2014年12月04日

百物語 ゴシック子守唄『森妖精ハイドハイドキギー』  /唄い手:シェリスエルネス

 
 葉っぱが 隠すよ さわさわ、わささ
 夜道を 隠すよ さわさわ、かささ
 気がつきゃ お前は 崖の縁
 もしくは、もしくは 滝の上
 しまいにゃ、しまいにゃ 土の中?
 


【おまけ会話】

Q:「危ないから、夜に森の近くへなんて行かないでおくれ」、そんな、親の切実な想いの篭もった魔界の子守唄を聴いた、ご感想を、ランセリィさん、どうぞ。

ラ「うわあっ、夜の森って、そういうドキドキがあるんだね! 行くのが楽しみー♪」


Q:こんな無情な返答を聞かされた、ご感想を、シェリスエルネスさん、どうぞ。

シェ「あら? この唄って、『今度、親子で夜の森へピクニックに出かけましょうね』っていう唄じゃ、ありませんの? 私(わたくし)、てっきり」
 
posted by 謡堂 at 23:27| ◆聊枕百物語

怪談を語った経験点による成長

 
・シェリスエルネスが、下記の臣下を捕獲!

★名前:森妖精ハイドハイドキギー
 分類:ミスチーフ・フェアリー(悪意は無いけど迷惑な、悪戯者の妖精)
 属性:中庸・迷惑・森林・小人
 解説:
 かつてシェリスエルネスに悪戯を仕掛けた所を取っ捕まって臣下に加えられた、森の妖精。
 現在は、魔城の庭園にて庭師(ガーデナー)に任命されている。
 常夜の荒野に自分の森を創れないか、思案中。


・シェリスエルネスが、呪歌『森妖精ハイドハイドキギー』を修得!

★名称:呪歌『森妖精ハイドハイドキギー』
 効果:歌声の届く範囲内の全ての存在に効果。対象を睡眠状態に陥らせる。

 このスキルは君主補正の対象となる。
 臣下に加えている妖精達の数や属性の偏り等に応じて、効果が変動する。
 以下は一例。

◆モード:ファニー・フェイ
(条件:臣下の妖精達が、陽気かつ穏健寄り)
 対象を睡眠状態に陥らせる。
 対象が味方であった場合、睡眠中にHPとMPを徐々に回復させ、睡眠が1ターン継続するごとに、ランダムなバフ効果を一つ与える。
 対象が敵であった場合、睡眠が1ターン継続するごとに、スキルをランダムに一つ忘却させる。特定の儀式等で回復させない限り、これは永久に失われる。
 対象が味方でも敵でもない場合、睡眠中にHPとMPを徐々に回復させ、睡眠が1ターン継続するごとに、対象が受けているデバフ効果をランダムに一つ解除する。

◆モード:スプリー(馬鹿騒ぎ)
(条件:臣下の妖精達の数が多く、かつ、合計で333属性以上を持っている)
 対象を睡眠状態に陥らせる。
 また、対象の睡眠が1ターン経過する毎に、眠っている対象を中心として、呪歌の再判定が行われる。再判定範囲は、最初の効果範囲と同じ。
 再判定によって眠りに落ちた者にも、以後同様に再判定が生じる。
 いわゆる眠り病が、蔓延していく。下手をすると、国一つ、世界一つが眠りに包まれる。

◆モード:クルーエルティ(残酷)
(条件:臣下の妖精達が、邪悪寄り)
 対象を睡眠状態に陥らせる。
 睡眠から目覚めない状態が3ターン続いた場合、対象は死亡する。
 
posted by 謡堂 at 23:01| ◆聊枕百物語

2014年02月08日

百物語 猫。 1 /話の採集者:木戸茜

 
 夜、寝ていると、何かに頭をペシペシと叩かれて眼が覚めた。
 うちの飼い猫である。
 彼は用事があると、枕元に座って、寝ている私のすだれ頭を叩いてくる癖が有るのだ。

 さて、相手をしてやるか、と思い、寝返りを打とうとすると、今度は、胸が重たい。
 これもまた、うちの飼い猫である。
 寝ている私の布団に忍び込んで、胸の上で丸くなる癖が有るのだった。

 ……はて。
 我が家に飼い猫は、一匹しかいない筈なのだが。
 はたしていつから双子になったのであろうか?
 
posted by 謡堂 at 18:42| ◆聊枕百物語

百物語 猫。 2 /話の採集者:木戸茜

 
 夜、寝ていると、何かに頭をペシペシと叩かれて眼が覚めた。
 うちの飼い猫である。
 彼は用事があると、枕元に座って、寝ている私のすだれ頭を叩いてくる癖が有るのだ。

 さて、相手をしてやるか、と思い、寝返りを打とうとすると、今度は、胸が重たい。
 手で撫でてみると、これもまた、うちの飼い猫である。
 寝ている私の布団に忍び込んで、胸の上で丸くなる癖が有るのだった。

 ……はて。
 我が家に飼い猫は、一匹しかいない筈なのだが。
 すると枕元の方のは、一体何者であるのだろうか?
 
posted by 謡堂 at 18:40| ◆聊枕百物語

怪談を語った経験点による成長

 
・シェリスエルネスの魔城の猫達とランセリィが、以下の特殊能力・スキルを獲得!


◆ 漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション):B〜A&不明
 己が身を不確定の中に置き、複数の場所に遍在する能力。
 他者から明確に認識された場合は、常に一体に収束してしまう為、戦闘行為には適さない。もしくは、非常にひねくれたバトルセンスを要求される。
 また、互いに独立した場所で別々の他者から認識された場合などには、同時刻に自分が二人存在する事もあり得る。しかし、この状態は長く続かず、最終的に必ず一人に収束する。
 常理に対する欺瞞は世界からの除外に繋がる為、使用者は常に不吉に晒される。

 通常は猫が生来取得している能力だが(一説には仔猫の八割)、猫っぽければ誰にでも発現する可能性のある、傍迷惑な能力である。
 効果の割りにデメリットが大きい為、誰かの掛けた呪いであるとも言われている。

 魔城の猫達の修得ランクはB〜A、ランセリィの修得ランクは不明。


・ランク別効果、参考表

E:
 いわゆる離魂病・ドッペルゲンガー現象が起きる状態。これ一つがそれ全ての原因では無い。
 本人に自覚は無く、あちらこちらでふらふらと収束しながら、しばしば夢遊病者的な突飛な言動を取る。
 同時に二箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。

D:
 いわゆる離魂病・ドッペルゲンガー現象が起きる状態。これ一つがそれ全ての原因では無い。
 本人に自覚は無く、あちらこちらでふらふらと収束しながら、日常的な言動を取ろうとする(多少、己の認識や存在を保てている)。
 同時に二箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。

C:
 自覚的に能力を扱えるのは、このランクから。
 といっても、任意に発動したり効果を制御したりは出来無い。「適応する」、「流れに上手く乗れるようになる」と言うのが近く、現象の発動時に、情報入手等の利益を得る確率が上昇し、ペナルティ等の不利益を蒙る確率が下降する。経験者によると、「明晰夢(夢だと気づいている夢)を見ながら、その夢の中で手足を思い通りに動かそうとする感じ」、らしいが詳細は不明。
 同時に三箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。
 また、不確定として遍在している状態でも、夢を見るような形で場の光景を認識出来る、「漂視」が発動するようになる。夜中にふと背後から視線を感じたり、猫が何も無い空間をじっと見詰め(返し)たりしている理由の一つは、これである。

B:
 現象の発生頻度と、漂視の精度が、上昇する。
 もしも噂好きなお城のメイド達の輪の中に、このランクの発現者が混じっていたならば、そのお城では秘密に出来る事柄がとても少なくなることだろう。
 決して見られていた筈の無い言動が、何故か人々の口に上っているのである。
 同時に三箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。

A:
 現象の発生頻度と、漂視の精度が、大幅に上昇する。
 最早、気がつけば奴がそこに居る、レベル。
 もしも、この能力を鼠狩り(スパイ狩り)に用いたならば、エキスパートになれることだろう。但し、その調査結果を主人に報告するかどうかは、気分次第であるのだ。困ったことに、そういう気質の持ち主にしか、この能力は発現しない。
 同時に『使用者の尾の本数』箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。
 魔王ザーバッハの軍勢においては、諜報局長ヴェルディベルディが積極的に発現者をスカウトしているが、気質の問題で当てにはしていないらしい。また、ザーバッハ本人は、この能力の発現者を殊の外気に入っていて(除、ランセリィ)、城内での無制限の自由を与えているのだが、同時に敵視していて激しい弾圧を加えているらしい。

EX:
 不確定に溶け込み過ぎて、誰からも存在を認識されなくなる。
 一説には狂気の道化師になるとも、世界に干渉できない観測者になるとも、モブキャラとして永遠に背景に紛れ込むとも言われている。


◆ 縮地(偽)
 「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」を利用して、場に遍在し収束することで、一瞬にして他の位置へと移動するスキル。
 最大移動距離は、使用者の遍在できる範囲に依存する。
 一瞬だけでも相手の気を逸らさなければならない為、戦闘時の使用には狡猾さが要求される。


◆ Cats are still indefinite fortunately. (猫は狭間で微睡めり)
 場に遍在することで、複数の気配を相手の感覚器へ送り込み、混乱を招く、フェイントスキル。
 相手が気配に鋭敏であればあるほど効果は高まるが、「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」の利用を看破されてしまうと、逆に自分の位置を相手の都合の良いように収束させられてしまい、回避修正に大幅な下方補正を受けることとなる。


◆ Cat is already definite unfortunately. (猫の目覚めは、不幸の目覚め)
 場に遍在する自分を一人の相手に複数同時に観測・認識させ、それらが一体に収束する際の超常的速度を利用することで、刃の切っ先をその喉元へと届かせる必中スキル。
 但し、これには「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」のペナルティ発動の危険が常に付き纏う。
 別名、一人トライアングルアタック。


◆ キャッツ・サプライズ
 特に変哲の無い、バック・アタック。
 前でも横でもいいが、とにかく相手の死角に出現するスキル。
「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」を利用している為、誰かの視線に晒されていると使用出来ず、通常は奇襲・暗殺用。
 相手のパーソナル・スペースを平然と侵犯する図々しさが要求されるので、「縮地(偽)」よりも難易度は高い。


◆ 影患い
 たとえ殺されても不確定な自分が殺害者の周辺に延々付き纏うという報復スキル。
 その影が殺害者を殺害し返した場合、使用者は復活する。

 復活の仕方は使用者の個性により、様々。
例:
・殺害者を殺害した影が、使用者本人となって復活する。
・殺害者を殺害した影が、魔として独自の自己を確立する。使用者とは別人である。
 同時にどこかで使用者が復活する、もしくは、使用者は復活しない。
・影に殺害された殺害者になりすまし、使用者が復活する。
 
posted by 謡堂 at 18:29| ◆聊枕百物語

百物語 海女緒抜き(あまおぬき) /語り手:裏竜宮のうわばみ

 
 はい、お世話様。
 和風ネタを独り占め、パルセイズ様よ。
 海縛りを掛けても全然余裕。当分は、あたし様の天下が続きそうね――ずっと続いても、それはそれでブログの活気的に困るんだけど。
 ……どこぞの忍者共も、怪談ぐらいやんなさいよねぇ。
 え? 「忍は影、ブログの陽(ひ)には当たるまじ」? ……ここってすっごい日陰じゃない。まぁ、いいわ。

 さーて、あれは裏竜宮で新年会を開いた時のことだったわね。宴も酣(たけなわ)、皆、酔いが回って、テンションが妙な案配になってきた頃合いの出来事よ。

 あたしだって、年がら年中、飲兵衛をやってる訳じゃあ無いわ。
 ふと、真面目な思索に耽ることもある。
 そう、どうにも隠し芸で、お酒を満たした陣笠達を傘の上で回すのも、マンネリだなぁ、って。ひっくり返して零れるのを一口で呑んでみせたり、回転中のを、ずらり、と並べて作った橋の端から啜ってみせたり、摩擦熱で燗をして振る舞ってやったり……、色々やり尽くした感があるし、だいたいそういう、ちびちびした呑み方って、この雷粧姫様には相応しくないなぁ、って。
 思い立ったが吉日って言うじゃない?
 早速、席を外して、餅搗きの臼でも探しに出かけることにした訳よ。

 そしたら、座敷の出入りん所に邪魔な奴がいる。
 開けっ放しになってる襖の真ん前でさ? 何を考えてんだか、出たり入ったり繰り返してんのよ。

 不気味な奴だったわね。一瞬、首吊り死体が鴨居から下がって、ぷらぷら、してんのかと思ったわ。それだけ辛気臭くて陰鬱な雰囲気だったってこと。足音もさせずに、俯いて、ただただ座敷の内と外とを往復してんのよ。
 両足でびっこを引いてるみたく、滑る、というよりは、ずり落ちるように前へ進んで、亀が油ん中で寝てるのかってぐらい重っ苦しく身を返す度に、畳の藺草の匂いに混じって厭な――魚の腐ったような臭いが吹いてくる。

 人間的に言うなら……悪霊? 触ったら、見境無しに祟ってきそうな感じ。
 蹴っ飛ばしてどかそうとしたら、驚いたわ。
 悪龍妃なのよ。そいつ。よく見たら。あり得ないわよね、たった今、呑んだくれてる本人の隣から抜け出してきたってのに。現に振り返ったら、上座で管ぁ巻いてたし。

 ま、あたしも少しは酔っていたんでしょうね。
 ほっときゃあいいものを、「こいつはからかう絶好の機会だわ!」とか思っちゃって。
 そいつの肩を掴んで、本物の悪龍妃の方へ向かせて、言ってやったのよ。
「ハン、悪龍妃! 酒量に押し出されて、あんたの節制心が彷徨い出てるわよ!」ってね。

 したら、座がきょとんとして、それから爆笑されたわよ。
 なんでよ? と思って偽者の方に振り返ったら、あら、不思議。ていうか、ムカツク。

 そいつの姿が、悪龍妃の隣にでっかい図体を牛ぐらいに縮ませて座ってた虎魚入道になってるし。しかも、周りのことが分かってるんだか無いんだか、そのまま、あたし様を無視して、うっそり出て行こうとする訳よ。
 だったらと思って、敷居を跨ぐのを引っ捕まえて座敷ん中へ向かせて、同(おんな)じように虎魚入道に見せてやろうとするわよね? そしたら、今度はまたまた、その隣でちょっかい出してた磯鬼に変わってる。
 道化だわ。「アンタが二人いる!」って指差して騒いだら、実は別人と取り違えてましたってのを、何遍もやらされるんだから。

「お前は親の顔も忘れたのかい」とか、「俺みてぇな面は、この世に二人もいませんや」とか、あたしの方がバカにされちゃってさ。酔いどれ扱い。
 つまんないから、放っておいて、厨房だか蔵だかを目指したわ。
 したら、廊下を進んだ、そのちょっと後で、おかしいことに気づいて大騒ぎになってやがんの。あんの、ぼんくら共。
 ……何がおかしかったのかって、説明する必要は無いわよね? いくら人間のおつむでも?
 全く。だいたい、妖が、簡単に姿格好を真似されてんじゃあないってぇの。

 はい、お仕舞い。お粗末様。

 後から考えてみると、どうも敷居を越えて出る時に姿が切り替わってたみたい。
 何の意味があるんだか。

 犯人は「海女緒抜き」よ。
 別名、「違え蛤、亡行面(もっこうめん)、亡面來(もめんきぃ)、潮狐狸、海の芒、海尾花」。
 普段は海女さんとかダイバーを嚇かしているわ。あれね、海の中で自分自身が正面から泳いでくるのを見つけて、ぎょっ、とするんだけど、よく見たら別人で、ほっ、とするんだけど、でも後から考えたらそれは実は、自分の後ろにいる筈だったり、先に上がったりしている筈の人間で、やっぱりゾッとするって奴ね。

 やってることは皆が知ってるんだけど、目的とか本当の姿とかは誰も知らないのよね。
 何なのよ、あいつ。
 
 ……うん? それより、臼の方に興味がある? どうなったって?
 ……あれは、駄目ね。重たい割りに、大して中身が入らないし。
 五右衛門風呂が良い案配なんだけど、今ん所、一つ回すのがやっとだから、芸の幅が狭くなっちゃうのよねー。
 
posted by 謡堂 at 17:44| ◆聊枕百物語

怪談を語った経験点による成長

 
・パルセイズが、以下の特殊能力・スキルを取得!


◆ 酔染郷(すいぜんきょう):A
 酒に酔うことで自他の境界を曖昧にし、己の同一存在を複数生み出す能力。
 その効果は、本人の酔いの深さと気分の良さに比例する。
 同一存在の出現位置は、通常本人の周囲に限られるが、これは本人の認識範囲の内側にしか生じないという理由からなので、その範囲が広かったり特異だったりする者(例:神、狂人)に関しては、その限りでは無い。
 西洋では、ドランカーズ・レギオン、アルコール・ドッペルゲンガー、などと呼ばれる。

 半龍たるパルセイズには、以下の効果が現れる。
○戦闘時
 自身の龍としての姿である黄金龍が一頭生じる。騎乗可能。
 頭数が増えない代わりに、酔えば酔うほど両者のステータスに上方補正がかかっていく。
○陵辱時
 酔いに巻き込むことで、陵辱対象の同一存在を複数生み出せる。陵辱対象は一人に戻る時(酔いが醒める時)に纏めて快感を受けるので、多くの場合は許容量を超え、快楽の二日酔い・後遺症を受ける。最悪の場合は、廃人になる。


・ランク別効果、参考表
E:本人の姿が、敵からもぼやけて見える程度。
  回避などに上方補正がかかる。
D:同一存在が不安定ながら、独自の存在として確立する。
  単純な動作なら、別々に行うことが出来る。
C:同一存在が安定し、外見からの区別が難しくなる。
  酔っていても本人が無意識に行える動作なら、全く問題無く実行可能。
  いわゆる酔拳を名乗るなら、このレベルから。
B:仙人の領域の入り口。
  同一存在がますます安定し、複数現れ始める。
  ここから、発現する効果の個人差が大きくなっていく。
A:仙人の領域。
  個人差が大き過ぎて効果の分類は出来ない。
  傾向としては、同一存在が増え、本人と同一存在の区別が無くなっていく。
EX:
  神仏天魔の領域。
  常理を無視し、奇蹟を容易く引き起こす。
  しかし、影響力が絶大な反面、自発的・能動的制御は、完全に不可能。
  伝承では、かつて一匹の美しい雌龍が、あらゆる異世界・並行世界に同時に姿を現し、盛大な酒宴を催したという。全ての者がこぞって参加したが、すると世界から呑んだ分の液体が減ったので、起きていた洪水という洪水が鎮められたという。人々や動物達は感謝したものの、一部世界の終末の大洪水までをも止めてしまった為、彼女は神々諸天の敵、三千大千大呑龍・悪龍妃と呼ばれるようになったという。ちなみに本人は酔っ払っていて覚えていない。呑んで目が覚めたら大妖怪扱いされていて、吃驚。

・戦闘時の効果、補足
 ランクが低い内は、同一存在の質は低く、本体(オリジナル)と呼べる物も、最初に酒を呑んでいた本人のみである。そして、本体を攻撃することで(酔いを醒まさせることで)、この特殊能力を解除させることが出来る。
 これは、シューティングゲームにおける自機とオプションの関係に似ている。ランクが低い内に生じる同一存在はオプションであり、そのオプションが幾ら破壊されても自機に影響は無いが、自機が破壊された場合はオプションも全て消滅するのだ。
 しかし、ランクが高くなると、同一存在は本体(オリジナル)と同等、正確には「これもまた本人である」という状態へ近づく。最終的には、本人そのものが何人も出現している状況となり、この場合、出現している存在を全てを倒さない限り(酔いを醒まさせない限り)、能力を解除させることは不可能となる。
 シューティングゲームに喩えるならば、それまでオプションとして発生していた同一存在が、自機として発生するようになるのと等しい。当然、自機の一体が破壊されても、他の自機が戦闘を続行するのである。
 ステージボスが無限増殖を始める、という表現も当てはまる。
 妖の世界において、暴れる酔っ払いほど手に負えない物はないのだ。


◆ 明晰酩酊:B
 酔っていても明瞭な思考を保ち続ける能力。
「酔わない」のではなく「酔っているけど酔っていない」状態になる。
 ランクが上がると、酔っている場合の方が思考力が上昇する。

・ランク別効果、参考表
E:少し酒に強い程度。無理は禁物。
D:大分酒に強い。
  酔っていても、奇襲察知などの知力・情報系判定への下方補正が緩和される。
C:酒豪と呼ばれるレベル。
  酔っていても、明瞭な思考を保ち続け、奇襲察知などの知力・情報系判定への下方補正を全く受けない。
B:酔っていた方が思考力が上昇する。
  知力・情報系の判定に上方補正がかかる。
  酔いながら試験を受けた方が点数が上がる程度。
A:酔っていた方が思考が冴え渡る。
  酩探偵を名乗れるレベル。
EX:
  巫女、予言者、シャーマンなどと目されるレベル。酩酊中に飛躍的に上昇した思考力によって、未来予知的なお告げを下すことが可能になる。しかし、平常時との思考力の差が有り過ぎる為、素面時の本人にもどうしてそんなお告げを下したのかが説明できない。また、酩酊中の思考力は全てお告げという結論を導くことに注がれる為、他者への筋道だった説明などを行う余力は生じない。
  これはあくまでも思考力によって導き出される「推論」であるので、いわゆる降神、超常現象の類では無い。「予言(偽)」として扱われる場合もある。


◆ 駄汰羅呪法 (だたらじゅほう)
 相手の失敗した行動を、即座にもう一度繰り返させる呪法。
 たとえば、「躱された相手へ、もう一度、刀を振るわせる」「ナンパに失敗した後で、もう一度、別の相手に声をかけさせる」など。
 繰り返した行動が、再び失敗するかは確定していないが、失敗する方向に術者の力量に応じた修正がかかる。



・悪龍妃が、以下の特殊能力・スキルを取得!


◆ 酔染郷:EX
(説明省略)


◆ 混濁酩酊(魔):EX
 魔の領域に達した、いわゆる酷い酒乱。
 物理的に手が付けられなくなり、高ランクになると、周囲の現実を侵し始める。
 効果の発動中は、他者との意思の疎通が完全に不可能になる。
 話を聞いているようでも、全く聞いていない。

・ランク別効果、参考表
E:酒癖が悪くなる。
  筋力・耐久力など、物理的ステータスに上方補正がかかる。
D:酒癖が、もっと悪くなる。
  筋力・耐久力など、物理的ステータスに更なる上方補正がかかる。
C:こいつと酒を飲むのは絶対に嫌だ、ってくらい、極度に酒癖が悪くなる。
  筋力・耐久力などの物理的ステータスが、飛躍的に跳ね上がる。
B:何だか、こいつの酒癖にからまれるのが楽しくなってくる(周囲の認識を侵している)。
  筋力・耐久力などの物理的ステータスが飛躍的に跳ね上がり、
  他のステータスにも大きな上方補正がかかる。
A:カリスマじみた酒癖の悪さを発揮し、伝説的な大活躍をする(周囲の現実を侵している)。
  あらゆるステータスが飛躍的に上昇する。
EX:
  酒乱の中の酒乱。最早、崇拝されるレベル。
  酔っている時限定で、隠れ里を生み出せる(周囲の法則を侵している)。
  巻き込まれた者は、運が悪いと神隠しに遭う。
  隠れ里の作成如何に関わらず、あらゆるステータスが、1ターン毎に飛躍的に上昇していく。


◆ 南無三千大千大呑龍悪龍妃
 対終末スキル。常時発動型。
 世界に対する粛清が水属性を持っていた場合、酒宴を開いている限り、それを無効化する。効果範囲は、世界一つ分。
 また、平常時でも、酒宴を開いている限りは、水属性を持つあらゆる自然現象・法術などを沈静化する。効果範囲は、だいたい戦場一つ分くらい。
 
posted by 謡堂 at 17:10| ◆聊枕百物語

2012年01月01日

百物語 現代のメリーさん /話の採集者、兼、友達:パルセイズ

 
 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん! 夜遅くにゴメンね!
 ――公衆電話が見つからないの!


 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん! あけましておめでとう!
 ――携帯電話って、最近、身分証明が厳しいのね。購入もレンタルも出来なかったわ!
 ――もうっ、犯罪者の馬鹿!


 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん! まだ、寝ないの?
 ――ねぇねぇ、ところで、この電話、公衆電話も携帯電話も無いのに、どこからどうやってかけてるんだと思う? 勿論、スマートフォンからでも他所のおうちからでもないよ!
 ――宿題にしておくね! また、かけるから!


 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん! 分かったかな?
 ――答えは、貴方の手にしている、その電話!
 ――但し、それは眠りの膜をへだてた夢の中にあるの!
 ――イッツ・ア・マッドドリーム・パラレルワールド!

 ――見たんだけど貴方が電話を置いてる所って……、ううん、メリーさん、何も言わないわ!
 ――夜更かしの貴方が来てくれなくて退屈だったから、血と臓物で、お飾りしちゃった!
 ――待ってるから。早く休んで、こっちに来てね!
 
posted by 謡堂 at 16:59| ◆聊枕百物語

百物語 テレフォントラジディ・メリーさん (コミカル系、詰め合わせ)

 
 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――夜更かししないと、メリーさんの世界に連れてかれちゃうぞ!

 ――……う〜ん。
 ――眠るとメリーさんの世界に連れてかれちゃうぞ!
 ――の方が、避けようが無くていいかな? 雪山遭難? 待ちメリーさんって呼んでね!
 


・お宅訪問、メリーさん
 
 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――今、貴方のアパートに来ているの! 外のお仕事、頑張ってね!


 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――今、貴方のお部屋の掃除をしてあげているの!
 ――エッチな本は括って出しておいたから、健全になってね!


 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――やだーっ、そんなに慌てなくたって、「ポリ袋に纏めたら、ティッシュの塊のゴミが一番多いね!」なんて、メリーさん、誰にも言い触らしたりしないってばー!
 ――あ……冷蔵庫から女性の手首を発見!


 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――今、貴方のお部屋で、警察のおじさまたちとお茶しているの!
 ――主賓は貴方だから、早く帰ってきてね!
 


・鉢合わせ、メリーさん
 
 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――今、貴女のアパートに来ているの! 大学のお勉強、頑張ってね!


 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――ふふふーん、女子大生って、ベッドの下に何を隠しているのか――な、あ、


 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――大変! 貴方のベッドの下に斧を持った大男が隠れていたわ!
 ――今、貴女のお部屋で追いかけ回されているの! 帰って来ちゃ駄目だからね!


 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――今、貴女のお部屋のトイレに隠れているの! お願いっ、早く警察を呼んで!
 ――……あ、この電話で自分で呼べば良かったね。
 ――メリーさん、動転しちゃってるみたい! てへっ☆




 ――プルルッ、プルルッ、ピ!

 ――……。
 ――……、……。
 ――……、……、……。
 ――莫迦メ めりーサンハ 死ンダワ。
 


・不倶戴天、メリーさん
 
 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――今日は、パルセイズの命令で、シェリスエルネスさんの寝室に潜入しているの!
 ――うふふっ、恥ずかしい秘密とか、家捜しして一杯見つけてあげちゃうんだから!


 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん! パル、聞こえてる?
 ――さーてさてー、お嬢様は、ベッドの下に何を隠しているのか――な、あ、


 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――大変! シェリスエルネスさんのベッドの下に斧を持った大男が隠れていたわ!
 ――今、お城の中で追いかけ回されているの! メーデーッ、メーデーッ、メーデーッ!
 ――あ、あんた、だいたい、何で、こんな所にいるのよ! え、別口の刺客? あああん、んたみたいな雑魚じゃ、赤ん坊だって殺れないんだから!


 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん!
 ――助けてっ、パルセイズっ、パルセイズっっ?!
 ――パ〜〜ル〜〜セ〜〜イ〜〜ズ〜〜〜〜ッッ!!?




 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――……。
 ――……、……。
 ――……、……、……。
 ――オレサマ めりーサン マルカジリ。
 


・メリーさんは終わらない!
 
 ――プルルッ、プルルッ、ガチャ!

 ――もしもし、わたし、メリーさん! 酷い目に遭ったわ!
 ――だけど、わたしは何人もいるの。だから、何をされたって、ヘイチャラ!
 ――今度は、これを読んでくれた貴方の所にも、お邪魔するね!
 
posted by 謡堂 at 16:42| ◆聊枕百物語

2011年04月10日

百物語 魚念仏 /話の採集者:悪龍妃ん所の鉄砲お嬢

 
 十五夜の晩ぁ、龍のお妃さまが、沖で月見酒の遊行ばなさるんだ。
 んだから、ワシら、漁さ出ちゃなんねぇ。
 そんのしきたりば破って、吾作さ、沖に漕ぎ出したこっさ。

 不思議な晩だったとよ。
 大きな魚も、小さな魚も、浅瀬にいる魚も、いつもは見もしねぇ魚も、わんさと海の面(おもて)に出てきてるんだ。
 波の数よりも多い鱗や背鰭が、風に吹かれた稲の穂みてぇんなって、月光に煌めいていることさ。
 皆、お妃さまのお伴なんだぁな。
 投網を打ちゃぁ、引いてる漁師の腕が痛くなっぐらい、魚がかかったんだとさ。

 するってぇとよ。
 舟の上に揚げられた内のぉ一匹が、吾作さ向けて、節をつけつけ囁きだしたことよ。
『帰りゃんせ、帰りゃんせ、ここはお妃様が酒肴を眺める波桟敷。それ以上の無作法は、決してお止し』
 吾作さ、取り合わずに漁を続けたことさ。
「すったこと言わんで、おらにも風流のお零れを分けてくんろ。何も、お妃さまの酒までお相伴にとは、言いやしねぇ」

 するってぇとよ。
 次に舟に揚げられた内のぉ一匹が、また吾作さ向けて、節をつけつけ囁きだしたことよ。
『帰りゃんせ、帰りゃんせ、知らぬか、海の御判行。今宵は十五夜、入ると酷い。悪妃様の雷立(かんだち)が、きっと、お前を焼き尽くすぞ、根こん際(ねこんざい)』
「こんな仰山の魚ぁ前にして、漁師がみすみす見逃す法こそねぇんだい。ちぃっとだけだぁ、ちぃっとだけぇ」
 魚如きの言うことに、いちいち傾ける耳もあるもんかい、ってな。
 そんな時間も惜しいとばかりに吾作さ、投網を打ち続けたこっさ。

 するってぇと、三度目だ。
 今度は舟に揚げられた魚ぁ、全部が全部、吾作さ向けて、一斉に叫びだしたことさ!
『痛い目見るぞ、いっぱい骨灰、五六杯! 今すぐ、あたしらを捕るのを止めないと、虎魚(おこぜ)の入道様が、きっと、お前を懲らしめにやってくるぞ!』
「まぁまぁ、も少し静かにしといておくれ。そう口を尖らせて叱られちゃあ、かえって止めたくなくなるもんさぁ」
 それでも吾作さ、引き返す素振りを見せやしねえ。
 しまいにゃ、布屑を耳に詰めて、栓をしちまった。

 こうなると、もう、魚どもも何も言わん。
 ただ、舟の周りの連中が、こう口々に嘆き合うだけなんだ。
『なめらさんぽう、南無三宝。しまったしまった、仏の顔の三回目』
『手遅れ手遅れ。入道様の思し召し』
『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』

 月光のしずしずと降り注ぐ、明るい晩だったとよ。
 油の膜に水を一滴落としたみてぇに、吾作さの舟の周りだけ、ぽっかりまぁるく魚の群れが引いていく。
 そこに海底(うなぞこ)から、ぬっ、と浮き上がる影があるこっさ。
 千石船より大きな虎魚の影だ。
 岩礁みてぇなゴツゴツの表面に、真っ赤な血と硫黄を混ぜたのかってぐれぇの斑の筋が入ってる。平べったい躯に、牙を剥いたおっかない顔を乗せて、坊主の袈裟を引っかけてやがるんだ。
 そいつが、背鰭の棘から猛毒の靄を漂わせながら、海面に口を近づけてくる。
 まるで、鯉が投げられた餌を呑み込もうとするみてぇにな。
 そうして吾作さ、ぱっくりと舟ごと食われちまったんだ。
 
posted by 謡堂 at 05:48| ◆聊枕百物語

裏竜宮衛士録

 
○虎魚入道(おこぜにゅうどう)
 袈裟を纏った巨大なオニオコゼ(鬼虎魚、鬼鰧)。

 得手の呪法は「三誶誅戮(さんすいちゅうりく)」。
 三度の警告の間に力を溜め、相手が従わないとみるや解き放つ、報復呪法。
 戦いで対手の攻撃を受けながら使うと、更に威力が跳ね上がる。

 変化の術は苦手。やむを得ず人間(っぽい姿)に化ける時は、後頭部にでっかい目玉が二つ並んだ、巨躯のお坊さん姿を取る。術を覚えたての当初、頭の天辺についてしまっていた口を、最近は何とか、鼻の位置にまで下げてこられるようになったらしい。
 何だか福笑いみたいなので、それを見ていると、裏竜宮の子供達は大層喜ぶそうな。
 
posted by 謡堂 at 05:37| ◆聊枕百物語

百物語 都市夜話「現代のオバリヨンたち」 /パルセイズ (魔が堕ちる夜/シニスター・ソワレ)

 
※含まれているのは偶然なのですが、震災の時期に不謹慎・不快かと思えた部分を隠しています。そこが無くても話は繋がりそうだったり。




 
 磯も静まる丑三つ時の、八潮路に波は影すら隠し、追いの帆風もぬるりと絶える。
 魚は鰓閉じ囁いて、揺れる玉藻も身振りを潜め、海すら己の欠伸の涙で鹹(から)くなりゆく。

 ふふん、妖の時刻に、こんばんは。
 天下無双の雷粧姫、十子の和風担当、パルセイズ様よ。
 ……るさいわね。
 海の底じゃぁ、こう言うの。陸(おか)の言い方なんぞに合わせる気は無いわ。ちなみに「鹹い」ってのは、香辛料で辛いんじゃなくて、塩気でしょっぱいっていう意味ね。
 とはいえ、日が暮れると人間共が怖がって家ん中に閉じ籠もる、なんてぇのも、今は昔の光景よね。夜更けに海へ出てくる漁師や釣り人は昔っから沢山いたけれど、最近じゃあ、陸の奥の連中も図々しいったら、ありゃしない。都会に至っちゃ、この時間でも平気で仕事はしているわ、店は開けているわ。挙げ句、少し周りのベッドタウンに目をやれば、暢気に駅からの家路を、てくてく歩いている、仕事帰りの奴までいる始末だし。
 もっとも? 生活が宵っ張りになったくらいで、あたしらの脅威を克服したと思って貰っちゃぁ困るわ。
 今宵はそんな、明るくて暗い、現代の夜道のお話。

 たとえば夜の繁華街とかを歩いていると、影が幾つも出来る事があるじゃない。
 勿論、それが怪奇現象じゃ無いのは知っているわ。街灯やら電飾付きの看板やらで、光源が幾つも別々の方向から照らしてくる所為よね。で、そういう別れて薄くなった影って大抵、最初はアンタの後ろの方に生まれて、歩いている内に前の方へ伸びて消えていく訳よ。何故なら、本人が路脇のネオンサインなんかを視界に入れつつ進んでいって、その前を横切って、次第に背中に背負うような形になるから。
 でもさ、眼ん玉、ひん剥いて、よく見ていてご覧なさいよ? 時々、斜め前に見えていたアンタの影が、すぅっ、と後ろの方へ流れて消えていく時があるんだから。「別に不思議なことじゃ無い」って? そりゃあ、隣を車に追い越された日とかにゃぁ、そうなるわよね? 後ろから近づいてきた光源が、アンタの横を通り過ぎて、遙か彼方へ走り去っていくんだもの。
 だけど、追い越していく光源なんか無いのに、明らかに変な動きをすんのがあるんだから。

 実はそれ、浮遊霊の仕業。この世に未練を遺して彷徨っているけど、その未練の内容が、もうぼやけちゃったー、とか、自分が死んだのは分かっているんだけど、何となく、まだ死にたくないなー、とか、そういった舐めた思考でふらふらしている雑霊の凝り固まりの。
 アンタの影が複数に別れて薄くなった瞬間に乗じて、その一つに取り憑いてくる訳よ。
 よく存在感の無い喩えで「影が薄い」って言うでしょ? 全く妥当な表現で、薄い影っていうのは、存在も弱けりゃあ、抵抗力も弱いのよ。しかも、「人形は人の形をしているから霊が入りやすい」ってぇのと同じ塩梅でね。人間の影法師には霊が憑きやすいわ。
 中には、薄くなっているのを見ると、特に理由がなくたって、するっと入っちゃう奴すらいるもの。
 状態が幽霊と似ているから、相性もいいんでしょうね、きっと。
 繁華街なんか、そいつらの吹き溜まりよ? 何の備えもなしに暢気に舗道を歩いていたら、そりゃぁ、対策ソフトも入れないでパソコンでネット巡回して、山ほどウィルスを貰ってくるよーな馬鹿を見るわね。携帯のアンテナが三本立っているか気にしている暇があるなら、自分の頭に毛が三本足りているか、心配しときなさいってなもんよ。
 ちなみに、今晩ここで話したい類の浮遊霊の目的は、アンタの影の一部をもぎ取って、自分が現世に止まる為の依り代として手に入れること。そうすりゃ、風にふらふらと揺らされ運ばれる身からおさらばして、自分で自由に動き回れるようになるからよ。

 でもね。
 邪魔な物があって、憑いても直ぐには、気儘な身にはなれないのよね。
 アンタの足首。

 そこで繋がっているから、まだ影を奪えないって訳。
 仕方がないから、憑依した霊は、憑依された影ごとアンタの背後で起き上がる。そして、ぺったり背中に張り付いて、時期を伺うの。虎視眈々と。
 もしも普段の生活で、ぼーっ、とすることが多くなって、エスカレーターに乗っている時なんかに、爪先が櫛板の飲み込み口にぶつかってから、ようやっと終わりまで来ているのに気づくようなことが頻繁にあったら、用心するといいわ。
 アンタに憑いた雑霊が、なんとか足首を切り離せないもんかと、意識に障って試行錯誤を繰り返しているのかもしれないから。いつ、もっと危ない物にぶつかって足首を刈り取られる羽目になるか、分かったもんじゃないわよ。
 例を挙げるなら、そうね……。倉庫作業でなら、ついうっかり、フォークリフトの車輪の下に足首を入れてしまうとか。駅のホームでなら、もっと簡単。列車が来た時に、思わず白線を踏み越えて、ジャンプをしたくなっちゃうわ。轢死体から、両の足首だけが見つからない、って寸法よ。
 アッ、と気づいた時には手遅れな訳。足首ごと影を奪われている。
 この世界じゃあ、ぱっとしない探偵への依頼は迷子の飼い猫探し、ぱっとしない退魔師への依頼は、行方知れずの足首探し、って相場が決まっているのよね。
 ついでに運も悪くなるわよ。頭上からの落下物や流行病には注意することだわ。
 そういえば人間は死んだ後、遺体が軽くなるっていうわね。それはどうして? 憑依霊が、影を抜いて持っていったからよ。
 こういう仕業をする雑霊を、あたしらは「つきもぎり」だとか「あしもぎり」だとかって呼んでいるわ。
 人間上がりの妖怪……とすら呼べない、低級で半端な連中共よ。こうして話の種になる内は、お目こぼしをして灼き尽くさずにおいてあげるけど。全くアンタらの出世魚っぷりには頭が下がる思いだわ。生きている間は有意義に妖怪の餌、くたばってからだって、怪奇の先棒を担ぐ霊魂稼業。順風満帆じゃない。頑張れば、ミジンコにだって成れるんじゃない?
 いっそのこと、霊長類なんて吹くのは止して、下等類とでも名乗ればいいんだわ!

 ……ちっと話が逸れたわね。
 ハン、夜道を歩く度、こいつらのことを思い出しなさい、人間。
 愉快な共食いショーの始まりよ?
 そぅら……、道端の雑草に気を取られたアンタの後ろで、憑かれた影が、すぃっと起き上がる。
 ほぅら……、一匹、また一匹と、踵から腰、アンタの背中へと、へばりついてくる!
 それから、どうなると思う?
 気が塞いでくるかもね。明日の仕事や学校のことを思って憂鬱な溜息を吐くのと同時に、奴らの指が背中の肉に食い込むの。もしも、ゾワリと背筋に悪寒が走ったなら、それは奴らの爪に背骨を引っ掻かれたんだわ。
 向かいの看板に目を奪われている場合じゃないわよ? 何せ、アンタの後ろ姿の方が、もぎり共に群がられて、よっぽど賑やかで派手なんだから。
 凄いわねぇ。もしも心霊写真を撮ったなら、アンタの背中で影法師が無数に犇き合っている絵になるわね。連中は重なると個々の判別がつかないから、まるで巨大なヘドロかアメーバが蠢いているようよ。
 ――そぅれ、肩や背中が重いでしょう? 良かったわね、重石要らずで海やプールに沈めるわ。都合良く足が攣ったりしてね!
 ――ほらほら、赤信号の真ん中で、いきなり立ち眩みになってダンプに突っ込まれるのは、アンタだわ! 湯船でだるくなって眠りこけるのも、布団で金縛りに遭ったまま心臓麻痺で連中の仲間に引き摺り込まれるのだって、アンタだわ!
 クルーズでうっかり船尾から落っこちて、スクリューん中に蹴りを叩き込む間抜け野郎も、ロッククライミングの最中に、何故だか無性に空を飛びたくなるメンヘルたんも、撃墜された戦闘機から折角脱出できたのに、肝心のパラシュートの開き方を物の見事に忘れているアンポンタンすら、アンタだわ!!
 何もかも、この世の不運事故縁を引っ被るのは、アンタよアンタよアンタなの!!
 アッハッハ! 怪談してるってぇのに、何だか愉しいわ!
 あんまりにも見ていて面白いから、思わず妖怪の餓鬼んちょ共は唄っちゃう!

『ちょちょんと足踏みゃ、音が出るっ。
 灯(ひ)の脇、横切りゃ、影が出るっ。
 夜の道には何が出る?
 ちょいと負ぶさるツキが出る!

 いろはっにほへと、とっ、数えましょ。一緒になってぇ、数えましょ!』

 ってなもんよ。
 人間の餓鬼共が、カブトムシとクワガタの勝負を周りで囃し立てるのと同じノリだわ。
 続きの歌詞と節は、こんなだったっけ。

『いーかで昇れや、月とツキ。一匹いいかーい、イの一番。
 いっこらせーっと、張り憑いたっ。

 六文銭は〜、要りませぬー。路用のお足を、くりゃさんせ。
 ろろろい浪々、彷徨うお足を、くりゃさんせっ。

 ばってん、やらぬと言うならば、剥ぎ取りましょお、そうしましょ♪
 脛(はぎ)よりも下を、くりゃさんせっ。

 にいばえ、にへさは、やっこっこ(新生え、贄多、奴っこ)。
 二のツキ、二の苦、群がって。にょんにょ、にょきにょき、にょっきにょき。

 ぽんつく太郎の骨を喰め!
 ほいと(物貰い)も集まりゃ、お大尽!

 へばるな、へたるな、へばりつけ!
 べっしり、ぺっしり、しがみつけ!

 どっさくさ紛れに、足を盗り、
 とっくと穢土の季、御覧じろ!』

 よく、「現代は明かりが増えたから、妖怪は生き辛いだろう」なんて言われるけれど、とんでもないわ。これはこれで、新種の愉快な物が見れるし、遊び場も増えるしで、良いもんよ。
 だいたい、あたしからして雷粧姫。光の化生だもの。弱る筈がないでしょう? 森羅万象悉く、それが増えたら人間の天下になるなんて、虫のいいことは考えないことね。
 世の中が明るくなって困るのなんざ、自分の不細工な面を表通りに晒せなくなる、あたし以外の女ぐらいなもんじゃない。そういえば、常夜の荒野なんて薄暗いところに引き籠もっている、占い屋の娘なんてぇのも居たわよね?
 ……あによ、シェリスエルネス。執事の水虫話くらいしかネタが無いからって、僻んで殺気飛ばしてくんの止めてくれる? アンタの面ぁ向けられると、蛙を見ているみたいで、怪談中だってのに吹き出しちゃうのよ!
 ふふん。青筋おったてて、悔しがってやんの。
 なにはともあれ、唄のお終いの方はこうよ。

『いーろはにほへと、っと、おツキ様、人(ひーと)の背中を昇って云った。

 所詮(しょーせん)、浮き世は鰻の寝床。
 兄さん、頭が重かろう?
 おじさん、肩荷が重かろう?

 駅(えーき)のホームの最前列で。
 エースカレータの天辺(てっぺん)で。
 前(まーえ)に後ろに、み〜んな、倒れた。
 電車の車輪が足首轢いた、重たいトランク落っこちて、脛から下を潰(つーぶ)した。

 せよせよ隠せよ、千切れた足首。
 らんらんやらん、もうやらん、これらは捥いだツキの物。

 きって、たって、にっげろ♪
 きって、たって、にっげろ♪

 向こうは自由な一丁目♪』

 まぁ、この後は大抵、妖怪の悪餓鬼共が棒切れでつっつき回して殺しちゃうんだけどね。

 無論、全部が全部という訳でもないわ。
 その後の人間との遭遇例も、きっと、あることでしょう。
 夜道を屍蠟化した生足首が、ぺたん、ぺたん、と千鳥足で歩いてくる。
 ふらふら、ふらり。ゆぅらり、てくたく、ゆぅらゆら。
 まるで花見の客が、ほろ酔い加減で彷徨っているみたい。
 近くの塀を見てみると、月光の元で幾つもの人影が、生足首の踝の所で繋がりながら蠢いているの。全員で一人の足首をもぎ取ったから、今度は船頭が多すぎて行く先が定まらない訳ね。元々意志薄弱で主体性の無い連中の集合体だもの、一瞬一瞬ごとに我の強い奴が入れ替わるわ。そいつが音頭を取って歩き出して、すぐにどうでもよくなって別の奴に主導権を渡すから、酔っぱらいじみた進み方になる。
 だけど、間抜けそうに見えても、アンタらは手を出さない方が懸命よ。
 人を一人不幸にした雑霊は、流石に少し格が違ってくるし、生者が近づいた時だけ、そいつらは一致団結、急に素早く動いて駆け寄ってくるから。
 見かけたら、さっくり逃げておきなさい。
 絶対に、影を踏まれては駄目よ?
 そうされたら、どんな目に遭うかは……、くく、ご想像に任せておくわ。

 ん? その前、もぎりに憑かれた時の対応策や予防策は無いのかって?
 ハン! あんな弱っちい低級霊共に、そんな物は必要無いわ!
 宿主が健康的な生活を心がけたり、オタクっぽく深夜アニメでハッスルしたりするだけでも、馬鹿らしいほど呆気なく消滅していくのよ? そいつの充実した気力に負けて。
 どうしても不安だってんなら、休日にでも、公園のベンチに座って日光浴しなさいよ。背を丸めて暖かな太陽を受けるといいわ。奴ら、勝手に蒸発していくこと請け合いだわね。

 最悪なのは、影が動くのが「影引き入道」の仕業だった場合よね。
 別名は、「辻入道」に「辻吸い入道」、「袖引き入道」「影吸い入道」「魂引き(たまひき)入道」などなどなど。色々あるわ。
 土佐犬サイズの海坊主みたいな、ちっこい奴でさ。アンタの後ろを、ちょこちょこ付いて回ってくんの。んで、アンタの影が幾つかに別れる瞬間に乗じて、その内の一つを、ずるっっ、と吸い込んでくる訳よ。もぎり共と同じく、抵抗力の薄い状態を狙ってくる訳。
 効果はレベルドレインよ。能力値が永遠に1下がるの。萎えるったら、ありゃあしない。
 何故かっていったら、奴らに影を吸われるのは、魂を吸われるのと同義だからだわ。
 ちびちびと、ちびちびと、つまみのさきいかを更に細く裂いて口に入れるかのように、たらふく肥えた相手の霊魂から、僅かな活力を引き剥がして喰らっていくのよ。もしも特定の犠牲者だけが狙われて、しつこく食事を重ねられれば、遂にはそいつは起き上がる気力も失って、後はただただ、最期までしゃぶられ尽くすのを待つだけになるでしょうね。
 せいぜい用心することね。自分の影は、きちんと全部見てなきゃ駄目よ? あいつら荷物の置き引きみたいな連中だから。意識の隙を見せると、ずるっっ、とやられるわ。
 ……そう。意識さえしていれば、影を吸われることは無いわ。元々の持ち主はアンタで、根っこの所で強く結びついているんだもの。
 それが難しければ……、ふふん。他の奴がアンタの影が引かれていることに気づいて、「あっ」とでも驚いた声をあげてくれれば、それでも防げるわよ? とにかく、本人や余人に注視されたり気に留めたりされていると、影引きは出来ないみたいね。
 でも、どうよ? 他人への無関心がマナーになっている都会では、この防衛策は諦めた方がいいんじゃない? 悪い所では、無関心どころか、隣人への警戒心が先立っているくらいだものね? 気休めにだって、なりゃあしないわ。ここだけ見たって、現代があたしらを駆逐したなんて、とてもとても。

 とはいえ、影引きの連中も大変なのよ。
 やることは凶悪なんだけど、生態は惨めったらしくてさぁ。
 あいつら強い光が弱点で、それで照らされると消滅しちゃうの。
 だから昼間はじっと物陰に潜んでいて、夜になると獲物を求めて徘徊し始めるわ。その時でもおっかなびっくり。トラックがライトを点けて近づいてきたら、気配を感じただけでも逃げ隠れるし、人間の後を付ける時だって、暗がりから暗がりへと素早く移動しながらで、探偵の尾行かってぐらい慎重かつ滑稽だわ。
 それでも不意打ちには敵わないんだけどね。
 曲がり角や交差点を観察していると、よく標的を追跡中の影引き入道が、飛び出してきた車のライトを瞬間的に浴びて、悲鳴を上げる間もなく消滅していっているわ。
 雷が光った日には、街中で大量虐殺よ。
 こいつら、雑霊共よりは高等でやり口も手早い癖して、光源の多い繁華街とかには滅法弱いのよね……。だから、主な活動場所は……、人間の周りだと――、街灯が、ぽつんぽつん、と等間隔で立っているだけの夜道とか……? 弱い光源が数個ある、ぐらいの環境が丁度いいみたいね。これが田舎になると、今度は逆に真っ暗闇で影が出なくなって困るようだわ。……面倒な奴ら。深さと明るさで棲み分けている深海魚じゃあるまいし。
 長老共に云わせると、古き良き妖怪の風情がある、なんてぇことになるらしいけど……。ハン! 単に脆いだけよ! 見ていて、苛つくったら!
 人間の家の玄関や庭塀にさ? 防犯照明ってのがあるじゃない? 誰かが近くを通ると点灯するっていう、人を泥棒扱いしてくれている奴。酷い時には入道共が、尾行相手が点けたそれに照らされて、火傷を負ったみたいになって、わたわたと逃げていく訳よ。
 ……この手で滅ぼしてやりたくなってくるわね、本当にっ。
 うん? そいつらを退治したら、ドレインされた能力値が戻ってくるかって? まさか! ないわ! アンタ、正気で言ってんの?
 お生憎様、吸われた物は、永久に戻ってこないわ。あんたがぽっくり逝ったって、腹の中から去年食べたおにぎりが出てきたりは、しないでしょ? だから鬱陶しくて、妖怪仲間からも嫌われ切ってんのよ、あいつら。そう。あたしらだって、気を抜くと影を吸われるの。
 さっきも話したけれど、連中が何よりも恐れるのは、強い光でパッと照らされること。そして、最も恐れる季節が、雷鳴轟く日本の夏よ。今は四月に入ったばかりだから、大量駆除は、もう暫くお預けね! それまではせいぜい、夜道でビクビク後ろを振り返り振り返りしつつ歩いたり、御祓い師にでも縋って過ごしたりしたらいいわ!
 もしも、あれやこれやの艱難辛苦に耐えて影引き入道が百年を生き延びると、縞柄の黒い猛虎だとか、黒髪自慢の絶世の美女だとかに変化するらしいんだけど――。
 ま、その話は、またの機会なり、他の連中の話なりに譲っておくとするわね。

 さて。
 今宵のあたしの話は、これでお仕舞い。
 人間風情がどう足掻こうと、世には怪奇妖異が溢れている訳よ。
 どう? ちったぁ怖くなってきた? 恐ろしくって夜道を歩けそうにない?
 もしもそうなら、そうに決まっているけれど、ここからこそが本題本題っ。

 この前さぁ、床屋に行ってきたのよね。髪結い床じゃなくって、パチパチ切る現代風の方の。鋏の付喪神がやっていて、豆電球代わりに釣られた金魚鉢が、水とビー玉を詰めてキラキラ光ってんの。
 でさでさ、折角のあたし様の綺麗な髪を、涎を垂らした掃除機なんかに吸わせるのって、勿体無いじゃない? だから適当に拾ってきて、お守り袋に封じてみたわ!
 なんたって、この雷粧姫様の御髪(おぐし)だもの、御利益は抜群よ!
 悪霊除けに、影妖払いに、お一つ如何? 沢山出来たから、お安くしとくわよ?

 ……あ、口喧しいビュージーが、顰めっ面になった。何よ、女が自分の髪を売って、何がいけないってぇのよ。お呼びじゃないわ、引っ込んでなさいよ、ヒス年増。
 
posted by 謡堂 at 02:14| ◆聊枕百物語

2010年06月30日

百物語 怪火、詰め合わせ

 
 本日の百物語、パルセイズがコメントを入れる関係で怪談部分を仰々しくしたくて、斜体にしているのですが、どうにも読み辛く思えました。
(私の目が悪かったり、うちのPCの設定で読むとそうなる、というだけかもしれませんが)

 なので、普通の字体で書かれた物もUPしておきます。

 また、暫く更新、途絶えます。


『百物語 丹々灯 (たんたんび) /話の採集者:パルセイズ』
 
 赤く赤く燃え盛る。犬の頭ほどの大きさで。
 夜道を行く者の前に現れて、ゆらゆらと揺れている。
 それは、人の世が腹に溜め込んだ鬱屈の鬼火。不平不満のどす黒い澱火。
 元は、一人の誰かが抱えていた感情なのだろう。
 何時から独自の意志を持ち、彷徨い始めたのか。元の主は、一体どうなったのか。
 答えず語らず、業々と辺りを染めている。
 そして、重く、重く。今にも地に擦れそうな程に低く、夜道で揺らめく。

 地摺りの焔。
 出逢っても、決して眺めてはならない。
 頤を引き、這いずる怨念を見下ろすならば、
 その者の臍下や腹腔も、重く重く、不快になっていくだろう。
 暗い火種が伝染ってしまうのである。

 血の色だ。何者にも染まらぬ、やり場なき忿怒の色だ。
 網膜が朱を差されてしまう。めしい灯とも呼ばれる由縁。
 路ノ怪は掻き消えようとも、それよりの日々、貴方の心の燻りが晴れることはない。
 余人の些細な仕草も笹穂の棘に。心を引き裂き流血させる。
 苛立ち当たり散らすのに忙しく、飯を己の口に運ぶことにすら、手が付くまい。

 身に余る怒りは、やがて宿主を自壊させる。
 骸からは、新しい火が芽吹く。
 そう、彼らは増殖するために、我々の前に姿を現すのだ。
 憂き事から目を逸らすのが、必ずしも悪しき行いだとは限らない。
 変えられぬ事物を見詰め続けるのは、毒を飲むのと変わらない。


 お生憎様。
 終始イライラしっぱなしのあたし様には、全く影響はないわね。
 限界のメーターなんて、とっくに振り切れてんのよ。
 チンケな火の粉なんぞが類焼できる余地は、ないってぇの。
 好きなだけ、前でフラフラしてなさい。夜道を歩く提灯代わりに、丁度いいわ。
 


『百物語 畏施火 (いせび) /話の採集者:追放刑の常連者』
 
 ある晩に。軒先へふらりと漂う、鬱金色の火の玉。
 何処からやって来るのか、何を考えているのか、妖でさえ全く知らない。
 心せよ。それは、ただただ、皆が忘れた頃に現れる。
 人の住まいにも、森の獣の巣穴にも。
 木と紙だけが、まるで待ち焦がれていたかのように、受け入れる。
 紅蓮の舌に舐められる我が家を前に、民草は炎の恐ろしさを思い出す。


 お生憎様。
 この風来坊のパルセイズ様には、焼かれて困る家も、蔵に溜めた財宝も、
 死なれて困る友達だって、ありやしないわ。
 火なんて稲妻の付随物、侮りすらも抱けない。
 


『百物語 船攫い蛍 /話の採集者:裏竜宮の放蕩娘』
 
 夜天にのしかかり、腫瘍に覆われた臓腑の如く蠢く黒雲。
 鳴り響く、龍の悍馳せの大音声。
 荒れ狂う嵐の海で標を見失い、途方に暮れる君よ。
 諦めずに、空を見上げて欲しい。
 きっと、耿耿と燦めく一つ星があるに違いない。
 北の導星が船乗りを見捨てることは、決してない。

 ……落ち着いて考えてみれば。
 雲の下に星が出ている筈はないのだけれど。
 それでも貴方は、北極星だと思ってしまうのだろう。

 正体は、海で命を亡くした者である。
 人魂、ということである。
 はたして、漕ぎ出した船を何処へ連れて行こうとしているのか。
 己と同じ黄泉路へか。
 はたまた、武妖集いし裏竜宮へとか。
 いずれにせよ、それは目指していた方角ではないだろう。

 古来より、船騙(ふなだま)ともいう。


 お生憎様。
 あたしは、目的地なんて決めないわ。だから、目印もいらない。
 進みたい方向が、正しい方向なのよ。自分で指を差した方角こそが、北なんだわ。
 
posted by 謡堂 at 22:52| ◆聊枕百物語

百物語 丹々灯 (たんたんび) /話の採集者:パルセイズ

 
 赤く赤く燃え盛る。犬の頭ほどの大きさで。
 夜道を行く者の前に現れて、ゆらゆらと揺れている。
 それは、人の世が腹に溜め込んだ鬱屈の鬼火。不平不満のどす黒い澱火。
 元は、一人の誰かが抱えていた感情なのだろう。
 何時から独自の意志を持ち、彷徨い始めたのか。元の主は、一体どうなったのか。
 答えず語らず、業々と辺りを染めている。
 そして、重く、重く。今にも地に擦れそうな程に低く、夜道で揺らめく。

 地摺りの焔。
 出逢っても、決して眺めてはならない。
 頤を引き、這いずる怨念を見下ろすならば、
 その者の臍下や腹腔も、重く重く、不快になっていくだろう。
 暗い火種が伝染ってしまうのである。

 血の色だ。何者にも染まらぬ、やり場なき忿怒の色だ。
 網膜が朱を差されてしまう。めしい灯とも呼ばれる由縁。
 路ノ怪は掻き消えようとも、それよりの日々、貴方の心の燻りが晴れることはない。
 余人の些細な仕草も笹穂の棘に。心を引き裂き流血させる。
 苛立ち当たり散らすのに忙しく、飯を己の口に運ぶことにすら、手が付くまい。

 身に余る怒りは、やがて宿主を自壊させる。
 骸からは、新しい火が芽吹く。
 そう、彼らは増殖するために、我々の前に姿を現すのだ。
 憂き事から目を逸らすのが、必ずしも悪しき行いだとは限らない。
 変えられぬ事物を見詰め続けるのは、毒を飲むのと変わらない。



 お生憎様。
 終始イライラしっぱなしのあたし様には、全く影響はないわね。
 限界のメーターなんて、とっくに振り切れてんのよ。
 チンケな火の粉なんぞが類焼できる余地は、ないってぇの。
 好きなだけ、前でフラフラしてなさい。夜道を歩く提灯代わりに、丁度いいわ。
 
posted by 謡堂 at 22:23| ◆聊枕百物語

百物語 畏施火 (いせび) /話の採集者:追放刑の常連者

 
 ある晩に。軒先へふらりと漂う、鬱金色の火の玉。
 何処からやって来るのか、何を考えているのか、妖でさえ全く知らない。
 心せよ。それは、ただただ、皆が忘れた頃に現れる。
 人の住まいにも、森の獣の巣穴にも。
 木と紙だけが、まるで待ち焦がれていたかのように、受け入れる。
 紅蓮の舌に舐められる我が家を前に、民草は炎の恐ろしさを思い出す。



 お生憎様。
 この風来坊のパルセイズ様には、焼かれて困る家も、蔵に溜めた財宝も、
 死なれて困る友達だって、ありやしないわ。
 火なんて稲妻の付随物、侮りすらも抱けない。
 
posted by 謡堂 at 22:11| ◆聊枕百物語

百物語 船攫い蛍 /話の採集者:裏竜宮の放蕩娘

 
 夜天にのしかかり、腫瘍に覆われた臓腑の如く蠢く黒雲。
 鳴り響く、龍の悍馳せの大音声。
 荒れ狂う嵐の海で標を見失い、途方に暮れる君よ。
 諦めずに、空を見上げて欲しい。
 きっと、耿耿と燦めく一つ星があるに違いない。
 北の導星が船乗りを見捨てることは、決してない。

 ……落ち着いて考えてみれば。
 雲の下に星が出ている筈はないのだけれど。
 それでも貴方は、北極星だと思ってしまうのだろう。

 正体は、海で命を亡くした者である。
 人魂、ということである。
 はたして、漕ぎ出した船を何処へ連れて行こうとしているのか。
 己と同じ黄泉路へか。
 はたまた、武妖集いし裏竜宮へとか。
 いずれにせよ、それは目指していた方角ではないだろう。

 古来より、船騙(ふなだま)ともいう。



 お生憎様。
 あたしは、目的地なんて決めないわ。だから、目印もいらない。
 進みたい方向が、正しい方向なのよ。自分で指を差した方角こそが、北なんだわ。
 
posted by 謡堂 at 22:02| ◆聊枕百物語

怪談を語った経験点による成長

 
・パルセイズが、下僕妖「丹々灯/めしい灯」「船攫い蛍/船騙」をゲット!
・パルセイズが、言霊スキル「お生憎様」(破術)を習得!


 パルセイズ
「ふふん。そこのチビ、何か術で、あたしを攻撃してきてみなさいよ」

 ランセリィ
「んじゃね、『エターナルフォース・ルナティックインフェルノ』! パルセイズは死ぬ!」

 パルセイズ
「お生憎様。
 稲妻の刹那に腑抜けた永劫は届かない。
 狂いの月は蒼白の閃光に呑み込まれ、灼熱の地獄はプラズマよりも冷めている」

 ランセリィ
「わー、炎が掻き消されたー、パルちゃん強いー」(棒読み)

 ヴュゾフィアンカ
「ただの、屁理屈を捏ね回してる嫌な奴じゃない。私のポジション取らないでよーぉ」

 パルセイズ
「お生憎様。
 あたし、さっぱりクールな格好良い系キャラだから。
 何をしようが、アンタなんかと被りゃしないわ」

 ザーバッハ
「夢見がちな少女に現実をプレゼント、だ。
 先日、君が壊した城壁の修繕を、手早くクールに済ませて行って欲しい所なのだがね?」

 パルセイズ(冷や汗)
「お、お生憎様。
 腕捲りなんて、はしたないもの。
 ほろ酔い加減で、休み休みやらせてもらう、わ……」

 シェリスエルネス
「……(このまま、言葉に窮するか恥ずかしくなるまで詰問責めにしてみたいですわ)」

 パルセイズ(癇癪モード)
「お生憎様! もうお開きよ、とっとと散りなさい!!」
 
posted by 謡堂 at 21:52| ◆聊枕百物語

2010年01月18日

百物語・ 新蠢憎悪ショー・シデムシ /語り手知らず (怪集/2009、投稿)

 
 歳月を積もらせた家電製品は、半ば幽世(かくりよ)の存在と化すという。
 我が家の年季の入った短波ラジオ殿にも、若干、そのきらいがあるようだ。
 時折、蟲が孵って卵の皮を食い破るような音がしたかと思うと、勝手に電源ライトが灯り、得体の知れない放送を拾って流し出すことがある。

(プチン)

 ――あなた、あなた。「副社長への就任祝いに職場から貰った」と仰って大切になさっていたロレックス、本当は料亭の女将さんから頂いたのでしょう? 質屋に流しておきましたからね。

 ――あなた、あなた。あたくしに隠してローンを組んでいましたね? 何ですか、デレデレと愛人に小屋敷なんて贈ってしまって。きちんとシロアリを撒いておきましたからね。

 ――あなた、あなた。呆れ果てました。同じ方にスポーツカーまでお贈りに? 運転席のシートの中に、スズメバチの巣箱を消音マットで包んで詰めておきましたからね。狭くて可哀想ですけれど、スピードメーターが時速百三十キロを越えると座席の裏側にある蓋が開いて自然に車内へ解放されるようになっていますので、どうかご安心くださいな。

 ――あなた、あなた。知っていらして? 最近の台所の油虫は廃油を食べるんですって。ご近所さんたちは、石油コンビナートで大量発生されたら困るわねぇ、だなんて心配なさっていたけれど、あたくしはブレーキオイルのタンクの中に入り込まれる方がよほど恐ろしいと思いますわ。えぇ、車の。ボンネットを開けた所にある栓から、ポチャン、ポチャンと。あれが減るとブレーキが効かなくなってしまいますものね? あたくし達は安全運転ですから、さほど酷い事故には繋がらないと思いますけれど。

(カチャッカチャッとお皿を用意するような音がラジオから響いてくる)

 ――あなた、あなた。そのままで、ちょっと聞いてくださいな。うちのミケったら、最近あたくしのあげるキャットフードに舌をつけないのですよ。お隣が豪勢な残りご飯ばかりあげるものだから味覚が肥えてしまって……。毛繕いをしてダニを取ってあげるのは飼い主ですのに……。お仕事、お疲れでしたでしょう? 今日の夕飯は、ドレッシングを和えたフタトゲチマダニの生苗床の踊り蒸し焼きですよ。レンジでチンして二人で一緒にナイフを沈めましょうね。

 ――あなた、あなた。海外出張のお土産だと仰っていたスウェーデンのクッキー、本当は部下の橘女史から頂いたのでしょう? テーブルの上に開けて、蟻に集らせておきますね。岳志が一人立ちしてからというもの食卓が寂しかったので、久し振りに賑やかで嬉しいです。さぁ、貴方たち、遠慮せずに、たんとお食べなさいね?

 ――あなた、あなた。温暖化で沈んでいく観光島のニュースなんか、そんな食い入るように見詰めなくとも良いじゃありませんか。巷では現地の寄生虫による病気が流行っていたようですけれど、行っていなければ無縁な話でございましょう? あなた、仕事、仕事、出張、仕事、出張、でお忙しくて、あたくしが幾ら強請っても都合が付きませんでしたものね。

 ――あなた、あなた。ところで何時の間に、うちの両親を借金の連帯保証人にしていなさったのですか? 四億円ほど、だなんて、一体全体、何に入り用に……? うふふ、丁度、寄生虫病の治療薬、二人分のお値段に、ぴったり。

 ――あなた、あなた。あたくしの父母は首を括りましたよ。涙の雫で虫食いだらけの遺書には一言、肩代わりした債務の返済に追い立てられて経営していた紡績工場の資金繰りに行き詰まった、と。縄の代わりに長くて太い、血が濁ったような色合いの大百足を巻きつけておりました。選りに選って、いっつも実家の庭先をうろつき回っていた薄気味悪いあのヌシ蟲を使うだなんて、麻を縒り合わせたロープを買う御足すら残っていなかったこと、あたくし、ちっとも知らされておりませんでしたのよ、あなた。暴れた百足の針金のように硬くて鋭い脚が衰えた老人達の首の肉に食い込んで、それはもう、まるで静脈や動脈がザワザワと無数に波打ち走っているかのような悍ましい光景でしたとも。

 ――あなた、あなた。想像お出来になって? ワヂャワヂャと盛んに肌の上で狂い踊る束子の穂先達が、一度ズッと突き刺さると、蛸壺に嵌った蛸のように引き返せなくなってしまうのを。ズルズルと残りの部位までもが首の筋肉の内側に飲み込まれていってしまうのですよ。付け根すら見えなくなるほどに、深く。あれは古い樹木の皹割れた肌。果汁を絞り損ねて鬱血した腐りかけの柘榴の実。耳下の胸鎖乳突筋に挟み潰されて窒息した沢山の糸蚯蚓の群れが外に出たいとお蕎麦状に肉を盛り上げて、皮膚を破り切れずに無念の断末魔を叫んでいるみたいなのです。お饅頭の皮の薄い所が幾つも幾つも、笹の葉のように縦長く……。覗いているのは餡ではなくて、甲殻類じみた逞しい節足の、艶を帯びて蠢き光る死肢ですけれど。菌糸の珊瑚が咽頭の中で蔓延って、系統樹にも似た先端を空洞に収め切れずに、喉仏を裂いて外に生やしておりました。うなじの僧帽筋は少し硬かったのかしら。折れた脚が苔色の体液を滴らせながら、大きな爪楊枝になって刺さっていますのよ。ぷつぷつと。下手な手習いの針山の如く。梁から遺体を降ろしても、出来の悪い甲冑のようにボコボコとした醜い胴殻の段差の痕が、いつまで経っても首から消えません。両親から離れてくれないのですよ、あなた。

 ――あなた、あなた。そんなに頭を下げて謝らなくても、ようございます。仕事の虫だった夫の大切な大切な会社には、埋め合わせに妻から辞表を届けさせて貰いましたもの。その退職金で両親に立派なお墓を建ててあげることができますの。蛆も魍魎も、これ以上入り込んでくる隙間のない、それはそれは大層立派な奥津城を。不出来な娘としては、感謝しているぐらいですわ、あなた。

 ――あなた、あなた。話は変わりますけれど、結婚記念日を覚えていて下すったのね。素敵な呂色の着物を、どうもありがとうございます。早速、身につけて給仕をしてみてあげているというのに、お世辞はまだなのかしら。だけど、不倫相手の倉持さん。これの襟元から彼女の匂いが漂ってくるのはどういう訳ですか。話に聞いていた紅い蝶の柄もありません。きっとあの方、あたくしに着せるために選んでおきながら、我慢できずに先に自分で袖を通しておしまいになられたのね。あら、男の方はご存じないのでしょうけれど、婦人の会では大変噂になっておりますのよ。とても美しい魂魄虫の舞う花装束。袖を通さずにはいられないけれど、もしも通してしまったら……って。いやだ、只の噂ですわ。それに祟りが起こるのは一度切り。最初に纏った人にだけ降りかかるそうですもの。残念でしたかしら? いえいえ、割りかし良い物ですよ、洗浄されても落ちなかった死臭の残り香という物も。

 ――あなた、あなた。懲りない人ですね。背広の脱いだ上着に見知らぬ誰かのキスマークがついている、なんていうのは古典的過ぎて、もう怒る気にもなれやしません。これはしっかり焼いておきますからね。

 ――あなた、あなた。おやすみなさい。弛んだネクタイの上に可愛らしいシデムシを置いておきますね。土が眼球に掛かって痛かったら、ごめんなさいね……。

(プツン)
 


○修正点
・「歳の積もった家電製品は、」→「歳月を積もらせた家電製品は、」
・「涙滴で」→「涙の雫で」
・「引き返せなくなってしまい、」→「引き返せなくなってしまうのを。」


・掲載ページ
 http://www.kaisyu.info/2009/list/19.html

○遺伝元
・楽園 (ラ・フィン島の設定を拝借)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/10.html
・紅 (着物の設定を拝借)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/14.html
 
posted by 謡堂 at 23:20| ◆聊枕百物語

百物語・虫のある家庭 /語り手知らず (怪集/2009、投稿)

 
・掲載ページ
 http://www.kaisyu.info/2009/list/25.html

※この作品は傑作選に収録されました。
 
posted by 謡堂 at 22:13| ◆聊枕百物語

百物語・ガブリエラーゼ /語り手知らず (怪集/2009、投稿)

 
 Caution! 恐怖小説を読み慣れている方なら全く気にならないであろう内容ながら、下記の小説には、人類の愛されるべき一形態へ対する、グロくて残酷かもしれない描写が含まれています。それでも構わないという方のみ、ボタンをクリックして表示して下さい。






 島嶼焼灼作戦が日本列島においても展開された。
 これは世界中で大量発生している巨大凶暴化した蝿の内、日本近辺で活動している個体ら――生息域を広げるための前哨体――を領海内の無人島に誘引物質でおびき寄せ、その後、気化爆弾で殲滅するという作戦だ。成功の報せがニュースで届いた時、我々国民は歓喜で沸き返った。それにより今後一年程は、巨大蝿の群体による本格的な本土襲来を遅延させられるという触れ込みだったからだ。
 そして知るのが遅すぎた。いや、同様の作戦は地球全土で行われていた為、遅かれ早かれ魔手には捕らえられることになったのか。

 ベールゼブブと通称される巨大蝿たちが、ラ・フィン島起源のとある寄生虫を媒介していることが確認されたのは、ハウレスズ・ペストと名付けられた伝染病が各地で猛威を振るい始めてから大分経った後のことであった。
 この寄生虫の特色は、その致死率の高さではなく、『宿主の体内に憶を超える卵を産み付け、その卵は熱すると爆発し、空気中に毒素を放出する』という一点にあった。
 そして日本国民のみならず全人類をパニックに陥れたのは、宿主になっていた巨大蝿たちの体内に産み付けられていた寄生虫の卵は突然変異を起こしていて、気化爆弾で焼かれると同時に毒素ではなく、更なる暴悪な特性を備えるに至った新世代の寄生虫の卵――蝿と寄生虫の両方の特性を併せ持つ――を、あたかも見えざる死の灰の如く、爆風と共に天高く巻き上げるという、厳然たる事実であった。
 この、顕微鏡を使わないと視認できない10μm程度の新卵は熱や放射線に非常に強く、マグマの中でも生き延びると言われている。気化爆弾では大半は焼却しきれず残り、核兵器による攻撃ですら五割を殺せれば上出来なのだという。
 巨大蝿たちへの感染経路は分からない。何故、蝿自身が寄生虫に喰われて死亡しないのかも、不明であった。諸説には、「かつてのラ・フィン島の水没を機に蕃殖範囲を拡大させた、同じ寄生虫を媒介している貝を巨大蝿が補食した(海中の貝を如何なる方法で、陸、空中が主活動範囲の蝿が補食したのか、謎は残る)」「寄生虫と巨大蝿は共生関係にあり、新世代の寄生虫の卵は巨大蝿以外の生物の体内に入って初めて孵化する」など、多々あるが、未だ真相は定かではない。
 ハマダラカとマラリア原虫の関係然り、虫が寄生虫を媒介にすることは自然界ではよくある光景だ。だが、この組み合わせは致命的であった。
 未だそれ以外に有効な攻撃策が見つかっていないというのに、ベールゼブブを焼くと広範囲に撒き散らされ、空気中に微細な粒となって漂う死の卵――風に乗れば、容易く無人島から日本列島全域へと到達する――。それを呼吸して肺胞に取り込んでしまったり、付着した食品を摂取してしまうだけでもアウトなのだ。
 言わば、空気感染する寄生虫。……悪夢である。
 核兵器を用いれば、時として成層圏にまで吹き飛んで地球上を周回し、雲に取り込まれ、雨と共に人間の住まう都市の何処にでも降ってくるという。
 敵性生物を焼灼し尽くす悪魔的魅力に取り憑かれた人類を更なる苛烈な運命へと放り込む嘲弄の病魔、ハウレスズ・ペスト――ラ・フィン島の呪詛、と呼ぶ者もいる。

 便宜上、ラ・フィン・マゴットと呼ばれる新寄生虫の潜伏期間はおよそ一ヶ月。その間、孵化した一部の個体――前哨体と呼ばれる特に小型な産卵に特化したタイプ――が全く苦痛を伴わないで人体内部を活発に動き回り、全身の臓器に少しずつ新たな卵を産み付けていく。時には、血液の流れに乗って移動することもあるらしい。
 また、蟻の実験に見られるような、働き蟻の一部が一定少数の割合で必ず仕事を怠けたという行動とは逆に、そうやって増えていく卵の中から一定少数だけが前哨体となって孵化し活動に加わっていく。不思議なことに、同じ構成の卵から産まれてくる筈でも、早い時期に活動を始める個体のみが産卵特化タイプとして分岐するのだそうだ。
 そして体内の臓器に対する侵蝕率が八割を越えた所で、沈黙していた残りの卵たちも一斉に孵化を開始する。蛆に似た外見を持つ軌攻体と呼ばれる本隊は貪欲で、原形虫と同じく肉を溶かしながら餌が尽きるまで体内を喰い進み、全長5~10cmへと驚異的なスピードで成長をしていく。そうなった場合の激痛は凄まじく、余命は長くて一時間。絶命後も宿主を飽食し続けた呪詛の蛆虫は、食事を終えるとすぐさま蛹化、脱皮。被害者の残骸を真っ黒な抜け殻で覆い尽くして飛び去っていく。
 成虫は蝿に酷似している。憎むべきベールゼブブに。それらがその後、巨大蝿として成長していくのか、はたまたツェツェ蝿(吸血蝿)的な振る舞いを見せて寄生虫の感染を拡大させていくのかは、まだまだ研究段階にあるようだ。
 潜伏期間中、咽頭周辺に集中して卵が植え付けられることで感染者は頻繁に咳き込むようになる。それによって卵が飛び散り、更にハウレスズ・ペストは周囲の人間・家畜へと伝染されていく。

 世界最初の発症地は、ミュリン村だとされている。某国の焼灼作戦実行地にほど近かった農業と牧畜が主産業の閑村である。気化爆弾の人体への悪影響を調べるために丁度現地入りしていたNGO団体の職員が、その瞬間をビデオカメラで捉えて残している。
 映像。村で唯一の円形広場に集まった村人たちが、職員の取材カメラの前で口々に、爆弾が爆発して以降、自分たちの咳が止まらなくなった、と訴えている。もっとも、ラ・フィン・マゴットの前哨体は人間に苦痛や障害を一切与えない為、彼らはそれ以外の面ではいたって健康だ。穿った見方をすれば、補償を引き出すために仮病を使ってごねているようにも見える。
 しかし、そう思っていたとしても、次の瞬間、印象は一変するだろう。
 特に咳き込みの酷かった麦わら帽子の農夫が一人、突如苦悶に表情を歪め、腹を指で掴んで崩れ落ちた。狭い村のこと、ほぼ同時期に感染していたと思しき他の住人たちも相次いで倒れ伏す。撮影レンズが、全員で互いに折り重なって呻き藻掻く瀕死の芋虫たちを映すまでに、さして時間は掛からなかった。近くの家からは泣き叫ぶ留守番の子供の悲鳴や赤ん坊の断末魔に近い絶叫が響いてくる。
 およそ三十分経過。近場の病院に連絡を入れたNGO職員達が必死に看護を続けていると、やがて、農民達の肌の至る所にぶつぶつと親指大の奇怪な黒子が滲み出した。
 まるでタール状の夕立の雨滴が彼らの皮膚だけを狙い打っているかのようだ。
 そして、どす黒く濁った血に濡れて蛆虫が顔を出し、女性職員が金切り声をあげる。
 後は巨大蝿の尾部から蛆の幼虫をスプレイされる蝿蛆症と変わらない。
 外から内に食い破られるか、内から外に食い破られるかの違いがあるだけだ。
 連絡を受けて到着した救援隊が見たのは、広場や畑、牧舎(家畜にも感染していた)にピーナッツ大の墨色の殻が大量に積もって土饅頭を作っている出来の悪いホラー映画のような光景と、夕焼けに向けて一斉に飛び去っていく雲霞の如き寄生蝿の大群。そして唖然とへたり込むNGO団体職員たちの姿だった。
 生存者はいなかった。殆ど皮と骨ばかりになっていた遺体は、稀に肉が残っていたとしてもエメンタールチーズか採掘され尽くした坑道の如く、内部に枝分かれした蛆虫の這い痕が残り、見るに堪えない有様だったという。そのビデオを持ち帰った職員達も感染していたため、数日後に一人も欠かさず、苦しみながらこの世を去った。当時、まだ新寄生虫のことは知られていなかったため、全員の遺体は検屍後、焼却せしめられた。
 報告を受けた軍上層部の頭は、ミュリン村へ『突如飛来した』巨大蝿の残存個体のありもしない潜伏先や、防衛網の見直しにばかり悩まされていたのだという。
 その時点で既にH・ペストの魔手は広範囲に渡って伸びていた。国連機関、政府による情報統制や隠蔽工作なども不可能だった。何故なら、その月を境に同時多発的に世界各地に姿を現し始めた黒死病によって、民衆は今日にも明日にも隣人家族や自分の身で臨床観察を強いられることになったからだ。只でさえネット文化の隆盛で知識の交換が活発に行われている昨今、素人たちの経験則でもおおよその全容は掴めてしまう。安全な地域など、すぐに何処にもなくなった。
 予防は困難を極め、感染拡大を押し留める方策は患者の隔離抹殺以外に無い。治療手段は全く研究されていない。内実が曝かれるにつれて日本においても恐慌状態が出現した。
 感染力の尋常ではない強さ、完全な致死性、平穏な潜伏期間の存在が培う、一秒後には発症するかも知れないという恐怖。この新種の伝染病禍は、人体は言うに及ばず、心をも犯して荒廃させる。皆が疑心暗鬼に駆られた。周囲の人間は既にH・ペストに感染していて自分を巻き添えにしようとしているのではないか、と。
 咳狩り――そんな物までもが現れて、猖獗を極めて吹き荒れた。
 魔女狩りじみた感染チェックは日常茶飯事、暴徒化した群衆が、咳き込んだ者を見つけては携帯電話やメールで連絡を取り合って集まり、リンチにかけて殺していく。
 定食屋で味噌汁に噎せただけのサラリーマンが、店員や他の客から袋叩きにされて殺害された、そんな出来事が笑い話ではなく実際に起きたのだった。その年のインフルエンザの死亡率は例年の十倍、直接的死因のトップは殴殺である。
 そして無知な一部により死体が焼かれ、あるいは遺族が加害者たちへの報復として遺体を焼き、本当に罹患していた者らからの感染は更に拡大した。
 当然ながら巨大蝿感染への関与を疑われたラ・フィン島の元住民達の元には世界中から私的正義の執行者達が集まってきた。その後の結末は闇に包まれている。島民達は移住先である新しい島から忽然と姿を消していたと囁く者もいる。デマインの実も種も持たず身を守る存在価値を失っていた彼らはあえなく撲殺されたと囁く者もいる。昆虫側に寝返って奇怪な奉仕生物へ変貌を遂げたのだと囁く者もいる。反感を爆発させた某大国の不正規戦部隊に拉致されて獄殺されたのだと囁く者もいる。
 余談だが、H・ペストの患者を火葬にすることは出来ない。仕方なく不衛生な土葬(水葬や鳥葬などは、遺体が補食されて媒介生物が増える危険を考えれば、とんでもない!)という形を取るのだが、そこからは本来の黒死病が発生して、また人が死んだ。

 世界レベルでも、H・ペストのこの空挺奇襲作戦には滅多打ちにされてしまっていた。
 死亡者は全人口の四十パーセントを越え、社会機能の麻痺は深刻、ライフラインは悉く破壊され、その惨憺たる有様は水道の蛇口から蛆が出るとすら評された。
 国連の監視機能も低下し、奴らこそ感染源だ、というデマゴークによる民族浄化を止められない。その骸の山を目当てにベールゼブブが襲来、浄化側までもが同じ場所に屍を積み重ねることになった。
 更には、焼灼作戦への忌避による対蝿戦線の後退縮小、消滅。対化学戦防卵装備に身を固めた各国軍隊が個別に通常弾薬や液体窒素フリージングスロウワー、試作超音波兵器にて応戦するも、主力ミサイル類の使用を封じられた状態では勝利は覚束なく、全作戦の実に七割において都市部への突破を許してしまうことに。
 逃げ遅れた住民たちを人柱として巨大蝿に捧げながら、大規模な後退作戦が人類圏全域で行われた。地表の三割を、飛び地状に分布する隔離棲息地域としてベールゼブブに明け渡す羽目になったが、それでも奴らの侵攻は止まらなかった。
 結局、焼灼作戦は再開され、市民には心許ない防毒マスクのみが配られた。

 だが人類とて、ただ座して死を待っていた訳ではなかった。
 特に、蝿の王の名を冠された生物に対する耶蘇教系宗教団体の敵愾心と熱意は凄まじく、ついには地球温暖化で絶滅したとされていたデマインの果実の酵素――件の原形寄生虫を死滅、分解させる地上で唯一の物質――を人工的に生成することに成功したのだ。
 効果は正に、膺懲の一撃と呼ぶに相応しい代物だった。ラ・フィン島起源の寄生虫の特性を得ていた新世代の蛆卵は、それ故に、原形寄生虫の天敵によっても死滅せねばならなかったのだ。感染者が酵素を服用した後、一瞬で全個体が。僅か十分の間に! 残念ながら巨大蝿の撲滅には未だ至れず卵の感染が絶えず続くため、服用は定期的に続けなければならなかったが、この酵素を含有した錠剤の登場により戦いの趨勢は一気に人類へと傾いた。
 開発者達の当然の権利として、錠剤にはガブリエラーゼ(Gabriel+ase)と名付けられた。人類がベールゼブブやラ・フィン・マゴットとの闘争に打ち勝って更に繁栄する新時代の到来を告げる、受胎告知の天使、という意味を込めたのだという。
 現金とも言うが、希望を得た人類は強かった。心ある志士達が立ち上がり、直ちに、ハウレスズ・ペストと戦う地球全域へのガブリエラーゼ配給計画が発動された。
 医薬工場は他の製品の生産を全てストップし、救世主の量産へ向けてフル稼働した。必要な材料や資金人員の調達、巨大蝿からの施設防衛、全ての人類が人種や思想の垣根を越えて手を取り合い、多少の軋轢はあったけれども協力してラ・フィン島の呪詛に立ち向かった。結果、錠剤の普及率をほぼ百パーセントに出来たことは、人類史に誇れる偉業だと思う。
 先を競って薬を手に入れ服用した人々は、計画の完了が発表されると霊長類としての自信や誇りを取り戻し、科学兵器と薬学、それに神の加護とによって、いつかは寄生蛆も巨大蝿も地上から消し去ってみせる、と久方ぶりの歓声をあげた。
 それは、あの時の、島嶼焼灼作戦の成功に沸き返る我々日本国民の姿に非常に酷似していた。

 そして今、私は宕古蠱大学病院の産婦人科の一室にて頭を抱えている。
 出産に至った、とある事情を持つ妊婦と赤子を前に、医師団のリーダーとして。
 目の前の分娩台は破水によって広がった羊水で液浸しになっていた。その中で泳ぎのたくっているのは、大量の蛆虫である。ガブリエラーゼによって死滅させられた筈の。
 ……否。子宮内の羊水は出産直前に胎児から溢れ出した蛆虫によって全体の七割を占有されていた。正確に言えば、分娩台は破水によって妊婦の産道から流れ出してきた羊水塗れの蛆虫の大群で表面を覆い尽くされてしまっている、となるだろう。
 そして、哀れな犠牲者、形容するのも憚られるような畸形の姿で誕生した異常な赤ん坊が、べちゃり、と母親が開脚している股ぐらからこぼれ落ちて肛門付近で俯臥していた。
 母親本人は出産開始直後より子宮から臓器を蛆虫たちに喰われ始めて、たった今絶命した所だ。この一時間、薬品投与や子宮摘出など、考え得る限り最善の手を尽くしたつもりだが、力が及ばなかった。軌攻体が相手だとガブリエラーゼも効きにくいのだ。只でさえ衰弱していた状態なのに、よく保ってくれたと感謝するべきなのだろうか。それとも徒に苦痛を長引かせたことを詫びるべきなのだろうか。いずれにしても、生死の境で懸命に踏ん張っていた彼女が我が子の産声を聞くことは、最早ない。
 この母子は、ガブリエラーゼ服用後に妊娠したケースで行われる出産の第一号だった。その新時代の幕開けに立ち会えることを光栄に思う気持ちは、産まれてくる愛し子の性別を知りたがった母親の要望でエコー検査を行った段階で吹き飛んでしまっていた。
 羊水には若干の蛆濁が見られ、肝心の胎児は、まるで蝿類と同化したかのような、語るも悍ましい姿で成長しようとしていたからだ。
 何が起きたのか、関係機関の必死の研究の末、予測はついていた。
 臨床試験もそこそこに新薬に飛びついた我々の迂闊さを呪うより他はない。結果的に恒常的に人体に投与されることになったデマインの酵素と、それによって死滅し特殊なタンパク質へと分解された蛆寄生虫の卵――特に子宮近辺の物――が、ヒトの受精卵が持っている未分化状態の胚性幹細胞(ES細胞)に悪意のある働きかけを行ったのだ。
 通常、ヒト受精卵は、あらゆる細胞になる可能性を秘めた万能細胞を持っていて、それはOct3/4に代表されるたんぱく質などの働きかけによって、手足や臓器など、胎児の身体になる物へと分化成長を遂げていく。
 Blz666。我々がそう名付けた前述の特殊なタンパク質は、その生体メカニズムに横槍を入れる。何者よりも強く速く無垢なヒト受精卵に取り付き未知の分化を促す形で第二の精子を注ぎ込み、胎児を変質させて畸形にした挙げ句、腹部には滅ぼされたはずの蛆寄生虫の卵を再び大量に構築させて腫瘍として抱えさせるのだ。
 またデマインの酵素は反応鍵を二つ持っていて、ラ・フィン・マゴットの卵を殺す一方で、女性の羊水の成分とも反応し、己を不活性化させる物質を作り出すことが判明した。つまり、妊娠が進んで子宮内に羊水が満ちてくると、その中にいる寄生虫(胎児が抱える腫瘍状態の再生卵)は、殺せなくなる(ラ・フィン島でも、妊婦には貝を食べさせない貝断ちと呼ばれる風習があったという)。加えて、Blz666に変異させられた臍の緒は母親から栄養を受け取る際にデマインの酵素を一切通さず、鉄壁の防護網が形成されてしまう。
 何より恐ろしいのは――、そうした揺籃で育まれたこの赤子が、生物として十全に機能しているということだった。
 見ろ。ガブリエルの祝福を受けてこの世に誕生した筈のヒトの仔が、よちよちと四肢を前後に動かし、蝿の翅を開く。
 ――キチキチ、……チチチッ!
 彼女の本来眼球があるべき位置には巨大なレンズの如き紅い複眼があった。生育段階で追いやられた未発達な人間の眼球が別に、鼻の上、眉の根元に小さな眼鏡のようにちょこんと座って、きょろきょろ、としている。背中には肩胛骨付近から発達して臀部に掛けてまでを覆う蝿の羽が、二枚のマントとなって畳まれている。
 腫瘍化していた蛆の卵を全て吐き出した腹はばっくりと内部を覗かせ割れていて、まるでキューピー人形の腹部を踏んづけ背中まで陥没させたかのようだ。肉を残している両横腹から、開いて突き出た長大な六本の肋骨が台の上に突き刺さり、昆虫の節足の如くカサカサと動き出している。
 ――カチッカチチッン。
 ベールゼブブの影響か、鮫のように尖った乳歯は上下ではなく左右から生えている。それを打ち鳴らしながら、その赤ん坊は歪んだ両手両足を使って、はいはい、を始めた。
 赤子らしいふっくらとしたふくよかな手の平。その指の先端には、爪の代わりに剃刀状の鋭利な突起が生え始めている。肌は人間の皮膚と蝿の皮膚が半々程度の斑模様、一部甲殻に覆われ始めている部分も見受けられる。どうやら、硬い骨の回りを柔らかい肉が覆う運動性に優れた内骨格生物と、柔らかい組織を硬い外殻で覆う保護性に優れた外骨格生物との両方の特性を得ているらしい。
 昆虫としての体節化なのか、首がやや寸詰まりになり、腰の括れが激しくなっていた。
 臀部の双丘は搗きたての餅を摘んで引っ張ったかのようにぐいんと伸びてから膨張し、二本の蝿の尾部になっている。おそらくスプレイも可能だろう。両者の付け根が交差する部位には人間の肛門と性器も見られ、その二穴から次々と新たな蛆虫を産み零していた。
 手首や関節が揃っている腕に比べて、両足は膝までしかない。切除痕に似た瘤状の膝頭から、スパイク状に発達した一本の太い棘骨を生やし、分娩台の柔らかい素材を刺し貫いて、尻を突き上げるような姿勢を取っている。
 ――ブッ、ブブブブブブブ……ッッッ!!
 猟奇的な姿の赤ん坊の背中から、耳障りかつ恐怖の根源に足り得る振動音が響く。
 まさか、飛べるのか? 動物サイズの重量を持ち上げる力があの翅にはある?
 巨大蝿と同じく!?
 中絶に強硬に反対していた同僚の医師が呟いた。これは進化だ、と。蝿の生命力に身体能力、人間の腕の器用さに加えて、もしかしたら知能をも兼ね備えた新人類、「ベールゼブブの堕とし仔」の誕生だと。二足歩行に拘る必要も無いじゃないか、と。
 そうなのかもしれない。Blz666という腐臭漂うエデンの果実を強引に口腔に詰め込まれてしまった人類は堕落しながら生きていく以外に術がないのかも知れない。私には打つ手が思いつかない。
 嗚呼、赤子が咳をしている。きっと、寄生虫の卵を吐き散らしているのだ。思えば彼女は産声を一度もあげていない。代わりにずっと咳き込んでいた。
 いつのまにか蛹になっていた蛆虫たちから一斉に成虫が羽化し、ぶわりと黒い雲となって分娩室の照明を覆い隠した。出口を探して壁にぶつかり回る兄弟姉妹に釣られるように、新世代の赤ん坊もふわりと飛翔する。そして、自分が母体と一緒に搬送されてきた扉の上部に吸い寄せられるように飛んで行き、ごつごつと頭を打ち付け指の鉤爪で隙間を穿り返そうとしながら、ちろりと不満そうに私たちを見た。
 止めろ。お尻をこちらに向けるのは止めてくれ。

 繰り返す。ガブリエラーゼの普及率は現在ほぼ百パーセントである。この母子は特別な例ではない。錠剤の服用とH・ペストへの感染がかち合えば、人間の妊婦は必ず堕とし仔を出産する。
 そして、中核開発者達を失ってマンティス計画が暗礁に乗り上げている今、人類は巨大蝿を焼き続けるしか手がない。焼き続けてラ・フィン・マゴットの卵を爆散、感染を拡大させ続けるしか未来がない。



・掲載ページ
 http://www.kaisyu.info/2009/list/35.html

○遺伝元
・マンティスの祈り (ベールゼブブの設定を拝借)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/6.html
・楽園 (ラ・フィン島の設定を拝借)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/10.html
・たとえそれが悪魔でも (宗教団体、繋がり)
 http://www.kaisyu.info/2009/list/11.html
 
posted by 謡堂 at 22:02| ◆聊枕百物語