2010年01月16日

百物語・水虫と人面疽 /語り手知らず(怪集/2009、投稿)

 
 おう、人面疽の熊八ってもんだ。よろしくな。
 こん間、呪詛に呼ばれてよぉ、とある人間の右足の裏に憑いたんよ。したらそいつ、酷ぇ水虫で。冗談じゃねぇ。爪先に近かったもんだから、瞼は痒い、鼻ん穴はムズムズして水っ垂れが止まらねぇ、唇の皮なんかベロンベロンと剥けやがる。てめぇ、笑ってねぇで想像してみろや。日中、蒸れた安全靴ん中に足ごと突っ込まれてる俺っちの苦境をよ。
 手がねぇから掻くことも出来やしねぇんだ。
 そん時ゃ古式ゆかしく恨み言ぉ呟きながら広がってって、そのまんま俺っちの居座った右足が頭、奴さんの頭が右足、ってな具合に躯を乗っ取ってやるってぇ趣向だったんだが……、相手の腰辺りから自分の腕が生えてきた時ゃぁ本当に快感だったぜぇ……。一日中、痒い所を掻きまくってた。
 でもな、いいことばかりじゃねぇ。あろうことか、水虫まで俺っちの成長に合わせてついてきた。全身の皮膚に広がり始めやがったんだ。
 逆に、躯を奪われる当人は清々しい表情してやんの。見ろよ、この右足の裏の豆粒。これが、そいつ。痒みは全て俺っちが引き受けてっから、こいつには伝わらねぇ訳よ。
 ……あん、何か言ってんな。んだと? てめぇがてめぇで儀式して? わざと……自分の足ん裏に俺っちを取り憑かせたってのかぁっ? 水虫から逃れる為だけに、こうなることが分かってて?! っざけ……おい、幸せそうな顔して消えてくんじゃねぇよ!!
 ……ちっ、完全に俺っちに吸収されちまったな。こうなると、この躯は晴れて人面疽の物ってことになんだが……、畜生! 痒い!! 肌は菌でふやけきっちまってグズグズ、眼球も濁って物が良く見えねぇ。立てば全身痒みの焼き鏝刑、座れば膝ん裏と尻ん谷間でカイカイダンス、インキンタムシィぶらっ下げて歩く姿は水虫ゾンビっとくらぁ!
 堪らず爪で掻きゃぁ、血が滲むわ膿が出るわ。治る時の瘡蓋が余計に痒くなるし……、気ぃ狂うぜ……っ!! 最近じゃぁ魚の目まで併発して、肌やら腹やらゼニゴケみたいによう。こっちは服ぅ着てると痛ぇんだ。
 ヒヒヒ、俺っちも誰か仲間の人面疽ぉ喚んで、足の裏にひっつけてみっかなぁ。お前ぇとか。
 それとも、こんな席に何食わぬ顔で混ざって妖怪の怪談話ぃ盗み聞きしてる、そこの人間とかよ。
 
 
・掲載ページ
 http://www.kaisyu.info/2009/list/97.html

○遺伝元
・消しゴム (消える事、繋がり。後、好きな作品なので繋げたかった)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/57.html
・ループ (ループ展開、繋がり)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/58.html
・セックスと呪いと馬鹿娘 (人面疽っぽい物、繋がり)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/89.html
 
posted by 謡堂 at 17:36| ◆聊枕百物語