2023年02月17日
百物語 「利他の極北、御破算の四様」 1/2 /語り手:雲海王ゼイラー
これは、「利他の心」が、混沌より「愚者」として生まれ、「創造主」の座を経て、「道化」となるまでの顚末である。
そして、汝ら「魔」の誕生した淵源である。
初めに大いなる混沌が在った。
混沌とは、全てが生じる寸前で内包されている状態。同時に、まだ一つの存在も生じていない状態。すなわち、如何様にでもなれるが、如何様にもなっていない状態のことである。
ある時、この世で最初の偶然が起きた。
「利他の心、他者の幸福を願う心」が、混沌の中に生じたのである。
ここに、万能故に無能という、混沌の均衡、調和は破られた。
混沌とは、全てが生じる寸前で内包されている状態、であった。
その中から何かが一つ此岸に生まれたならば、それ以外の全ては彼岸に取り残される。
「利他の心」の周りには、「利己の心」及び「利他の心でも利己の心でも無い、それら以外の全て」が取り残され、世界――最古の世界となった。また、「利己の心」は自身が変化することも行動することも嫌い、ただそこに在るだけの、因果・法則と呼ばれる存在になった。
その状態は、既に混沌でも万能でも無い。
原初の完全なる調和を崩してしまった「利他の心」は、後世において「愚者」と呼ばれるようになった。
さて、万物の坩堝であった混沌から、内在していた要素が分裂・分離することにより、万能性は失われた。しかし、混沌から生じた物らの、その総体から、真の意味で事物が失われることは、決して無い。
故に、愚者と世界とが接触し、両者が混じり合った場合にのみ、万能性は擬似的な復活を遂げる。愚者は世界から、未だ生まれぬ物を望むがままに取り出せるようになったのだ。
こうして「愚者」は、「世界に不可逆の変容を齎す呪い」、もしくは、「創造主」となった。
さて、「創造主」となった「愚者」――「利他の心」には、幸福を願うべき他者が必要であった。故に、彼の者は、幸福を感じ取れる存在として、思考する物質――知性体を創造し、その幸福を願ったのだった。
我々、知性ある者の原型は、かような仕儀により世に形を得、思考する物質を取り出された世界には、思考しない物質が取り残された。
次に、彼の者は、世界から種々の幸福を取り出し、知性体達へと分け与えた。
食事で腹を満たす幸福、睡眠を貪る幸福、姦淫に耽る幸福。
その他、思考を形にする幸福、新奇に臨む幸福、他者から奪う幸福、他者を損なう幸福、幸福を求めぬ幸福――矜持、全ての幸福を奪われた者に最後に残される幸福――復讐、ありとあらゆる幸福を、である。
幸福を全て取り出された世界には、不幸のみが取り残され、その世界に存在する知性体達を苦しめた。
一例を挙げるなら、食事で腹を満たす幸福を得た者は、食する物が何も無い世界へ放り出され、永久(とわ)の飢餓に苦しむのである。
それを見て嘆いた彼の者は、世界から幸福を満たせる物を取り出し、各々の知性体へと分け与えた。
故に世界には、幸福を満たせない物が取り残され、その究極である所の死が顕れた。
一例を挙げるなら、食事で腹を満たす幸福を得た者は、食料を得た代わりに、腐敗・毒・寄生虫等と戦わなければならなくなった。そして、最終的には知覚の終焉、死が確定したのである。
つまり、我々知性体は、幸福を得たが故に、その幸福によって死なねばならなくなったのである。
他者が不幸に見舞われたり、死すべき運命(さだめ)にあることなど、「利他の心」である彼の者には、到底、認められないことだった。
彼の者は、不幸を緩和し消す為に、夢や希望を取り出した。
それ故に、不幸を増大させ極限化する、絶望もまた顕れた。
彼の者は、死の到来を遠ざけ、永劫の彼方へ追いやる為に、盾となる物を取り出した。
それまで混沌から産まれた物らの特性として、全ての因果は混在していた。指標が無いが為に、それぞれが別個に脈絡無く、言わば狂気的に存在していた。結果が混ざり合い、逆転し続け、死も常にあらゆる知性体へと降り注いでいたのである。
我々が「時間」と呼ぶようになった盾は、因果を変化の道筋に沿って並べ直し、死を全ての最後に位置づけた。これによって我々は死までの猶予――生を得たが、その代わり、因果は不可逆となり、死という結果も決して覆らなくなった。
また、死を遠ざける盾としての時間の反概念として、死に限りなく近しい空間――虚無が顕れ、時間の増大に従って、全てを呑み込み始めた。
特に、長命の者や不死者は、これに抗わなければならなくなった。
彼の者は、己が全ての不幸と死を一身に引き受けることで、他者に幸福のみを残そうとした。
それによって彼の者は、不幸と死の受容体である所の肉体と知性を手に入れたが、引き受けることが出来た分の不幸や死が新たに湧いてくるだけで、意味は無かった。
また、我々にとって幸か不幸か、利他の心には自分を守ろうという発想が無かった為、彼の者は時間という保護膜の外側にいた。故に、彼の者にとって死とは可逆な現象であり、今も死に続けながら蘇り続けている。
彼の者は、個に力を与え、不幸や死に抗わせようとした。
それ故に、世界には力を失う現象、衰弱や老衰が顕れた。
彼の者は、個達に、言葉や協和の概念を与え、集まって一致団結することで不幸や死に抗わせようとした。
それ故に、様々な種族と文明が生まれ、格差と搾取、偏見と差別、戦争と災害に悉く焼き尽くされた。
手を尽くしているにも関わらず、一向に不幸も死も減らない様子を見て、業を煮やした彼の者は、ついに全ての知性体へ不老不死と全知全能を与えようとした。
全ての知性体を、何でも願いが叶う存在、如何なる不幸も寄せ付けぬ超越した存在へと創り変え、「超越した幸福」を享受させようとしたのである。
そして、変容を実行した正にその瞬間、そこで漸く、不幸や死が増大している原因が己の行いの所為であることに気がついた。我々にとって幸か不幸か、他者の不幸と死を引き受ける際に受容体として得た知性が、気づかせたのである。
そして、このまま変容が完了すると、全ての知性体が不老不死と全知全能を得た瞬間に、その知覚の終焉たる全ての知性体の「超越した死」――全ての知性体の「絶対の消滅」が世界に顕れ、被造物達が絶滅してしまうことを悟った。
気が動転した彼の者は、咄嗟に、その身をもって変容を堰き止め、反対側へと弾き飛ばした。そして、これ以上新たな不幸を誕生させぬ為、つまり、自分がこれ以上他者の幸福を願わぬように、全ての記憶を世界へ棄て、見聞きしたことも片端から滑り落ちるように記憶の底に穴を開けると、表舞台から去って行った。
こうして「利他の心」は、「愚者」として生まれ、「創造主」の座を経て、「道化」となり、世を放浪する存在となったのである。
忠告しておく。
「道化」とは「滑稽な者」を表すと同時に「道ばたで出遭う化け物」の意も込めている。
もしも汝が、「お節介を心臓に生まれてきた」などと嘯く存在に遭遇しても、絶対に物品を受け取ってはならない。何故ならば、それは今語った幸福と同じ方法で世界から取り出された物品であるからだ。
受け取れば、一時的な幸福は得られるであろう。だが、零落した彼の者が、汝が為の幸福を願い、それを実現させるべく贈り物を産み出す時、必ずや、汝が為の不幸も世界に取り残され、顕れている。
それは、いつか必ず汝に牙を剥く。死が救いとすらなるような、恐るべき不幸が汝を見舞うことだろう。
心せよ。
彼の者は、最後まで選択を間違え続けた。
学習の根源たる記憶を棄てても、在り様の本質たる力を棄てることは能わず、懲りずに他者の幸福を願い続け、しかし、その試みは必ず失敗する。しかも、その失敗から学んで行動を改めることは、決して無い。そのような災厄が、如何なる制約も受けずに地を徘徊する世界に、我々は在るのである。
ここまでの話を狂人の戯言と嗤うならば、我が名を知れ。
我は雲海王ゼイラー。血を流す幸福を与えられし原初の竜にして、打ち棄てられた道化の記憶を浴びて受け継ぎし語り部なり。
言祝ぐがよい。
汝らは幸福を望まれて生まれてきたのだ。
嘆くがよい。
汝らは、それ故に不幸に見舞われるのだ。
憎しみと共に崇めるがよい。
万能の無能たる女神、創世神ヤキナ・オブゼを。
posted by 謡堂 at 12:40| ◆聊枕百物語
百物語 「利他の極北、御破算の四様」 2/2 /語り手:雲海王ゼイラー
さて、彼の者の試みた最後の行程――全ての知性体へ不老不死と全知全能を与える変容と、それを遮る割り込み――は、我々の感覚からすれば無に等しい、刹那の間に起きた。
だがしかし、両者の間には確かに間(ま)が在り、割り込みは、変容が超常の産道を潜り抜ける、その丁度半ばの所で起きた。
そして、彼の者が変容を「反対側」へ弾き飛ばしたが故に、世界は二つの未来へと引き裂かれたのだ。
すなわち、我々「思考する物質」たる知性体が、不老不死と全知全能を得るが故に、その瞬間に「超越した死」と遭遇し、絶滅してしまう未来。
または、弾き飛ばされた変容が「思考しない物質」へと振り撒かれ、石塊(いしくれ)に至るまで不老不死と全知全能を得た結果、つまる所、現(うつつ)が不滅となった結果、夢という反物質と対消滅し、それに巻き込まれて知性体も消失してしまう未来である。
本来、我々は、どちらかの未来に至って滅んでいなければならない。
それがこうして、未(いま)だ命脈を保っているのは、道化の造った舞台が二つの終幕へと引き裂かれる、その亀裂から、三番目の破滅、荒ぶる猛威が顕れたからである。そして、先行する二つの脚本に対して、強烈な反抗の作用を及ぼしたからである。
言うなれば、それは、確定に叛く不確定。観測の向こう側より噴き上がる存在(もの)。
必定の滅びに抗う存在にして、永遠の楽土を破壊する存在。
世界へ絶えず変容を齎してきていた愚かなる創造道化の不在を埋めるべく、残された世界から押し出されるようにして顕れた、まつろわぬ力の奔流であった。
まつろわぬ力は、確定した二つの未来の間、概念的な意味での中央に陣取り、両者が完遂されることも、己の前から逃げ去ることも赦さなかった。
故に、世界の在り様は、絶えず引き伸ばされ続ける撥条(バネ)、もしくは、流砂の中を登り続ける旅人の如き様相を呈したのである。
鬩ぎ合う破滅によってのみ、我々の安定は保たれる。
全ての物事は、無為に前へと進む。
さて、定まらぬ未来と破滅の間(あわい)にしがみつき、辛うじて存在し続けている我々や事物にとって、それは決して心安らかなる状態でも、負荷を受けない状態でも無い。
故に、絶えず命は悲鳴を上げている、絶えず構造は軋みを上げている。
それら悲鳴と軋みは、やがて、まつろわぬ力と共鳴し、決して消え去らぬ異物、何者にも満たされぬ空隙へと変質した。また、一部は生物や無機物、形無き概念と混ざり合い、条理に互する不条理、世の理に背き牙剥く異形として固着した。
受け入れぬ者。悲鳴と怒号、軋みと衝突より産まれ出ずる者。
所詮は偶然のバランスによって成り立っている、この世に対し、強烈な否定の執念、変革を誓う威志を持つ、まつろわぬ力の申し子ら。
その存在らは、
世の理から外れながら、己の理には縛られる。
境界線も天秤も己が内のみより沸き上がらせ、
悪を謳いながら、善を為す。
善を誇りながら、悪を為す。
後代に至り、その概念を示す為、この世で唯一の言葉が造られた。
すなわち、「魔」である。
また、世からあぶれざるを得ない「魔」の流れ着く場所、土地からして魔性その物である、集積地にして環流地。それが「魔界」である。
魔が力を振るう時、周囲の世界は共鳴によって破壊され、魔の望むように変質させられる。その変質は、更なる軋轢を生み、魔が退かぬ限り、いずれ現世を呑み込み改変し尽くさずにはおかぬ。
故に、汝ら魔物は、己こそが現世に対する破滅の未来たらんとする者達である。
そして、それぞれが別個の破滅の未来の影である者達を、より広汎な潮流を示すことで糾合する存在、それが「魔王」である。
世において、まつろわぬ力は魔の咆哮を通じて噴き上がり、魔の消滅を通じて鎮まる。
何故ならば、荒ぶる猛威もまた、汝らに共鳴し、その活動へ影響を受けているからだ。あたかも、形代となった藁の人形が、被呪主の踊りに合わせて踊り、また、自身の踊りに合わせて被呪主を踊らせるが如く。
故に、汝らは、世の鼓動であり、贄である。
魔の勢力が伸張し切るならば、現世はまつろわぬ力に呑み込まれ、あらゆる確定を失い、千々に引き裂かれるであろう。逆に、魔の勢力が衰退し切るならば、現世はまつろわぬ力という変容への軛(くびき)を失い、双極の終焉へと引き裂かれるであろう。
故に、道化の後葉にして、己こそが愚者に成り代わらんと欲する痴れ者共よ。
思うがままに世に猛威を振るい、為されるがままに世に滅ぼされるがよい。
それこそが世を保つ供犠であり、祝詞(のりと)なのである。
その屍の塵澱が、いずれ現世を覆い尽くす、までの間は。
posted by 謡堂 at 12:33| ◆聊枕百物語
百物語 「利他の極北、御破算の四様」 おまけ
パルセイズ
「…………(『話長ぇなぁ、この爺ぃ』って顔)」
シェリスエルネス
「…………(『昔、アレにおしめを替えられたから、今、こんな淫惨な状況に陥っているのでは。替えられたおしめの中に、ヤキナ・オブゼが産み出した物品は、なかったのか』って必死に思い返している顔)」
ザーバッハ
「…………(『本人に長女だと信じ込ませて自勢力に迎え入れたはいいものの、もしやデメリットしかないのでは?』って顔)」
posted by 謡堂 at 12:30| ◆聊枕百物語
2021年05月24日
百物語 悪魔の善意 /語り手:ヤキナ・オブゼ
ケッケッケェ、はぁい、皆さん、こんばんはぁ。
お節介を心臓に生まれてきた魔界の道化師、ヤキナ・オブゼの姉ちゃんですよんっと。
今宵も、良い百物語日和でござんさぁねぃ。
と、話の前に……、ちょいちょい、そこの人間さん。
そうそう、そこの、あんたさん。
この福引きのガラガラ、回していかんかねぃ?
いやね、行きつけの商店街の活性化にでもなれればってねぇ、開催してみたんだけんどもねぇ、景品が大分、余っちまってねぇ……。
うんにゃあ、回してくれる人は居たのさぁ。だぁけど、誰(だぁれ)も当たった景品を受け取ってくんなくてねぇ。……足りなくなるよりマシったぁいえ、人間ってぇのは、無欲なもんさねぃ?
さて! そこでアンタだ!
券はいらねぇ! 好きなだけ回して構わねぇ!
見事、豪華粗景品を引き当てて、用意した品々が山のように残っちまって、ちょっぴり傷心なヤキナ姐さんを、よしよしと慰めてやっとくんな!
正直、抽選無しで残り物を全部、御進呈しちまってもいいんだが、そこは雰囲気作りってぇことで、一つご了承頼んまさぁね!
……。
…………。
………………。
(チリンチリンチリン!!!)
はぁい!! おぉぉめでぇぇぇとさぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!
いやあっ!! 凄いねぇっっ、持ってるねぇ!!
一発で特賞と来たもんだ!!
きっと景品の方でも、アンタに貰われたいと思ったんだろうねぃっ!
はいっ、これ、特賞Aの『特製ミニチュア・ブラックホール』。
夏休みの観察日記に最適!
子供の科学離れを防ぐにゃあ、実物を見せて興味を惹くのが一番!
創ってやった学者先生、悲鳴を上げて喜んでくれてたっけなぁ!
そいよ、確かにお渡し致しやしたぜぇ♪
後、ちょぉっと待っててなぁ、今、持ち帰る用の紙袋ぉ出してやっからねぃっ。
どぉぉこぉにやったかねぇ〜、ガサゴソ〜っと。
――へい、お待ちぃ! って、あれ? 人間さん? おんや、おんや、人間さん、ブラックホール置きっぱなしで、何処に行っちまったんで?
えぇぇぇぇ! またかい!?
人間ってぇのは、絶対に福引きの景品を受け取らねぇってぇ信条でも持ってんのかねぃ?
おい、お前さんら。そこでアホ面ぶら下げてる魔物連中のことさぁね。
今の人間さん、何処に行ったか知らねぇかい?
良いもん当たったウキウキ気分で、肝心の景品忘れて帰っちまったってんなら、追いかけて届けてやんねぇと。いや、そもそも怪談も、まだ聞いて貰ってねぇ訳だけども。
……え? 金輪際、関わってやらないことが、せめてもの供養?
もう、放っておいてやれ?
何、言ってんのさぁ?
……仕方ねぇなぁ。
景品も玉も、元に戻しておくかね……。
気ぃ取り直して、あたしゃ怪談を始めますよっと。
さてさて。
世間様じゃあ、怖いもん、悪い奴の代名詞にされちまってる悪魔ってぇのは、実は人間のことが大好きな奴らなんだなぁ。
そりゃもう、人間を猫っ可愛がりで、お節介焼き。助けになってやりたくって仕方が無い! ってぇ連中なのさ!
だけんど、悪魔なもんだから、人の助け方ってぇのが、よく分かってねぇんだな。
手ぇ出すと、必ず相手の人間を不幸にしちまう、可哀想な連中でもあるのさね。
あ、さて。
今宵、このヤキナ・オブゼが語りまするは、そんな悲劇とも喜劇ともつかねぇ傍迷惑なお話で――、
――あん? もういい? もう分かった? 何がでぇ?
――一度に二話、演(や)るのは、ルール違反? だから、これから一つ話そうってぇ話じゃないさね。
おいおいおぉい! 語り手を引き摺り降ろそうってなぁ、どういう了見でぇ! まだ枕が終わったばっかじゃねぇか!
はぁ!? あたしゃ、悪魔じゃなくって魔物――――!!
posted by 謡堂 at 16:13| ◆聊枕百物語
百物語 魔界実話怪談1 /語り手:シェリスエルネス
※「前回の話」の続き。次の番。
私(わたくし)、今のアレにおしめを替えられながら育てられたんですの。
……過酷な乳児期でしたわ……。
○乳児期中にシェリスエルネスが会得したスキル(抜粋)
・毒物耐性、毒物看破、毒物栄養素変換
・味覚鈍麻、味覚防御、攻性味覚、ゲテモノ耐性、ゲテモノ好み
・非食物分解、非食物栄養素変換
・魔力欠乏耐性、魔力枯渇時生存、魔力節約、魔力回収、魔力マーキング
・活力の前借り
・虚無耐性、虚無捕食、混沌耐性、混沌捕食、自生命維持、自存在維持
・トラップ受け身、トラップ看破、トラップ回避
・呪いのアイテム耐性、呪いのアイテム調教、呪いのアイテム逆支配、呪いのアイテム破壊
・転落受け身、エア・クッション、瞬間浮遊
・揺さぶり耐性、脳防御、揺さぶり反撃
・睡眠時警戒、睡眠時反射反応速度UP
・気絶回復速度UP、気絶回避(根性判定)、気絶時布石、気絶時魔術維持
・第六感
・脱出判定+3、緊急脱出判定+1
・瞬間回避、絶対回避、短距離ワープ、瞬間非在
・全力防御、死力防御
・再生、報復再生、再生速度UP
・這い戻ってくる乳児(乳児期限定)
・索敵、道化師索敵
・這い這い、忍び這い這い、ハイ這い、這時膝保護 (全て、乳児期限定)
・ローリング(横方向)、抱きつき、戦略的粗相、零距離スクリーム (全て、乳児期限定の特殊アクション)
・ステルス、迷彩(石床、泥)、潜伏(石床、泥)
・匍匐前進、報復前進、報復全心
・厨房侵入、厨房潜伏、厨房窃盗、厨房陣地化、厨房経由パス
・狂気耐性、対狂人会話、対ゴアメイド交渉
・不在証明、時間の不在
・犯行手順構築、犯人特権
・無言語魔術、泣声魔術、マンドラゴラ・シャウト、バンシー・キーニング
・ラップ音、ポルターガイスト、念動力
・報復の乳児(乳児期限定)
・誰が道化師を殺したのか(乳児期限定)
・ゴシックホラー・インファント(乳児期限定)
posted by 謡堂 at 15:56| ◆聊枕百物語
2014年12月04日
百物語 ゴシック子守唄『森妖精ハイドハイドキギー』 /唄い手:シェリスエルネス
葉っぱが 隠すよ さわさわ、わささ
夜道を 隠すよ さわさわ、かささ
気がつきゃ お前は 崖の縁
もしくは、もしくは 滝の上
しまいにゃ、しまいにゃ 土の中?
【おまけ会話】
Q:「危ないから、夜に森の近くへなんて行かないでおくれ」、そんな、親の切実な想いの篭もった魔界の子守唄を聴いた、ご感想を、ランセリィさん、どうぞ。
ラ「うわあっ、夜の森って、そういうドキドキがあるんだね! 行くのが楽しみー♪」
Q:こんな無情な返答を聞かされた、ご感想を、シェリスエルネスさん、どうぞ。
シェ「あら? この唄って、『今度、親子で夜の森へピクニックに出かけましょうね』っていう唄じゃ、ありませんの? 私(わたくし)、てっきり」
posted by 謡堂 at 23:27| ◆聊枕百物語
怪談を語った経験点による成長
・シェリスエルネスが、下記の臣下を捕獲!
★名前:森妖精ハイドハイドキギー
分類:ミスチーフ・フェアリー(悪意は無いけど迷惑な、悪戯者の妖精)
属性:中庸・迷惑・森林・小人
解説:
かつてシェリスエルネスに悪戯を仕掛けた所を取っ捕まって臣下に加えられた、森の妖精。
現在は、魔城の庭園にて庭師(ガーデナー)に任命されている。
常夜の荒野に自分の森を創れないか、思案中。
・シェリスエルネスが、呪歌『森妖精ハイドハイドキギー』を修得!
★名称:呪歌『森妖精ハイドハイドキギー』
効果:歌声の届く範囲内の全ての存在に効果。対象を睡眠状態に陥らせる。
このスキルは君主補正の対象となる。
臣下に加えている妖精達の数や属性の偏り等に応じて、効果が変動する。
以下は一例。
◆モード:ファニー・フェイ
(条件:臣下の妖精達が、陽気かつ穏健寄り)
対象を睡眠状態に陥らせる。
対象が味方であった場合、睡眠中にHPとMPを徐々に回復させ、睡眠が1ターン継続するごとに、ランダムなバフ効果を一つ与える。
対象が敵であった場合、睡眠が1ターン継続するごとに、スキルをランダムに一つ忘却させる。特定の儀式等で回復させない限り、これは永久に失われる。
対象が味方でも敵でもない場合、睡眠中にHPとMPを徐々に回復させ、睡眠が1ターン継続するごとに、対象が受けているデバフ効果をランダムに一つ解除する。
◆モード:スプリー(馬鹿騒ぎ)
(条件:臣下の妖精達の数が多く、かつ、合計で333属性以上を持っている)
対象を睡眠状態に陥らせる。
また、対象の睡眠が1ターン経過する毎に、眠っている対象を中心として、呪歌の再判定が行われる。再判定範囲は、最初の効果範囲と同じ。
再判定によって眠りに落ちた者にも、以後同様に再判定が生じる。
いわゆる眠り病が、蔓延していく。下手をすると、国一つ、世界一つが眠りに包まれる。
◆モード:クルーエルティ(残酷)
(条件:臣下の妖精達が、邪悪寄り)
対象を睡眠状態に陥らせる。
睡眠から目覚めない状態が3ターン続いた場合、対象は死亡する。
posted by 謡堂 at 23:01| ◆聊枕百物語
2014年02月08日
百物語 猫。 1 /話の採集者:木戸茜
夜、寝ていると、何かに頭をペシペシと叩かれて眼が覚めた。
うちの飼い猫である。
彼は用事があると、枕元に座って、寝ている私のすだれ頭を叩いてくる癖が有るのだ。
さて、相手をしてやるか、と思い、寝返りを打とうとすると、今度は、胸が重たい。
これもまた、うちの飼い猫である。
寝ている私の布団に忍び込んで、胸の上で丸くなる癖が有るのだった。
……はて。
我が家に飼い猫は、一匹しかいない筈なのだが。
はたしていつから双子になったのであろうか?
posted by 謡堂 at 18:42| ◆聊枕百物語
百物語 猫。 2 /話の採集者:木戸茜
夜、寝ていると、何かに頭をペシペシと叩かれて眼が覚めた。
うちの飼い猫である。
彼は用事があると、枕元に座って、寝ている私のすだれ頭を叩いてくる癖が有るのだ。
さて、相手をしてやるか、と思い、寝返りを打とうとすると、今度は、胸が重たい。
手で撫でてみると、これもまた、うちの飼い猫である。
寝ている私の布団に忍び込んで、胸の上で丸くなる癖が有るのだった。
……はて。
我が家に飼い猫は、一匹しかいない筈なのだが。
すると枕元の方のは、一体何者であるのだろうか?
posted by 謡堂 at 18:40| ◆聊枕百物語
怪談を語った経験点による成長
・シェリスエルネスの魔城の猫達とランセリィが、以下の特殊能力・スキルを獲得!
◆ 漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション):B〜A&不明
己が身を不確定の中に置き、複数の場所に遍在する能力。
他者から明確に認識された場合は、常に一体に収束してしまう為、戦闘行為には適さない。もしくは、非常にひねくれたバトルセンスを要求される。
また、互いに独立した場所で別々の他者から認識された場合などには、同時刻に自分が二人存在する事もあり得る。しかし、この状態は長く続かず、最終的に必ず一人に収束する。
常理に対する欺瞞は世界からの除外に繋がる為、使用者は常に不吉に晒される。
通常は猫が生来取得している能力だが(一説には仔猫の八割)、猫っぽければ誰にでも発現する可能性のある、傍迷惑な能力である。
効果の割りにデメリットが大きい為、誰かの掛けた呪いであるとも言われている。
魔城の猫達の修得ランクはB〜A、ランセリィの修得ランクは不明。
・ランク別効果、参考表
E:
いわゆる離魂病・ドッペルゲンガー現象が起きる状態。これ一つがそれ全ての原因では無い。
本人に自覚は無く、あちらこちらでふらふらと収束しながら、しばしば夢遊病者的な突飛な言動を取る。
同時に二箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。
D:
いわゆる離魂病・ドッペルゲンガー現象が起きる状態。これ一つがそれ全ての原因では無い。
本人に自覚は無く、あちらこちらでふらふらと収束しながら、日常的な言動を取ろうとする(多少、己の認識や存在を保てている)。
同時に二箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。
C:
自覚的に能力を扱えるのは、このランクから。
といっても、任意に発動したり効果を制御したりは出来無い。「適応する」、「流れに上手く乗れるようになる」と言うのが近く、現象の発動時に、情報入手等の利益を得る確率が上昇し、ペナルティ等の不利益を蒙る確率が下降する。経験者によると、「明晰夢(夢だと気づいている夢)を見ながら、その夢の中で手足を思い通りに動かそうとする感じ」、らしいが詳細は不明。
同時に三箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。
また、不確定として遍在している状態でも、夢を見るような形で場の光景を認識出来る、「漂視」が発動するようになる。夜中にふと背後から視線を感じたり、猫が何も無い空間をじっと見詰め(返し)たりしている理由の一つは、これである。
B:
現象の発生頻度と、漂視の精度が、上昇する。
もしも噂好きなお城のメイド達の輪の中に、このランクの発現者が混じっていたならば、そのお城では秘密に出来る事柄がとても少なくなることだろう。
決して見られていた筈の無い言動が、何故か人々の口に上っているのである。
同時に三箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。
A:
現象の発生頻度と、漂視の精度が、大幅に上昇する。
最早、気がつけば奴がそこに居る、レベル。
もしも、この能力を鼠狩り(スパイ狩り)に用いたならば、エキスパートになれることだろう。但し、その調査結果を主人に報告するかどうかは、気分次第であるのだ。困ったことに、そういう気質の持ち主にしか、この能力は発現しない。
同時に『使用者の尾の本数』箇所で存在を観測されてしまった場合、使用者は消滅する。もしくは、命を一つ失う。
魔王ザーバッハの軍勢においては、諜報局長ヴェルディベルディが積極的に発現者をスカウトしているが、気質の問題で当てにはしていないらしい。また、ザーバッハ本人は、この能力の発現者を殊の外気に入っていて(除、ランセリィ)、城内での無制限の自由を与えているのだが、同時に敵視していて激しい弾圧を加えているらしい。
EX:
不確定に溶け込み過ぎて、誰からも存在を認識されなくなる。
一説には狂気の道化師になるとも、世界に干渉できない観測者になるとも、モブキャラとして永遠に背景に紛れ込むとも言われている。
◆ 縮地(偽)
「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」を利用して、場に遍在し収束することで、一瞬にして他の位置へと移動するスキル。
最大移動距離は、使用者の遍在できる範囲に依存する。
一瞬だけでも相手の気を逸らさなければならない為、戦闘時の使用には狡猾さが要求される。
◆ Cats are still indefinite fortunately. (猫は狭間で微睡めり)
場に遍在することで、複数の気配を相手の感覚器へ送り込み、混乱を招く、フェイントスキル。
相手が気配に鋭敏であればあるほど効果は高まるが、「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」の利用を看破されてしまうと、逆に自分の位置を相手の都合の良いように収束させられてしまい、回避修正に大幅な下方補正を受けることとなる。
◆ Cat is already definite unfortunately. (猫の目覚めは、不幸の目覚め)
場に遍在する自分を一人の相手に複数同時に観測・認識させ、それらが一体に収束する際の超常的速度を利用することで、刃の切っ先をその喉元へと届かせる必中スキル。
但し、これには「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」のペナルティ発動の危険が常に付き纏う。
別名、一人トライアングルアタック。
◆ キャッツ・サプライズ
特に変哲の無い、バック・アタック。
前でも横でもいいが、とにかく相手の死角に出現するスキル。
「漠在する猫、靄の向こうの瞳(バイロケーション)」を利用している為、誰かの視線に晒されていると使用出来ず、通常は奇襲・暗殺用。
相手のパーソナル・スペースを平然と侵犯する図々しさが要求されるので、「縮地(偽)」よりも難易度は高い。
◆ 影患い
たとえ殺されても不確定な自分が殺害者の周辺に延々付き纏うという報復スキル。
その影が殺害者を殺害し返した場合、使用者は復活する。
復活の仕方は使用者の個性により、様々。
例:
・殺害者を殺害した影が、使用者本人となって復活する。
・殺害者を殺害した影が、魔として独自の自己を確立する。使用者とは別人である。
同時にどこかで使用者が復活する、もしくは、使用者は復活しない。
・影に殺害された殺害者になりすまし、使用者が復活する。
posted by 謡堂 at 18:29| ◆聊枕百物語
百物語 海女緒抜き(あまおぬき) /語り手:裏竜宮のうわばみ
はい、お世話様。
和風ネタを独り占め、パルセイズ様よ。
海縛りを掛けても全然余裕。当分は、あたし様の天下が続きそうね――ずっと続いても、それはそれでブログの活気的に困るんだけど。
……どこぞの忍者共も、怪談ぐらいやんなさいよねぇ。
え? 「忍は影、ブログの陽(ひ)には当たるまじ」? ……ここってすっごい日陰じゃない。まぁ、いいわ。
さーて、あれは裏竜宮で新年会を開いた時のことだったわね。宴も酣(たけなわ)、皆、酔いが回って、テンションが妙な案配になってきた頃合いの出来事よ。
あたしだって、年がら年中、飲兵衛をやってる訳じゃあ無いわ。
ふと、真面目な思索に耽ることもある。
そう、どうにも隠し芸で、お酒を満たした陣笠達を傘の上で回すのも、マンネリだなぁ、って。ひっくり返して零れるのを一口で呑んでみせたり、回転中のを、ずらり、と並べて作った橋の端から啜ってみせたり、摩擦熱で燗をして振る舞ってやったり……、色々やり尽くした感があるし、だいたいそういう、ちびちびした呑み方って、この雷粧姫様には相応しくないなぁ、って。
思い立ったが吉日って言うじゃない?
早速、席を外して、餅搗きの臼でも探しに出かけることにした訳よ。
そしたら、座敷の出入りん所に邪魔な奴がいる。
開けっ放しになってる襖の真ん前でさ? 何を考えてんだか、出たり入ったり繰り返してんのよ。
不気味な奴だったわね。一瞬、首吊り死体が鴨居から下がって、ぷらぷら、してんのかと思ったわ。それだけ辛気臭くて陰鬱な雰囲気だったってこと。足音もさせずに、俯いて、ただただ座敷の内と外とを往復してんのよ。
両足でびっこを引いてるみたく、滑る、というよりは、ずり落ちるように前へ進んで、亀が油ん中で寝てるのかってぐらい重っ苦しく身を返す度に、畳の藺草の匂いに混じって厭な――魚の腐ったような臭いが吹いてくる。
人間的に言うなら……悪霊? 触ったら、見境無しに祟ってきそうな感じ。
蹴っ飛ばしてどかそうとしたら、驚いたわ。
悪龍妃なのよ。そいつ。よく見たら。あり得ないわよね、たった今、呑んだくれてる本人の隣から抜け出してきたってのに。現に振り返ったら、上座で管ぁ巻いてたし。
ま、あたしも少しは酔っていたんでしょうね。
ほっときゃあいいものを、「こいつはからかう絶好の機会だわ!」とか思っちゃって。
そいつの肩を掴んで、本物の悪龍妃の方へ向かせて、言ってやったのよ。
「ハン、悪龍妃! 酒量に押し出されて、あんたの節制心が彷徨い出てるわよ!」ってね。
したら、座がきょとんとして、それから爆笑されたわよ。
なんでよ? と思って偽者の方に振り返ったら、あら、不思議。ていうか、ムカツク。
そいつの姿が、悪龍妃の隣にでっかい図体を牛ぐらいに縮ませて座ってた虎魚入道になってるし。しかも、周りのことが分かってるんだか無いんだか、そのまま、あたし様を無視して、うっそり出て行こうとする訳よ。
だったらと思って、敷居を跨ぐのを引っ捕まえて座敷ん中へ向かせて、同(おんな)じように虎魚入道に見せてやろうとするわよね? そしたら、今度はまたまた、その隣でちょっかい出してた磯鬼に変わってる。
道化だわ。「アンタが二人いる!」って指差して騒いだら、実は別人と取り違えてましたってのを、何遍もやらされるんだから。
「お前は親の顔も忘れたのかい」とか、「俺みてぇな面は、この世に二人もいませんや」とか、あたしの方がバカにされちゃってさ。酔いどれ扱い。
つまんないから、放っておいて、厨房だか蔵だかを目指したわ。
したら、廊下を進んだ、そのちょっと後で、おかしいことに気づいて大騒ぎになってやがんの。あんの、ぼんくら共。
……何がおかしかったのかって、説明する必要は無いわよね? いくら人間のおつむでも?
全く。だいたい、妖が、簡単に姿格好を真似されてんじゃあないってぇの。
はい、お仕舞い。お粗末様。
後から考えてみると、どうも敷居を越えて出る時に姿が切り替わってたみたい。
何の意味があるんだか。
犯人は「海女緒抜き」よ。
別名、「違え蛤、亡行面(もっこうめん)、亡面來(もめんきぃ)、潮狐狸、海の芒、海尾花」。
普段は海女さんとかダイバーを嚇かしているわ。あれね、海の中で自分自身が正面から泳いでくるのを見つけて、ぎょっ、とするんだけど、よく見たら別人で、ほっ、とするんだけど、でも後から考えたらそれは実は、自分の後ろにいる筈だったり、先に上がったりしている筈の人間で、やっぱりゾッとするって奴ね。
やってることは皆が知ってるんだけど、目的とか本当の姿とかは誰も知らないのよね。
何なのよ、あいつ。
……うん? それより、臼の方に興味がある? どうなったって?
……あれは、駄目ね。重たい割りに、大して中身が入らないし。
五右衛門風呂が良い案配なんだけど、今ん所、一つ回すのがやっとだから、芸の幅が狭くなっちゃうのよねー。
posted by 謡堂 at 17:44| ◆聊枕百物語
怪談を語った経験点による成長
・パルセイズが、以下の特殊能力・スキルを取得!
◆ 酔染郷(すいぜんきょう):A
酒に酔うことで自他の境界を曖昧にし、己の同一存在を複数生み出す能力。
その効果は、本人の酔いの深さと気分の良さに比例する。
同一存在の出現位置は、通常本人の周囲に限られるが、これは本人の認識範囲の内側にしか生じないという理由からなので、その範囲が広かったり特異だったりする者(例:神、狂人)に関しては、その限りでは無い。
西洋では、ドランカーズ・レギオン、アルコール・ドッペルゲンガー、などと呼ばれる。
半龍たるパルセイズには、以下の効果が現れる。
○戦闘時
自身の龍としての姿である黄金龍が一頭生じる。騎乗可能。
頭数が増えない代わりに、酔えば酔うほど両者のステータスに上方補正がかかっていく。
○陵辱時
酔いに巻き込むことで、陵辱対象の同一存在を複数生み出せる。陵辱対象は一人に戻る時(酔いが醒める時)に纏めて快感を受けるので、多くの場合は許容量を超え、快楽の二日酔い・後遺症を受ける。最悪の場合は、廃人になる。
・ランク別効果、参考表
E:本人の姿が、敵からもぼやけて見える程度。
回避などに上方補正がかかる。
D:同一存在が不安定ながら、独自の存在として確立する。
単純な動作なら、別々に行うことが出来る。
C:同一存在が安定し、外見からの区別が難しくなる。
酔っていても本人が無意識に行える動作なら、全く問題無く実行可能。
いわゆる酔拳を名乗るなら、このレベルから。
B:仙人の領域の入り口。
同一存在がますます安定し、複数現れ始める。
ここから、発現する効果の個人差が大きくなっていく。
A:仙人の領域。
個人差が大き過ぎて効果の分類は出来ない。
傾向としては、同一存在が増え、本人と同一存在の区別が無くなっていく。
EX:
神仏天魔の領域。
常理を無視し、奇蹟を容易く引き起こす。
しかし、影響力が絶大な反面、自発的・能動的制御は、完全に不可能。
伝承では、かつて一匹の美しい雌龍が、あらゆる異世界・並行世界に同時に姿を現し、盛大な酒宴を催したという。全ての者がこぞって参加したが、すると世界から呑んだ分の液体が減ったので、起きていた洪水という洪水が鎮められたという。人々や動物達は感謝したものの、一部世界の終末の大洪水までをも止めてしまった為、彼女は神々諸天の敵、三千大千大呑龍・悪龍妃と呼ばれるようになったという。ちなみに本人は酔っ払っていて覚えていない。呑んで目が覚めたら大妖怪扱いされていて、吃驚。
・戦闘時の効果、補足
ランクが低い内は、同一存在の質は低く、本体(オリジナル)と呼べる物も、最初に酒を呑んでいた本人のみである。そして、本体を攻撃することで(酔いを醒まさせることで)、この特殊能力を解除させることが出来る。
これは、シューティングゲームにおける自機とオプションの関係に似ている。ランクが低い内に生じる同一存在はオプションであり、そのオプションが幾ら破壊されても自機に影響は無いが、自機が破壊された場合はオプションも全て消滅するのだ。
しかし、ランクが高くなると、同一存在は本体(オリジナル)と同等、正確には「これもまた本人である」という状態へ近づく。最終的には、本人そのものが何人も出現している状況となり、この場合、出現している存在を全てを倒さない限り(酔いを醒まさせない限り)、能力を解除させることは不可能となる。
シューティングゲームに喩えるならば、それまでオプションとして発生していた同一存在が、自機として発生するようになるのと等しい。当然、自機の一体が破壊されても、他の自機が戦闘を続行するのである。
ステージボスが無限増殖を始める、という表現も当てはまる。
妖の世界において、暴れる酔っ払いほど手に負えない物はないのだ。
◆ 明晰酩酊:B
酔っていても明瞭な思考を保ち続ける能力。
「酔わない」のではなく「酔っているけど酔っていない」状態になる。
ランクが上がると、酔っている場合の方が思考力が上昇する。
・ランク別効果、参考表
E:少し酒に強い程度。無理は禁物。
D:大分酒に強い。
酔っていても、奇襲察知などの知力・情報系判定への下方補正が緩和される。
C:酒豪と呼ばれるレベル。
酔っていても、明瞭な思考を保ち続け、奇襲察知などの知力・情報系判定への下方補正を全く受けない。
B:酔っていた方が思考力が上昇する。
知力・情報系の判定に上方補正がかかる。
酔いながら試験を受けた方が点数が上がる程度。
A:酔っていた方が思考が冴え渡る。
酩探偵を名乗れるレベル。
EX:
巫女、予言者、シャーマンなどと目されるレベル。酩酊中に飛躍的に上昇した思考力によって、未来予知的なお告げを下すことが可能になる。しかし、平常時との思考力の差が有り過ぎる為、素面時の本人にもどうしてそんなお告げを下したのかが説明できない。また、酩酊中の思考力は全てお告げという結論を導くことに注がれる為、他者への筋道だった説明などを行う余力は生じない。
これはあくまでも思考力によって導き出される「推論」であるので、いわゆる降神、超常現象の類では無い。「予言(偽)」として扱われる場合もある。
◆ 駄汰羅呪法 (だたらじゅほう)
相手の失敗した行動を、即座にもう一度繰り返させる呪法。
たとえば、「躱された相手へ、もう一度、刀を振るわせる」「ナンパに失敗した後で、もう一度、別の相手に声をかけさせる」など。
繰り返した行動が、再び失敗するかは確定していないが、失敗する方向に術者の力量に応じた修正がかかる。
・悪龍妃が、以下の特殊能力・スキルを取得!
◆ 酔染郷:EX
(説明省略)
◆ 混濁酩酊(魔):EX
魔の領域に達した、いわゆる酷い酒乱。
物理的に手が付けられなくなり、高ランクになると、周囲の現実を侵し始める。
効果の発動中は、他者との意思の疎通が完全に不可能になる。
話を聞いているようでも、全く聞いていない。
・ランク別効果、参考表
E:酒癖が悪くなる。
筋力・耐久力など、物理的ステータスに上方補正がかかる。
D:酒癖が、もっと悪くなる。
筋力・耐久力など、物理的ステータスに更なる上方補正がかかる。
C:こいつと酒を飲むのは絶対に嫌だ、ってくらい、極度に酒癖が悪くなる。
筋力・耐久力などの物理的ステータスが、飛躍的に跳ね上がる。
B:何だか、こいつの酒癖にからまれるのが楽しくなってくる(周囲の認識を侵している)。
筋力・耐久力などの物理的ステータスが飛躍的に跳ね上がり、
他のステータスにも大きな上方補正がかかる。
A:カリスマじみた酒癖の悪さを発揮し、伝説的な大活躍をする(周囲の現実を侵している)。
あらゆるステータスが飛躍的に上昇する。
EX:
酒乱の中の酒乱。最早、崇拝されるレベル。
酔っている時限定で、隠れ里を生み出せる(周囲の法則を侵している)。
巻き込まれた者は、運が悪いと神隠しに遭う。
隠れ里の作成如何に関わらず、あらゆるステータスが、1ターン毎に飛躍的に上昇していく。
◆ 南無三千大千大呑龍悪龍妃
対終末スキル。常時発動型。
世界に対する粛清が水属性を持っていた場合、酒宴を開いている限り、それを無効化する。効果範囲は、世界一つ分。
また、平常時でも、酒宴を開いている限りは、水属性を持つあらゆる自然現象・法術などを沈静化する。効果範囲は、だいたい戦場一つ分くらい。
posted by 謡堂 at 17:10| ◆聊枕百物語
2012年01月01日
百物語 現代のメリーさん /話の採集者、兼、友達:パルセイズ
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん! 夜遅くにゴメンね!
――公衆電話が見つからないの!
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん! あけましておめでとう!
――携帯電話って、最近、身分証明が厳しいのね。購入もレンタルも出来なかったわ!
――もうっ、犯罪者の馬鹿!
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん! まだ、寝ないの?
――ねぇねぇ、ところで、この電話、公衆電話も携帯電話も無いのに、どこからどうやってかけてるんだと思う? 勿論、スマートフォンからでも他所のおうちからでもないよ!
――宿題にしておくね! また、かけるから!
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん! 分かったかな?
――答えは、貴方の手にしている、その電話!
――但し、それは眠りの膜をへだてた夢の中にあるの!
――イッツ・ア・マッドドリーム・パラレルワールド!
――見たんだけど貴方が電話を置いてる所って……、ううん、メリーさん、何も言わないわ!
――夜更かしの貴方が来てくれなくて退屈だったから、血と臓物で、お飾りしちゃった!
――待ってるから。早く休んで、こっちに来てね!
posted by 謡堂 at 16:59| ◆聊枕百物語
百物語 テレフォントラジディ・メリーさん (コミカル系、詰め合わせ)
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――夜更かししないと、メリーさんの世界に連れてかれちゃうぞ!
――……う〜ん。
――眠るとメリーさんの世界に連れてかれちゃうぞ!
――の方が、避けようが無くていいかな? 雪山遭難? 待ちメリーさんって呼んでね!
・お宅訪問、メリーさん
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――今、貴方のアパートに来ているの! 外のお仕事、頑張ってね!
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――今、貴方のお部屋の掃除をしてあげているの!
――エッチな本は括って出しておいたから、健全になってね!
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――やだーっ、そんなに慌てなくたって、「ポリ袋に纏めたら、ティッシュの塊のゴミが一番多いね!」なんて、メリーさん、誰にも言い触らしたりしないってばー!
――あ……冷蔵庫から女性の手首を発見!
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――今、貴方のお部屋で、警察のおじさまたちとお茶しているの!
――主賓は貴方だから、早く帰ってきてね!
・鉢合わせ、メリーさん
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――今、貴女のアパートに来ているの! 大学のお勉強、頑張ってね!
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――ふふふーん、女子大生って、ベッドの下に何を隠しているのか――な、あ、
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――大変! 貴方のベッドの下に斧を持った大男が隠れていたわ!
――今、貴女のお部屋で追いかけ回されているの! 帰って来ちゃ駄目だからね!
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――今、貴女のお部屋のトイレに隠れているの! お願いっ、早く警察を呼んで!
――……あ、この電話で自分で呼べば良かったね。
――メリーさん、動転しちゃってるみたい! てへっ☆
――プルルッ、プルルッ、ピ!
――……。
――……、……。
――……、……、……。
――莫迦メ めりーサンハ 死ンダワ。
・不倶戴天、メリーさん
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――今日は、パルセイズの命令で、シェリスエルネスさんの寝室に潜入しているの!
――うふふっ、恥ずかしい秘密とか、家捜しして一杯見つけてあげちゃうんだから!
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん! パル、聞こえてる?
――さーてさてー、お嬢様は、ベッドの下に何を隠しているのか――な、あ、
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――大変! シェリスエルネスさんのベッドの下に斧を持った大男が隠れていたわ!
――今、お城の中で追いかけ回されているの! メーデーッ、メーデーッ、メーデーッ!
――あ、あんた、だいたい、何で、こんな所にいるのよ! え、別口の刺客? あああん、んたみたいな雑魚じゃ、赤ん坊だって殺れないんだから!
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん!
――助けてっ、パルセイズっ、パルセイズっっ?!
――パ〜〜ル〜〜セ〜〜イ〜〜ズ〜〜〜〜ッッ!!?
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――……。
――……、……。
――……、……、……。
――オレサマ めりーサン マルカジリ。
・メリーさんは終わらない!
――プルルッ、プルルッ、ガチャ!
――もしもし、わたし、メリーさん! 酷い目に遭ったわ!
――だけど、わたしは何人もいるの。だから、何をされたって、ヘイチャラ!
――今度は、これを読んでくれた貴方の所にも、お邪魔するね!
posted by 謡堂 at 16:42| ◆聊枕百物語
2011年04月10日
百物語 魚念仏 /話の採集者:悪龍妃ん所の鉄砲お嬢
十五夜の晩ぁ、龍のお妃さまが、沖で月見酒の遊行ばなさるんだ。
んだから、ワシら、漁さ出ちゃなんねぇ。
そんのしきたりば破って、吾作さ、沖に漕ぎ出したこっさ。
不思議な晩だったとよ。
大きな魚も、小さな魚も、浅瀬にいる魚も、いつもは見もしねぇ魚も、わんさと海の面(おもて)に出てきてるんだ。
波の数よりも多い鱗や背鰭が、風に吹かれた稲の穂みてぇんなって、月光に煌めいていることさ。
皆、お妃さまのお伴なんだぁな。
投網を打ちゃぁ、引いてる漁師の腕が痛くなっぐらい、魚がかかったんだとさ。
するってぇとよ。
舟の上に揚げられた内のぉ一匹が、吾作さ向けて、節をつけつけ囁きだしたことよ。
『帰りゃんせ、帰りゃんせ、ここはお妃様が酒肴を眺める波桟敷。それ以上の無作法は、決してお止し』
吾作さ、取り合わずに漁を続けたことさ。
「すったこと言わんで、おらにも風流のお零れを分けてくんろ。何も、お妃さまの酒までお相伴にとは、言いやしねぇ」
するってぇとよ。
次に舟に揚げられた内のぉ一匹が、また吾作さ向けて、節をつけつけ囁きだしたことよ。
『帰りゃんせ、帰りゃんせ、知らぬか、海の御判行。今宵は十五夜、入ると酷い。悪妃様の雷立(かんだち)が、きっと、お前を焼き尽くすぞ、根こん際(ねこんざい)』
「こんな仰山の魚ぁ前にして、漁師がみすみす見逃す法こそねぇんだい。ちぃっとだけだぁ、ちぃっとだけぇ」
魚如きの言うことに、いちいち傾ける耳もあるもんかい、ってな。
そんな時間も惜しいとばかりに吾作さ、投網を打ち続けたこっさ。
するってぇと、三度目だ。
今度は舟に揚げられた魚ぁ、全部が全部、吾作さ向けて、一斉に叫びだしたことさ!
『痛い目見るぞ、いっぱい骨灰、五六杯! 今すぐ、あたしらを捕るのを止めないと、虎魚(おこぜ)の入道様が、きっと、お前を懲らしめにやってくるぞ!』
「まぁまぁ、も少し静かにしといておくれ。そう口を尖らせて叱られちゃあ、かえって止めたくなくなるもんさぁ」
それでも吾作さ、引き返す素振りを見せやしねえ。
しまいにゃ、布屑を耳に詰めて、栓をしちまった。
こうなると、もう、魚どもも何も言わん。
ただ、舟の周りの連中が、こう口々に嘆き合うだけなんだ。
『なめらさんぽう、南無三宝。しまったしまった、仏の顔の三回目』
『手遅れ手遅れ。入道様の思し召し』
『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』
月光のしずしずと降り注ぐ、明るい晩だったとよ。
油の膜に水を一滴落としたみてぇに、吾作さの舟の周りだけ、ぽっかりまぁるく魚の群れが引いていく。
そこに海底(うなぞこ)から、ぬっ、と浮き上がる影があるこっさ。
千石船より大きな虎魚の影だ。
岩礁みてぇなゴツゴツの表面に、真っ赤な血と硫黄を混ぜたのかってぐれぇの斑の筋が入ってる。平べったい躯に、牙を剥いたおっかない顔を乗せて、坊主の袈裟を引っかけてやがるんだ。
そいつが、背鰭の棘から猛毒の靄を漂わせながら、海面に口を近づけてくる。
まるで、鯉が投げられた餌を呑み込もうとするみてぇにな。
そうして吾作さ、ぱっくりと舟ごと食われちまったんだ。
posted by 謡堂 at 05:48| ◆聊枕百物語
裏竜宮衛士録
○虎魚入道(おこぜにゅうどう)
袈裟を纏った巨大なオニオコゼ(鬼虎魚、鬼鰧)。
得手の呪法は「三誶誅戮(さんすいちゅうりく)」。
三度の警告の間に力を溜め、相手が従わないとみるや解き放つ、報復呪法。
戦いで対手の攻撃を受けながら使うと、更に威力が跳ね上がる。
変化の術は苦手。やむを得ず人間(っぽい姿)に化ける時は、後頭部にでっかい目玉が二つ並んだ、巨躯のお坊さん姿を取る。術を覚えたての当初、頭の天辺についてしまっていた口を、最近は何とか、鼻の位置にまで下げてこられるようになったらしい。
何だか福笑いみたいなので、それを見ていると、裏竜宮の子供達は大層喜ぶそうな。
posted by 謡堂 at 05:37| ◆聊枕百物語
百物語 都市夜話「現代のオバリヨンたち」 /パルセイズ (魔が堕ちる夜/シニスター・ソワレ)
※含まれているのは偶然なのですが、震災の時期に不謹慎・不快かと思えた部分を隠しています。そこが無くても話は繋がりそうだったり。
磯も静まる丑三つ時の、八潮路に波は影すら隠し、追いの帆風もぬるりと絶える。
魚は鰓閉じ囁いて、揺れる玉藻も身振りを潜め、海すら己の欠伸の涙で鹹(から)くなりゆく。
ふふん、妖の時刻に、こんばんは。
天下無双の雷粧姫、十子の和風担当、パルセイズ様よ。
……るさいわね。
海の底じゃぁ、こう言うの。陸(おか)の言い方なんぞに合わせる気は無いわ。ちなみに「鹹い」ってのは、香辛料で辛いんじゃなくて、塩気でしょっぱいっていう意味ね。
とはいえ、日が暮れると人間共が怖がって家ん中に閉じ籠もる、なんてぇのも、今は昔の光景よね。夜更けに海へ出てくる漁師や釣り人は昔っから沢山いたけれど、最近じゃあ、陸の奥の連中も図々しいったら、ありゃしない。都会に至っちゃ、この時間でも平気で仕事はしているわ、店は開けているわ。挙げ句、少し周りのベッドタウンに目をやれば、暢気に駅からの家路を、てくてく歩いている、仕事帰りの奴までいる始末だし。
もっとも? 生活が宵っ張りになったくらいで、あたしらの脅威を克服したと思って貰っちゃぁ困るわ。
今宵はそんな、明るくて暗い、現代の夜道のお話。
たとえば夜の繁華街とかを歩いていると、影が幾つも出来る事があるじゃない。
勿論、それが怪奇現象じゃ無いのは知っているわ。街灯やら電飾付きの看板やらで、光源が幾つも別々の方向から照らしてくる所為よね。で、そういう別れて薄くなった影って大抵、最初はアンタの後ろの方に生まれて、歩いている内に前の方へ伸びて消えていく訳よ。何故なら、本人が路脇のネオンサインなんかを視界に入れつつ進んでいって、その前を横切って、次第に背中に背負うような形になるから。
でもさ、眼ん玉、ひん剥いて、よく見ていてご覧なさいよ? 時々、斜め前に見えていたアンタの影が、すぅっ、と後ろの方へ流れて消えていく時があるんだから。「別に不思議なことじゃ無い」って? そりゃあ、隣を車に追い越された日とかにゃぁ、そうなるわよね? 後ろから近づいてきた光源が、アンタの横を通り過ぎて、遙か彼方へ走り去っていくんだもの。
だけど、追い越していく光源なんか無いのに、明らかに変な動きをすんのがあるんだから。
最悪なのは、影が動くのが「影引き入道」の仕業だった場合よね。
別名は、「辻入道」に「辻吸い入道」、「袖引き入道」「影吸い入道」「魂引き(たまひき)入道」などなどなど。色々あるわ。
土佐犬サイズの海坊主みたいな、ちっこい奴でさ。アンタの後ろを、ちょこちょこ付いて回ってくんの。んで、アンタの影が幾つかに別れる瞬間に乗じて、その内の一つを、ずるっっ、と吸い込んでくる訳よ。もぎり共と同じく、抵抗力の薄い状態を狙ってくる訳。
効果はレベルドレインよ。能力値が永遠に1下がるの。萎えるったら、ありゃあしない。
何故かっていったら、奴らに影を吸われるのは、魂を吸われるのと同義だからだわ。
ちびちびと、ちびちびと、つまみのさきいかを更に細く裂いて口に入れるかのように、たらふく肥えた相手の霊魂から、僅かな活力を引き剥がして喰らっていくのよ。もしも特定の犠牲者だけが狙われて、しつこく食事を重ねられれば、遂にはそいつは起き上がる気力も失って、後はただただ、最期までしゃぶられ尽くすのを待つだけになるでしょうね。
せいぜい用心することね。自分の影は、きちんと全部見てなきゃ駄目よ? あいつら荷物の置き引きみたいな連中だから。意識の隙を見せると、ずるっっ、とやられるわ。
……そう。意識さえしていれば、影を吸われることは無いわ。元々の持ち主はアンタで、根っこの所で強く結びついているんだもの。
それが難しければ……、ふふん。他の奴がアンタの影が引かれていることに気づいて、「あっ」とでも驚いた声をあげてくれれば、それでも防げるわよ? とにかく、本人や余人に注視されたり気に留めたりされていると、影引きは出来ないみたいね。
でも、どうよ? 他人への無関心がマナーになっている都会では、この防衛策は諦めた方がいいんじゃない? 悪い所では、無関心どころか、隣人への警戒心が先立っているくらいだものね? 気休めにだって、なりゃあしないわ。ここだけ見たって、現代があたしらを駆逐したなんて、とてもとても。
とはいえ、影引きの連中も大変なのよ。
やることは凶悪なんだけど、生態は惨めったらしくてさぁ。
あいつら強い光が弱点で、それで照らされると消滅しちゃうの。
だから昼間はじっと物陰に潜んでいて、夜になると獲物を求めて徘徊し始めるわ。その時でもおっかなびっくり。トラックがライトを点けて近づいてきたら、気配を感じただけでも逃げ隠れるし、人間の後を付ける時だって、暗がりから暗がりへと素早く移動しながらで、探偵の尾行かってぐらい慎重かつ滑稽だわ。
それでも不意打ちには敵わないんだけどね。
曲がり角や交差点を観察していると、よく標的を追跡中の影引き入道が、飛び出してきた車のライトを瞬間的に浴びて、悲鳴を上げる間もなく消滅していっているわ。
雷が光った日には、街中で大量虐殺よ。
こいつら、雑霊共よりは高等でやり口も手早い癖して、光源の多い繁華街とかには滅法弱いのよね……。だから、主な活動場所は……、人間の周りだと――、街灯が、ぽつんぽつん、と等間隔で立っているだけの夜道とか……? 弱い光源が数個ある、ぐらいの環境が丁度いいみたいね。これが田舎になると、今度は逆に真っ暗闇で影が出なくなって困るようだわ。……面倒な奴ら。深さと明るさで棲み分けている深海魚じゃあるまいし。
長老共に云わせると、古き良き妖怪の風情がある、なんてぇことになるらしいけど……。ハン! 単に脆いだけよ! 見ていて、苛つくったら!
人間の家の玄関や庭塀にさ? 防犯照明ってのがあるじゃない? 誰かが近くを通ると点灯するっていう、人を泥棒扱いしてくれている奴。酷い時には入道共が、尾行相手が点けたそれに照らされて、火傷を負ったみたいになって、わたわたと逃げていく訳よ。
……この手で滅ぼしてやりたくなってくるわね、本当にっ。
うん? そいつらを退治したら、ドレインされた能力値が戻ってくるかって? まさか! ないわ! アンタ、正気で言ってんの?
お生憎様、吸われた物は、永久に戻ってこないわ。あんたがぽっくり逝ったって、腹の中から去年食べたおにぎりが出てきたりは、しないでしょ? だから鬱陶しくて、妖怪仲間からも嫌われ切ってんのよ、あいつら。そう。あたしらだって、気を抜くと影を吸われるの。
さっきも話したけれど、連中が何よりも恐れるのは、強い光でパッと照らされること。そして、最も恐れる季節が、雷鳴轟く日本の夏よ。今は四月に入ったばかりだから、大量駆除は、もう暫くお預けね! それまではせいぜい、夜道でビクビク後ろを振り返り振り返りしつつ歩いたり、御祓い師にでも縋って過ごしたりしたらいいわ!
もしも、あれやこれやの艱難辛苦に耐えて影引き入道が百年を生き延びると、縞柄の黒い猛虎だとか、黒髪自慢の絶世の美女だとかに変化するらしいんだけど――。
ま、その話は、またの機会なり、他の連中の話なりに譲っておくとするわね。
さて。
今宵のあたしの話は、これでお仕舞い。
人間風情がどう足掻こうと、世には怪奇妖異が溢れている訳よ。
どう? ちったぁ怖くなってきた? 恐ろしくって夜道を歩けそうにない?
もしもそうなら、そうに決まっているけれど、ここからこそが本題本題っ。
この前さぁ、床屋に行ってきたのよね。髪結い床じゃなくって、パチパチ切る現代風の方の。鋏の付喪神がやっていて、豆電球代わりに釣られた金魚鉢が、水とビー玉を詰めてキラキラ光ってんの。
でさでさ、折角のあたし様の綺麗な髪を、涎を垂らした掃除機なんかに吸わせるのって、勿体無いじゃない? だから適当に拾ってきて、お守り袋に封じてみたわ!
なんたって、この雷粧姫様の御髪(おぐし)だもの、御利益は抜群よ!
悪霊除けに、影妖払いに、お一つ如何? 沢山出来たから、お安くしとくわよ?
……あ、口喧しいビュージーが、顰めっ面になった。何よ、女が自分の髪を売って、何がいけないってぇのよ。お呼びじゃないわ、引っ込んでなさいよ、ヒス年増。
posted by 謡堂 at 02:14| ◆聊枕百物語
2010年06月30日
百物語 怪火、詰め合わせ
本日の百物語、パルセイズがコメントを入れる関係で怪談部分を仰々しくしたくて、斜体にしているのですが、どうにも読み辛く思えました。
(私の目が悪かったり、うちのPCの設定で読むとそうなる、というだけかもしれませんが)
なので、普通の字体で書かれた物もUPしておきます。
また、暫く更新、途絶えます。
『百物語 丹々灯 (たんたんび) /話の採集者:パルセイズ』
赤く赤く燃え盛る。犬の頭ほどの大きさで。
夜道を行く者の前に現れて、ゆらゆらと揺れている。
それは、人の世が腹に溜め込んだ鬱屈の鬼火。不平不満のどす黒い澱火。
元は、一人の誰かが抱えていた感情なのだろう。
何時から独自の意志を持ち、彷徨い始めたのか。元の主は、一体どうなったのか。
答えず語らず、業々と辺りを染めている。
そして、重く、重く。今にも地に擦れそうな程に低く、夜道で揺らめく。
地摺りの焔。
出逢っても、決して眺めてはならない。
頤を引き、這いずる怨念を見下ろすならば、
その者の臍下や腹腔も、重く重く、不快になっていくだろう。
暗い火種が伝染ってしまうのである。
血の色だ。何者にも染まらぬ、やり場なき忿怒の色だ。
網膜が朱を差されてしまう。めしい灯とも呼ばれる由縁。
路ノ怪は掻き消えようとも、それよりの日々、貴方の心の燻りが晴れることはない。
余人の些細な仕草も笹穂の棘に。心を引き裂き流血させる。
苛立ち当たり散らすのに忙しく、飯を己の口に運ぶことにすら、手が付くまい。
身に余る怒りは、やがて宿主を自壊させる。
骸からは、新しい火が芽吹く。
そう、彼らは増殖するために、我々の前に姿を現すのだ。
憂き事から目を逸らすのが、必ずしも悪しき行いだとは限らない。
変えられぬ事物を見詰め続けるのは、毒を飲むのと変わらない。
お生憎様。
終始イライラしっぱなしのあたし様には、全く影響はないわね。
限界のメーターなんて、とっくに振り切れてんのよ。
チンケな火の粉なんぞが類焼できる余地は、ないってぇの。
好きなだけ、前でフラフラしてなさい。夜道を歩く提灯代わりに、丁度いいわ。
『百物語 畏施火 (いせび) /話の採集者:追放刑の常連者』
ある晩に。軒先へふらりと漂う、鬱金色の火の玉。
何処からやって来るのか、何を考えているのか、妖でさえ全く知らない。
心せよ。それは、ただただ、皆が忘れた頃に現れる。
人の住まいにも、森の獣の巣穴にも。
木と紙だけが、まるで待ち焦がれていたかのように、受け入れる。
紅蓮の舌に舐められる我が家を前に、民草は炎の恐ろしさを思い出す。
お生憎様。
この風来坊のパルセイズ様には、焼かれて困る家も、蔵に溜めた財宝も、
死なれて困る友達だって、ありやしないわ。
火なんて稲妻の付随物、侮りすらも抱けない。
『百物語 船攫い蛍 /話の採集者:裏竜宮の放蕩娘』
夜天にのしかかり、腫瘍に覆われた臓腑の如く蠢く黒雲。
鳴り響く、龍の悍馳せの大音声。
荒れ狂う嵐の海で標を見失い、途方に暮れる君よ。
諦めずに、空を見上げて欲しい。
きっと、耿耿と燦めく一つ星があるに違いない。
北の導星が船乗りを見捨てることは、決してない。
……落ち着いて考えてみれば。
雲の下に星が出ている筈はないのだけれど。
それでも貴方は、北極星だと思ってしまうのだろう。
正体は、海で命を亡くした者である。
人魂、ということである。
はたして、漕ぎ出した船を何処へ連れて行こうとしているのか。
己と同じ黄泉路へか。
はたまた、武妖集いし裏竜宮へとか。
いずれにせよ、それは目指していた方角ではないだろう。
古来より、船騙(ふなだま)ともいう。
お生憎様。
あたしは、目的地なんて決めないわ。だから、目印もいらない。
進みたい方向が、正しい方向なのよ。自分で指を差した方角こそが、北なんだわ。
posted by 謡堂 at 22:52| ◆聊枕百物語
百物語 丹々灯 (たんたんび) /話の採集者:パルセイズ
赤く赤く燃え盛る。犬の頭ほどの大きさで。
夜道を行く者の前に現れて、ゆらゆらと揺れている。
それは、人の世が腹に溜め込んだ鬱屈の鬼火。不平不満のどす黒い澱火。
元は、一人の誰かが抱えていた感情なのだろう。
何時から独自の意志を持ち、彷徨い始めたのか。元の主は、一体どうなったのか。
答えず語らず、業々と辺りを染めている。
そして、重く、重く。今にも地に擦れそうな程に低く、夜道で揺らめく。
地摺りの焔。
出逢っても、決して眺めてはならない。
頤を引き、這いずる怨念を見下ろすならば、
その者の臍下や腹腔も、重く重く、不快になっていくだろう。
暗い火種が伝染ってしまうのである。
血の色だ。何者にも染まらぬ、やり場なき忿怒の色だ。
網膜が朱を差されてしまう。めしい灯とも呼ばれる由縁。
路ノ怪は掻き消えようとも、それよりの日々、貴方の心の燻りが晴れることはない。
余人の些細な仕草も笹穂の棘に。心を引き裂き流血させる。
苛立ち当たり散らすのに忙しく、飯を己の口に運ぶことにすら、手が付くまい。
身に余る怒りは、やがて宿主を自壊させる。
骸からは、新しい火が芽吹く。
そう、彼らは増殖するために、我々の前に姿を現すのだ。
憂き事から目を逸らすのが、必ずしも悪しき行いだとは限らない。
変えられぬ事物を見詰め続けるのは、毒を飲むのと変わらない。
お生憎様。
終始イライラしっぱなしのあたし様には、全く影響はないわね。
限界のメーターなんて、とっくに振り切れてんのよ。
チンケな火の粉なんぞが類焼できる余地は、ないってぇの。
好きなだけ、前でフラフラしてなさい。夜道を歩く提灯代わりに、丁度いいわ。
posted by 謡堂 at 22:23| ◆聊枕百物語
百物語 畏施火 (いせび) /話の採集者:追放刑の常連者
ある晩に。軒先へふらりと漂う、鬱金色の火の玉。
何処からやって来るのか、何を考えているのか、妖でさえ全く知らない。
心せよ。それは、ただただ、皆が忘れた頃に現れる。
人の住まいにも、森の獣の巣穴にも。
木と紙だけが、まるで待ち焦がれていたかのように、受け入れる。
紅蓮の舌に舐められる我が家を前に、民草は炎の恐ろしさを思い出す。
お生憎様。
この風来坊のパルセイズ様には、焼かれて困る家も、蔵に溜めた財宝も、
死なれて困る友達だって、ありやしないわ。
火なんて稲妻の付随物、侮りすらも抱けない。
posted by 謡堂 at 22:11| ◆聊枕百物語