて消えていく時があるんだから。「別に不思議なことじゃ無い」って? そりゃあ、隣を車に追い越された日とかにゃぁ、そうなるわよね? 後ろから近づいてきた光源が、アンタの横を通り過ぎて、遙か彼方へ走り去っていくんだもの。
 だけど、追い越していく光源なんか無いのに、明らかに変な動きをすんのがあるんだから。

 実はそれ、浮遊霊の仕業。この世に未練を遺して彷徨っているけど、その未練の内容が、もうぼやけちゃったー、とか、自分が死んだのは分かっているんだけど、何となく、まだ死にたくないなー、とか、そういった舐めた思考でふらふらしている雑霊の凝り固まりの。
 アンタの影が複数に別れて薄くなった瞬間に乗じて、その一つに取り憑いてくる訳よ。
 よく存在感の無い喩えで「影が薄い」って言うでしょ? 全く妥当な表現で、薄い影っていうのは、存在も弱けりゃあ、抵抗力も弱いのよ。しかも、「人形は人の形をしているから霊が入りやすい」ってぇのと同じ塩梅でね。人間の影法師には霊が憑きやすいわ。
 中には、薄くなっているのを見ると、特に理由がなくたって、するっと入っちゃう奴すらいるもの。
 状態が幽霊と似ているから、相性もいいんでしょうね、きっと。
 繁華街なんか、そいつらの吹き溜まりよ? 何の備えもなしに暢気に舗道を歩いていたら、そりゃぁ、対策ソフトも入れないでパソコンでネット巡回して、山ほどウィルスを貰ってくるよーな馬鹿を見るわね。携帯のアンテナが三本立っているか気にしている暇があるなら、自分の頭に毛が三本足りているか、心配しときなさいってなもんよ。
 ちなみに、今晩ここで話したい類の浮遊霊の目的は、アンタの影の一部をもぎ取って、自分が現世に止まる為の依り代として手に入れること。そうすりゃ、風にふらふらと揺らされ運ばれる身からおさらばして、自分で自由に動き回れるようになるからよ。

 でもね。
 邪魔な物があって、憑いても直ぐには、気儘な身にはなれないのよね。
 アンタの足首。

 そこで繋がっているから、まだ影を奪えないって訳。
 仕方がないから、憑依した霊は、憑依された影ごとアンタの背後で起き上がる。そして、ぺったり背中に張り付いて、時期を伺うの。虎視眈々と。
 もしも普段の生活で、ぼーっ、とすることが多くなって、エスカレーターに乗っている時なんかに、爪先が櫛板の飲み込み口にぶつかってから、ようやっと終わりまで来ているのに気づくようなことが頻繁にあったら、用心するといいわ。
 アンタに憑いた雑霊が、なんとか足首を切り離せないもんかと、意識に障って試行錯誤を繰り返しているのかもしれないから。いつ、もっと危ない物にぶつかって足首を刈り取られる羽目になるか、分かったもんじゃないわよ。
 例を挙げるなら、そうね……。倉庫作業でなら、ついうっかり、フォークリフトの車輪の下に足首を入れてしまうとか。駅のホームでなら、もっと簡単。列車が来た時に、思わず白線を踏み越えて、ジャンプをしたくなっちゃうわ。轢死体から、両の足首だけが見つからない、って寸法よ。
 アッ、と気づいた時には手遅れな訳。足首ごと影を奪われている。
 この世界じゃあ、ぱっとしない探偵への依頼は迷子の飼い猫探し、ぱっとしない退魔師への依頼は、行方知れずの足首探し、って相場が決まっているのよね。
 ついでに運も悪くなるわよ。頭上からの落下物や流行病には注意することだわ。
 そういえば人間は死んだ後、遺体が軽くなるっていうわね。それはどうして? 憑依霊が、影を抜いて持っていったからよ。
 こういう仕業をする雑霊を、あたしらは「つきもぎり」だとか「あしもぎり」だとかって呼んでいるわ。
 人間上がりの妖怪……とすら呼べない、低級で半端な連中共よ。こうして話の種になる内は、お目こぼしをして灼き尽くさずにおいてあげるけど。全くアンタらの出世魚っぷりには頭が下がる思いだわ。生きている間は有意義に妖怪の餌、くたばってからだって、怪奇の先棒を担ぐ霊魂稼業。順風満帆じゃない。頑張れば、ミジンコにだって成れるんじゃない?
 いっそのこと、霊長類なんて吹くのは止して、下等類とでも名乗ればいいんだわ!

 ……ちっと話が逸れたわね。
 ハン、夜道を歩く度、こいつらのことを思い出しなさい、人間。
 愉快な共食いショーの始まりよ?
 そぅら……、道端の雑草に気を取られたアンタの後ろで、憑かれた影が、すぃっと起き上がる。
 ほぅら……、一匹、また一匹と、踵から腰、アンタの背中へと、へばりついてくる!
 それから、どうなると思う?
 気が塞いでくるかもね。明日の仕事や学校のことを思って憂鬱な溜息を吐くのと同時に、奴らの指が背中の肉に食い込むの。もしも、ゾワリと背筋に悪寒が走ったなら、それは奴らの爪に背骨を引っ掻かれたんだわ。
 向かいの看板に目を奪われている場合じゃないわよ? 何せ、アンタの後ろ姿の方が、もぎり共に群がられて、よっぽど賑やかで派手なんだから。
 凄いわねぇ。もしも心霊写真を撮ったなら、アンタの背中で影法師が無数に犇き合っている絵になるわね。連中は重なると個々の判別がつかないから、まるで巨大なヘドロかアメーバが蠢いているようよ。
 ――そぅれ、肩や背中が重いでしょう? 良かったわね、重石要らずで海やプールに沈めるわ。都合良く足が攣ったりしてね!
 ――ほらほら、赤信号の真ん中で、いきなり立ち眩みになってダンプに突っ込まれるのは、アンタだわ! 湯船でだるくなって眠りこけるのも、布団で金縛りに遭ったまま心臓麻痺で連中の仲間に引き摺り込まれるのだって、アンタだわ!
 クルーズでうっかり船尾から落っこちて、スクリューん中に蹴りを叩き込む間抜け野郎も、ロッククライミングの最中に、何故だか無性に空を飛びたくなるメンヘルたんも、撃墜された戦闘機から折角脱出できたのに、肝心のパラシュートの開き方を物の見事に忘れているアンポンタンすら、アンタだわ!!
 何もかも、この世の不運事故縁を引っ被るのは、アンタよアンタよアンタなの!!
 アッハッハ! 怪談してるってぇのに、何だか愉しいわ!
 あんまりにも見ていて面白いから、思わず妖怪の餓鬼んちょ共は唄っちゃう!

『ちょちょんと足踏みゃ、音が出るっ。
 灯(ひ)の脇、横切りゃ、影が出るっ。
 夜の道には何が出る?
 ちょいと負ぶさるツキが出る!

 いろはっにほへと、とっ、数えましょ。一緒になってぇ、数えましょ!』

 ってなもんよ。
 人間の餓鬼共が、カブトムシとクワガタの勝負を周りで囃し立てるのと同じノリだわ。
 続きの歌詞と節は、こんなだったっけ。

『いーかで昇れや、月とツキ。一匹いいかーい、イの一番。
 いっこらせーっと、張り憑いたっ。

 六文銭は〜、要りませぬー。路用のお足を、くりゃさんせ。
 ろろろい浪々、彷徨うお足を、くりゃさんせっ。

 ばってん、やらぬと言うならば、剥ぎ取りましょお、そうしましょ♪
 脛(はぎ)よりも下を、くりゃさんせっ。

 にいばえ、にへさは、やっこっこ(新生え、贄多、奴っこ)。
 二のツキ、二の苦、群がって。にょんにょ、にょきにょき、にょっきにょき。

 ぽんつく太郎の骨を喰め!
 ほいと(物貰い)も集まりゃ、お大尽!

 へばるな、へたるな、へばりつけ!
 べっしり、ぺっしり、しがみつけ!

 どっさくさ紛れに、足を盗り、
 とっくと穢土の季、御覧じろ!』

 よく、「現代は明かりが増えたから、妖怪は生き辛いだろう」なんて言われるけれど、とんでもないわ。これはこれで、新種の愉快な物が見れるし、遊び場も増えるしで、良いもんよ。
 だいたい、あたしからして雷粧姫。光の化生だもの。弱る筈がないでしょう? 森羅万象悉く、それが増えたら人間の天下になるなんて、虫のいいことは考えないことね。
 世の中が明るくなって困るのなんざ、自分の不細工な面を表通りに晒せなくなる、あたし以外の女ぐらいなもんじゃない。そういえば、常夜の荒野なんて薄暗いところに引き籠もっている、占い屋の娘なんてぇのも居たわよね?
 ……あによ、シェリスエルネス。執事の水虫話くらいしかネタが無いからって、僻んで殺気飛ばしてくんの止めてくれる? アンタの面ぁ向けられると、蛙を見ているみたいで、怪談中だってのに吹き出しちゃうのよ!
 ふふん。青筋おったてて、悔しがってやんの。
 なにはともあれ、唄のお終いの方はこうよ。

『いーろはにほへと、っと、おツキ様、人(ひーと)の背中を昇って云った。

 所詮(しょーせん)、浮き世は鰻の寝床。
 兄さん、頭が重かろう?
 おじさん、肩荷が重かろう?

 駅(えーき)のホームの最前列で。
 エースカレータの天辺(てっぺん)で。
 前(まーえ)に後ろに、み〜んな、倒れた。
 電車の車輪が足首轢いた、重たいトランク落っこちて、脛から下を潰(つーぶ)した。

 せよせよ隠せよ、千切れた足首。
 らんらんやらん、もうやらん、これらは捥いだツキの物。

 きって、たって、にっげろ♪
 きって、たって、にっげろ♪

 向こうは自由な一丁目♪』

 まぁ、この後は大抵、妖怪の悪餓鬼共が棒切れでつっつき回して殺しちゃうんだけどね。

 無論、全部が全部という訳でもないわ。
 その後の人間との遭遇例も、きっと、あることでしょう。
 夜道を屍蠟化した生足首が、ぺたん、ぺたん、と千鳥足で歩いてくる。
 ふらふら、ふらり。ゆぅらり、てくたく、ゆぅらゆら。
 まるで花見の客が、ほろ酔い加減で彷徨っているみたい。
 近くの塀を見てみると、月光の元で幾つもの人影が、生足首の踝の所で繋がりながら蠢いているの。全員で一人の足首をもぎ取ったから、今度は船頭が多すぎて行く先が定まらない訳ね。元々意志薄弱で主体性の無い連中の集合体だもの、一瞬一瞬ごとに我の強い奴が入れ替わるわ。そいつが音頭を取って歩き出して、すぐにどうでもよくなって別の奴に主導権を渡すから、酔っぱらいじみた進み方になる。
 だけど、間抜けそうに見えても、アンタらは手を出さない方が懸命よ。
 人を一人不幸にした雑霊は、流石に少し格が違ってくるし、生者が近づいた時だけ、そいつらは一致団結、急に素早く動いて駆け寄ってくるから。
 見かけたら、さっくり逃げておきなさい。
 絶対に、影を踏まれては駄目よ?
 そうされたら、どんな目に遭うかは……、くく、ご想像に任せておくわ。

 ん? その前、もぎりに憑かれた時の対応策や予防策は無いのかって?
 ハン! あんな弱っちい低級霊共に、そんな物は必要無いわ!
 宿主が健康的な生活を心がけたり、オタクっぽく深夜アニメでハッスルしたりするだけでも、馬鹿らしいほど呆気なく消滅していくのよ? そいつの充実した気力に負けて。
 どうしても不安だってんなら、休日にでも、公園のベンチに座って日光浴しなさいよ。背を丸めて暖かな太陽を受けるといいわ。奴ら、勝手に蒸発していくこと請け合いだわね。

 最悪なのは、影が動くのが「影引き入道」の仕業だった場合よね。
 別名は、「辻入道」に「辻吸い入道」、「袖引き入道」「影吸い入道」「魂引き(たまひき)入道」などなどなど。色々あるわ。
 土佐犬サイズの海坊主みたいな、ちっこい奴でさ。アンタの後ろを、ちょこちょこ付いて回ってくんの。んで、アンタの影が幾つかに別れる瞬間に乗じて、その内の一つを、ずるっっ、と吸い込んでくる訳よ。もぎり共と同じく、抵抗力の薄い状態を狙ってくる訳。
 効果はレベルドレインよ。能力値が永遠に1下がるの。萎えるったら、ありゃあしない。
 何故かっていったら、奴らに影を吸われるのは、魂を吸われるのと同義だからだわ。
 ちびちびと、ちびちびと、つまみのさきいかを更に細く裂いて口に入れるかのように、たらふく肥えた相手の霊魂から、僅かな活力を引き剥がして喰らっていくのよ。もしも特定の犠牲者だけが狙われて、しつこく食事を重ねられれば、遂にはそいつは起き上がる気力も失って、後はただただ、最期までしゃぶられ尽くすのを待つだけになるでしょうね。
 せいぜい用心することね。自分の影は、きちんと全部見てなきゃ駄目よ? あいつら荷物の置き引きみたいな連中だから。意識の隙を見せると、ずるっっ、とやられるわ。
 ……そう。意識さえしていれば、影を吸われることは無いわ。元々の持ち主はアンタで、根っこの所で強く結びついているんだもの。
 それが難しければ……、ふふん。他の奴がアンタの影が引かれていることに気づいて、「あっ」とでも驚いた声をあげてくれれば、それでも防げるわよ? とにかく、本人や余人に注視されたり気に留めたりされていると、影引きは出来ないみたいね。
 でも、どうよ? 他人への無関心がマナーになっている都会では、この防衛策は諦めた方がいいんじゃない? 悪い所では、無関心どころか、隣人への警戒心が先立っているくらいだものね? 気休めにだって、なりゃあしないわ。ここだけ見たって、現代があたしらを駆逐したなんて、とてもとても。

 とはいえ、影引きの連中も大変なのよ。
 やることは凶悪なんだけど、生態は惨めったらしくてさぁ。
 あいつら強い光が弱点で、それで照らされると消滅しちゃうの。
 だから昼間はじっと物陰に潜んでいて、夜になると獲物を求めて徘徊し始めるわ。その時でもおっかなびっくり。トラックがライトを点けて近づいてきたら、気配を感じただけでも逃げ隠れるし、人間の後を付ける時だって、暗がりから暗がりへと素早く移動しながらで、探偵の尾行かってぐらい慎重かつ滑稽だわ。
 それでも不意打ちには敵わないんだけどね。
 曲がり角や交差点を観察していると、よく標的を追跡中の影引き入道が、飛び出してきた車のライトを瞬間的に浴びて、悲鳴を上げる間もなく消滅していっているわ。
 雷が光った日には、街中で大量虐殺よ。
 こいつら、雑霊共よりは高等でやり口も手早い癖して、光源の多い繁華街とかには滅法弱いのよね……。だから、主な活動場所は……、人間の周りだと――、街灯が、ぽつんぽつん、と等間隔で立っているだけの夜道とか……? 弱い光源が数個ある、ぐらいの環境が丁度いいみたいね。これが田舎になると、今度は逆に真っ暗闇で影が出なくなって困るようだわ。……面倒な奴ら。深さと明るさで棲み分けている深海魚じゃあるまいし。
 長老共に云わせると、古き良き妖怪の風情がある、なんてぇことになるらしいけど……。ハン! 単に脆いだけよ! 見ていて、苛つくったら!
 人間の家の玄関や庭塀にさ? 防犯照明ってのがあるじゃない? 誰かが近くを通ると点灯するっていう、人を泥棒扱いしてくれている奴。酷い時には入道共が、尾行相手が点けたそれに照らされて、火傷を負ったみたいになって、わたわたと逃げていく訳よ。
 ……この手で滅ぼしてやりたくなってくるわね、本当にっ。
 うん? そいつらを退治したら、ドレインされた能力値が戻ってくるかって? まさか! ないわ! アンタ、正気で言ってんの?
 お生憎様、吸われた物は、永久に戻ってこないわ。あんたがぽっくり逝ったって、腹の中から去年食べたおにぎりが出てきたりは、しないでしょ? だから鬱陶しくて、妖怪仲間からも嫌われ切ってんのよ、あいつら。そう。あたしらだって、気を抜くと影を吸われるの。
 さっきも話したけれど、連中が何よりも恐れるのは、強い光でパッと照らされること。そして、最も恐れる季節が、雷鳴轟く日本の夏よ。今は四月に入ったばかりだから、大量駆除は、もう暫くお預けね! それまではせいぜい、夜道でビクビク後ろを振り返り振り返りしつつ歩いたり、御祓い師にでも縋って過ごしたりしたらいいわ!
 もしも、あれやこれやの艱難辛苦に耐えて影引き入道が百年を生き延びると、縞柄の黒い猛虎だとか、黒髪自慢の絶世の美女だとかに変化するらしいんだけど――。
 ま、その話は、またの機会なり、他の連中の話なりに譲っておくとするわね。

 さて。
 今宵のあたしの話は、これでお仕舞い。
 人間風情がどう足掻こうと、世には怪奇妖異が溢れている訳よ。
 どう? ちったぁ怖くなってきた? 恐ろしくって夜道を歩けそうにない?
 もしもそうなら、そうに決まっているけれど、ここからこそが本題本題っ。

 この前さぁ、床屋に行ってきたのよね。髪結い床じゃなくって、パチパチ切る現代風の方の。鋏の付喪神がやっていて、豆電球代わりに釣られた金魚鉢が、水とビー玉を詰めてキラキラ光ってんの。
 でさでさ、折角のあたし様の綺麗な髪を、涎を垂らした掃除機なんかに吸わせるのって、勿体無いじゃない? だから適当に拾ってきて、お守り袋に封じてみたわ!
 なんたって、この雷粧姫様の御髪(おぐし)だもの、御利益は抜群よ!
 悪霊除けに、影妖払いに、お一つ如何? 沢山出来たから、お安くしとくわよ?

 ……あ、口喧しいビュージーが、顰めっ面になった。何よ、女が自分の髪を売って、何がいけないってぇのよ。お呼びじゃないわ、引っ込んでなさいよ、ヒス年増。
 
posted by 謡堂 at 02:14| ◆聊枕百物語