2021年05月24日
百物語 悪魔の善意 /語り手:ヤキナ・オブゼ
ケッケッケェ、はぁい、皆さん、こんばんはぁ。
お節介を心臓に生まれてきた魔界の道化師、ヤキナ・オブゼの姉ちゃんですよんっと。
今宵も、良い百物語日和でござんさぁねぃ。
と、話の前に……、ちょいちょい、そこの人間さん。
そうそう、そこの、あんたさん。
この福引きのガラガラ、回していかんかねぃ?
いやね、行きつけの商店街の活性化にでもなれればってねぇ、開催してみたんだけんどもねぇ、景品が大分、余っちまってねぇ……。
うんにゃあ、回してくれる人は居たのさぁ。だぁけど、誰(だぁれ)も当たった景品を受け取ってくんなくてねぇ。……足りなくなるよりマシったぁいえ、人間ってぇのは、無欲なもんさねぃ?
さて! そこでアンタだ!
券はいらねぇ! 好きなだけ回して構わねぇ!
見事、豪華粗景品を引き当てて、用意した品々が山のように残っちまって、ちょっぴり傷心なヤキナ姐さんを、よしよしと慰めてやっとくんな!
正直、抽選無しで残り物を全部、御進呈しちまってもいいんだが、そこは雰囲気作りってぇことで、一つご了承頼んまさぁね!
……。
…………。
………………。
(チリンチリンチリン!!!)
はぁい!! おぉぉめでぇぇぇとさぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!
いやあっ!! 凄いねぇっっ、持ってるねぇ!!
一発で特賞と来たもんだ!!
きっと景品の方でも、アンタに貰われたいと思ったんだろうねぃっ!
はいっ、これ、特賞Aの『特製ミニチュア・ブラックホール』。
夏休みの観察日記に最適!
子供の科学離れを防ぐにゃあ、実物を見せて興味を惹くのが一番!
創ってやった学者先生、悲鳴を上げて喜んでくれてたっけなぁ!
そいよ、確かにお渡し致しやしたぜぇ♪
後、ちょぉっと待っててなぁ、今、持ち帰る用の紙袋ぉ出してやっからねぃっ。
どぉぉこぉにやったかねぇ〜、ガサゴソ〜っと。
――へい、お待ちぃ! って、あれ? 人間さん? おんや、おんや、人間さん、ブラックホール置きっぱなしで、何処に行っちまったんで?
えぇぇぇぇ! またかい!?
人間ってぇのは、絶対に福引きの景品を受け取らねぇってぇ信条でも持ってんのかねぃ?
おい、お前さんら。そこでアホ面ぶら下げてる魔物連中のことさぁね。
今の人間さん、何処に行ったか知らねぇかい?
良いもん当たったウキウキ気分で、肝心の景品忘れて帰っちまったってんなら、追いかけて届けてやんねぇと。いや、そもそも怪談も、まだ聞いて貰ってねぇ訳だけども。
……え? 金輪際、関わってやらないことが、せめてもの供養?
もう、放っておいてやれ?
何、言ってんのさぁ?
……仕方ねぇなぁ。
景品も玉も、元に戻しておくかね……。
気ぃ取り直して、あたしゃ怪談を始めますよっと。
さてさて。
世間様じゃあ、怖いもん、悪い奴の代名詞にされちまってる悪魔ってぇのは、実は人間のことが大好きな奴らなんだなぁ。
そりゃもう、人間を猫っ可愛がりで、お節介焼き。助けになってやりたくって仕方が無い! ってぇ連中なのさ!
だけんど、悪魔なもんだから、人の助け方ってぇのが、よく分かってねぇんだな。
手ぇ出すと、必ず相手の人間を不幸にしちまう、可哀想な連中でもあるのさね。
あ、さて。
今宵、このヤキナ・オブゼが語りまするは、そんな悲劇とも喜劇ともつかねぇ傍迷惑なお話で――、
――あん? もういい? もう分かった? 何がでぇ?
――一度に二話、演(や)るのは、ルール違反? だから、これから一つ話そうってぇ話じゃないさね。
おいおいおぉい! 語り手を引き摺り降ろそうってなぁ、どういう了見でぇ! まだ枕が終わったばっかじゃねぇか!
はぁ!? あたしゃ、悪魔じゃなくって魔物――――!!
posted by 謡堂 at 16:13| ◆聊枕百物語