2010年01月18日

百物語・脈とり虫 /語り手知らず (怪集/2009、投稿)

 
 小学生の頃、不思議な物を見た。
 爺ちゃんが危篤で病院のベッドの周りに親族縁者が集まっていた時のことだ。
 当時の俺は人が亡くなるという事が分かっていなく、心電図モニターの様子を固唾を呑んで見守っている父母達の隣で、ぼけーっと突っ立って、静かな寝息を立てている爺ちゃんの姿を眺めているだけだった。
 そんな時だ。掌を天井に向けてシーツに横たえられていた、枯れた腕の手首の所に、一匹の尺取り虫らしき物がちょんと乗っかっているのに気がついたのは。
 への字になって、脈の所を頭でぐっと押している。
 やがて心臓の停止を告げるピーという音が鳴ると、そいつはもそもそと生の鼓動の失せた手首から降りて何処かへ去っていってしまった。

 こんなことを思い出したのも、俺が、事故を起こして暴走寸前の原子力発電所で懸命に復旧作業を行っているからだろう。
 目の前の太い冷却水パイプに見覚えのある虫がへの字になって乗っかっている。
 細かい説明は省くが、このパイプが止まると炉心の溶融が決定的になる。
 まさか、まさかな。
 やめてくれ……。
 離れるな――、まだ離れ――っっ!!
 


○修正点
・「掌を天井に向けてシーツに横たえられている枯れた腕の手首の所に、」→「掌を天井に向けてシーツに横たえられていた、枯れた腕の手首の所に、」


・掲載ページ
 http://www.kaisyu.info/2009/list/49.html

○遺伝元
・あの日から (臨終シーン、繋がり)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/7.html
・虫で (虫で死亡、繋がり)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/32.html
 
posted by 謡堂 at 20:43| ◆聊枕百物語