2009年01月01日
百物語・消されなかった蝋燭 弐 /パルセイズ
ちなみにその時にした話の一つ。
百物語を終える前に長さが足りなくて蝋燭が消えちゃった場合、どうなるか知ってる?
あたしの聞いた話だと、語られなかった怪異が一斉に襲いかかってくるんだそうよ。
「あぁ、消えちまうよー」「話が終わってねぇのに仕方ねぇなぁ」、なんて和気藹々とアホ面ぶら下げてダラけてた参加者共を包む、咫尺を弁ぜぬ闇の中。始まる始まる阿鼻叫喚。
堪んないわね。
ほら、あたしだけに幾つもやらせてんじゃないわ。次の奴、とっとと話しなさいよ。
運動音痴がグズグズと長縄跳びに入りたがらないみたいで、みっともないわよ?
……他人を馬鹿にするのに忙しくて、なんか忘れてるよーな気がすんだけど、
大したことじゃないわね、きっと。
posted by 謡堂 at 01:04| ◆聊枕百物語
閑話休題 byメデューナ&アザルハ
「あのう、ロード=アザルハ様? 子猫ちゃんたちと怪談で盛り上がっておきながら、キャッキャウフフに話を持っていかない悪党の落ちる地獄という物はございませんでしょうか? 出来ましたらば、パルセイズ様をそこに叩き落として頂きたいのでございますがっ!」
「……ある。…………管轄外」(ちょっと残念そう)
posted by 謡堂 at 00:54| ◆聊枕百物語
百物語・信じたいデマ /ヤキナ・オブゼ (シニスター・ソワレ)
ケッケ。
アニメや漫画のキャラだけぇ題材にして百物語をやり遂げたらよ、
最後に参加者全員二次元の世界に引き摺り込まれちまう、
ってぇ話を今思いついたんだけんど、お兄さん方ぁ信じるかぃ?
posted by 謡堂 at 00:50| ◆聊枕百物語
2008年11月12日
百物語・お化け屋敷 /ズィーケナ・ノーマン (テンガロンハットの〜)
HA――HAHAHA! KAIDAN、オーケィッ。
テキサスのビッグスケールなホラーをプレゼント・フォア・ユー!
「ヘイ、トム、聞いてくれよ! この前女の子たちをエスコートしてお化け屋敷に行って来たんだが、恐ろしいことに出る時に人数が一人増えていたんだ!」
「なんだって、ジョージ! ヘイヘイ、このスケコマシ野郎ぉ!
アルバイトのガールがお前に一目惚れして後を付いてきたってオチかよぉ?!」
「違うね、中で生一発やったら当たっていたらしい!」
「Oh Shit!! ジーザスッ!」
YEAH♪ HAHAHAHAHAHAHA――ッッ!!
posted by 謡堂 at 23:50| ◆聊枕百物語
2008年10月06日
百物語・脂足 /マーニッド五世 (魔が堕ちる夜)
ある所にの、足の臭さに定評のある男がおった。
その日仕事から帰宅したそやつは、靴下を脱いで洗濯籠に放り込み、消臭スプレーを蒸れた靴の内部に噴射しながら思ったのじゃ。
体臭を隠す為に山ほど香水を振りかけておった西洋の大昔とは違い最近の製品は良う出来ておって、悪臭の元となるバクテリアの繁殖を抑えたり、分解したりしてくれるそうじゃなぁ?
で、はてさて、そいつを靴ではなく己の足にかけたなら、災いの病巣を元から退治できるのではなかろうかと。
思い立ったが吉日じゃて。その場で風呂場に直行し、軽く水洗いした足の甲に、シュッ、と爽やかな風を送り込むと、男は幸せな明日を夢想した。
スリッパに履き替えようと靴を脱ぐ度に鼻先に漂うアレとも、これでおさらばじゃ。履き替えた後も、密閉封鎖を解かれた臭気への人の反応が気になって内心で肩身の狭い思いをすることは、もうない。靴べらを使わずに親指を挟んで靴を履いた後に思わず爪辺りを嗅いでしまう、あのけったいな習慣からも、今晩限りでお別れじゃ、と。
ところで、の。体質だの何だのとままならん理由から来るもんにあれこれ言うのもつまらんが、こいつの足が臭いのには自業自得な理由があってのう。不精なのじゃ。物臭なのじゃ。会社勤めの癖して、風呂に入るのは夏場でも四日に一回、歯を磨くのも思い出したように月に一度。それでいて、婦女子の近くには寄りたがる、虫よく甘いロマンスを期待し鼻の下を伸ばしよる。全くもってけしからん! 率直に申して男の風上にも置けん奴じゃな。倫理的にも、肉体的にも。
さぞかし細菌共も居心地が良かろうて。共生と呼ぶのも烏滸がましいが、人体の歩行器官の形をした繁茂の王道楽土がそこにあったのじゃ。
この日も、
「おお、いけない。風呂で本格的に身体を洗う前に、足にスプレーをかけてしまった。もう一回使うのも勿体ないし、疲れてるし、今日は風呂に入らず飯を喰ったらこのまま眠ってしまおう」
などとぬかして眠りにつきおった。
翌日じゃ。
実に爽快な目覚めじゃった。カーテンから降り注ぐ清浄な陽光はこれから始まる一日を祝福し、戸締まりを忘れた窓から流れ込んでくる普段より早く起きた朝の涼しい大気が雀の囀りと共に肺を潤してくれる。
何よりも、いつもならむずむずと疼き始めて僅か十数分で日常の倦怠感に引き摺り込んでくれる、あのヌメッとした爪先の感触がない。嘘のように消えておる。
「ヒャッホッウ、今日から新しい人生の始まりだ!」
さて、新生した己が足を一目見んと掛け布団を跳ね上げた男の見た物は……、
骨まで溶けた自分の足首であったとさ。
最早肉の奥深くまで食んで融合していたバクテリアの群れごと、一晩じっくりスプレーの成分に分解されての。
生まれたての赤ん坊のように無垢なフレッシュピンクの肉が、こう、噛みかけのヌガーみたいに崩れておっての、その中心から伸びて途中で溶け曲がっている骨が、火で炙った棒状のハッカ飴の如きであったことよ。
ぉぉう、何故か女性陣がどん退きじゃ。
フェティッシュな心得が足りないようですな。
※補足
パルセイズのいる席でこれをやられて、シェリスエルネス大恥。
この作り話はともかくとして、消臭スプレーは人体に直接使用しないで下さい。
posted by 謡堂 at 19:02| ◆聊枕百物語
百物語・脂足2 /マーニッド五世 (魔が堕ちる夜)
よくある笑い話に、「夫の陰毛」という物がございますな。奥様方のなさるお話で、掃除をしているとあそこの縮れ毛が思いも寄らぬ場所から見つかるという物ですじゃ。
例えば、壁掛け時計の頭、窓のサッシの表側。悪い時には……冷蔵庫のチルドの中などにも。その時のお決まりの台詞が、「アレって一人でふわふわ飛んでどこかに行っちゃうのかしらねぇ?」ですぞ。覚えておくと、吹き出すタイミングを合わせて良い雰囲気になれるやもしれませんな。
さて。
この前、小僧んちに出向いた折に、しっぽりやったご近所の奥様から聞いた話ですじゃ。
「うちの旦那、脂足でやんなっちゃう。帰ってきて裸足で歩き回るから、フローリングの床のあちこちに足跡がべっとりと付くのよ? 酷い時には天井にまで」
……人の身体の届かない場所に痕跡を残して喜ぶという霊の悪戯も、大いなる夫婦の営みの前には付けいる隙が無いようですな。
ヘイ、マダム。おそらく天井のは別人の足跡でございますぞ。
流石に、陰毛と同じ訳にはいきますまい。
※補足
小僧=茜
posted by 謡堂 at 18:49| ◆聊枕百物語
百物語・脂足2 補足 /ランセリィ (魔が堕ちる夜)
あれぇ? あそこのおばさん、事故で夫に先立たれた未亡人だって言ってたよぉ?
再婚とかしないんだけど、その理由がおじさんがまだ夜毎に帰ってくるからなんだって♪
posted by 謡堂 at 18:43| ◆聊枕百物語
ダメ深読み:魔界のお嬢様編
シェリスエルネス
「……茜。百物語の『脂足2』と『脂足2 補足』で分からない所があったのだけど。『人の身体の届かない天井』、の具体的説明が乏しかったのは、それが何か口に出すのが憚られるような場所の隠語で、皆に共通理解があるからわざわざ説明する必要がなかったという解釈でよろしくて? だとしたらそれは何ですの? 天井の、思いも寄らぬ……。人間って、シャンデリアを飾る時に人柱を立てるのだったかしら……。その供養塔……、それとも、地下牢や処刑場の暗喩? そして、そんな場所に付いた足跡を奥さんが発見したのはどうしてなのかしら。場所の詳細次第だけれど――この話、更に深い闇が隠されているとみましたわ」
茜「OK、どんな想像してっか知らねぇが、普通の人間は天井にひっついて歩いたり出来ねんだ。そこから考え直してみてくれ」
posted by 謡堂 at 18:37| ◆聊枕百物語
ダメ深読み:悪の屠龍参謀編
リーゼスティ
「いいや、着眼点は悪くないな、シェリスエルネス・ワトソン! だが、異文化への興味が先走って一番重要なことを見落としている。キーワードは『事故にあった夫』、『再婚しない妻』だ。私の読みでは天井に隠し金庫の扉でもあるんだろうさ。妻が夫を愛していなかったなら、事故死させた証拠か、事故死させざるを得なかった理由が隠されている。夫への愛が本物だったなら……、そうだな、旦那は汚職の摘発をしようとして物的証拠を握り金庫に保管した。だが、志半ばで事故に見せかけて殺害され、無力な妻は秘密を一人で守っている、なんてのはどうだ? どちらにしろ恨みと未練が男を鬼魄にして夜な夜な家に、己には開けられぬ金庫の入り口をペタペタと踏……待て、貴様等を見る限り、夫が男とは限らんな? ……そうか、相手も女で一時は結婚を誓い合った仲だ。だが世間の理解を得られる筈もない。離れゆく最愛の者の心。情愛に狂った妻役の女は夫役の女を殺害し、事故に偽装した。その際に遺体の一部を持ち帰り、形見として金庫に保管。ハハ――ハハハッッ! 何ともロマンチックな話じゃないか!! そうだこれだ、これしかないぞ! 自分の身体の一部を返せと愛しい者の幽霊が、夜毎に憎悪に貌を歪めて慟哭と共に部屋を訪れてくる。プラトニック、ここに極まれり、だ!!」
シェリスエルネス「……茜」
ランセリィ「……お父さん」
茜「てっめぇら……、『あ、そういう関係もちょっといいな』みたいな目であたしを見んじゃねぇっ!!」
posted by 謡堂 at 18:32| ◆聊枕百物語
2008年08月30日
百物語・殺人鬼の多い料理店 /投稿者:ミーティ (魔が堕ちる夜)
肉の味に満足出来なかったので厨房を借りた……。
ボク「どうしました?」
コック「変な客が来て自分で調理したいって……。参ったなぁ、貴方が殺した支配人をメニューに混ぜて処理中だったんですけど……」
その日は材料が一人分増えて増量サービス。とても好評いただきました。
posted by 謡堂 at 23:51| ◆聊枕百物語
2008年08月01日
百物語・対岸の火事 1/2 /ロード=アザルハ(の絵本) (魔が堕ち・十子)
たー君は小学4年生。
学校ではクラス新聞の係を任されて張り切っていました。
ある夏の夜のことです。
近所で火事があって、彼も家族に連れられて、野次馬に混ざりに行きました。
ウーッ、カンカン!
真っ赤な消防車と銀色の甲冑めいた防護服に身を包んだ消防士さんたちが、放水を。学校で花壇に水をあげるホースを使って遊ぶのを、何倍にも凄くしたような放水を、当てて行きます。そんな中、紅蓮の炎がメラメラと木造建築のアパートを嘗め尽くしていきました。
(わー、すごい! アニメやゲームなんかより、ずっとおもしろい!? これを学級新聞の記事にしたら、みんな驚くぞっ。他のクラスの奴らが真似しないうちに、早く帰って、へんしゅう、しなきゃ!)
必死の消火活動の甲斐もなく、やがて焼け落ちた壁からは中が丸見えに。家は棟の端から斜めに倒壊し、炭化して焦げ折れた梁や柱が、まるで魔王の棲む鍾乳洞への入り口か、怪獣が大きく開けた顎の中の牙の如き様相を呈しておりました。
子供心に深い感銘を受けた、たー君、大張り切り。映画館でスタッフロールを待たずに帰るお客さんのように、逸る気持ちを抑えられません。親の手を引っ張って帰るなり、すぐさま子供部屋へと駆け込むと、薄い青色の色つき用紙に鉛筆と蛍光ペンを走らせます。それを画用紙に糊付けして、教室の後ろのスポンジフォームのボードに画鋲で止めたのが、クラス新聞なのでした。
我ながら会心の出来でした。絵の具まで使って、隅に大きく炎の印も入れて。燃え盛る八岐大蛇の暴虐と逃げ惑う人々の模様を精一杯に脚色し、一面トップのオンリーワン。
翌日、号外として大々的に張り出したのです。
『ガオー、大怪獣カジーが僕らの町に襲来だー! 逃げ遅れた間抜けな人間は、家財道具の一切を焼かれて追い出されちゃうぞ! もう犬小屋に入って人から餌を恵んで貰うしかなくなっちゃうぞ!』
そうしたら先生に酷く叱られて、放課後に反省会まで開かれてしまいましたとさ。
口では謝りましたが、たー君は納得できません。
おもしろいのに。スリリングな記事だったのに。
先生はきっとハリウッド映画とかが嫌いであんな風に怒ったんだ。
頭が硬いんだよ。
帰り道で友達と一緒に先生の悪口を言い合った、その晩のことでした。
彼は金縛りに遭いました。
夜中にふと目が覚めれば、真っ暗な天井をぱっちりとした眸で見上げたまま、指一本動かせません。
――あれ、どうしたんだろう。トイレに行きたい訳でもないのに目が覚めちゃった。それに、頭の中にだけ僕がいるみたいで、身体がちっとも動かないぞ?
そのうち窓の外が騒がしくなり、ウーカンカンと消防の音が響き始めました。
――あ、火事だ! また見に行って、今度はもっとすごい記事を書いてやろう!
だけど、金縛りが続いているので、動けません。
そのうち窓の外が赤くなりました。喩えるなら、夕暮れの赤い日差しがカーテンの向こう側から当たってくる感じでしょうか? 少しゆらめいています。ザワザワと人の声もしてきました。
――あれ、あれれ? もしかして僕の家が火事なの?! 大変だ!
心なしか周りも熱くなり、焦げ臭い気がいたします。壁紙が燃えると毒ガスになる、という話を思い出して、気が気ではありません。
だけど、金縛りが続いているので、動けませんでした。
漸く危険を悟った、たー君。唯一自由に動く眼球を、必死にきょろきょろと動かします。
すると、布団の足元側にある本棚の上に奇妙な物体が乗っかっているのに気がつきました。
赤黒い達磨です。太い眉をぐんっと、いからせて、黒い瞳を大きく見開いた。
いえ……嗟乎!
どうしてそれを達磨などと思ってしまったのでしょう! とても怒っていたからです!
それは、見も知らぬおじさんの激昂した生首だったのです!!
赤くて黒ずんで……血塗れ……? いいえ、火傷の痕でしょうか?
息を呑んだ、たー君がじっと見つめていると、それはギシギシと本棚を揺らし、前に身を乗り出しては後ろに引っ込むような仕草を始めました。
――ズルッ。 音がしました。
心なしか生首の腫れ上がった額が近くなった気がします。
ベョリッミ゛リジュベリッ! 凄惨な調べが子供部屋に響きます。
おじさんの耳周りや首筋の皮膚が裂けていました。潰れた鼻や体液の滲み出る酷たらしい頬が前へと迫り出し、少年の顔を目指してアーチを架けんと伸びてきていたのです。
まるで魚肉ソーセージの包装を剥いて押し出すかのように。その根元からは、肉色の筒状の胴体が、真新しいフレッシュなピンクを覗かせ、血を滴らせながら続いています。
達磨は今や、ろくろ首。
乱杙の歯をガチガチと噛み合わせ、それは近づいてきます。
僕が何故こんな目に? この時初めて少年は、あの火事で亡くなった方の居たことと、近くのクラスに同じ名字の女の子がいることに思い至ったそうです。
於惡、その子のいる教室では、何が。即興の素敵なエチュードですか? 少年少女の荘厳なパイプオルガンが奏でたのは? 刺激的な体験に浮かれていた彼には、全く、全く、全く全く全く、知りも予想も考えも及びだに付かない思索の範疇外!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっ!!
ガチッガチッ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっ!!
ガチッガチッ! ガチッガチッ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃっっ!!
ガチガチッガチッ! ガチッガチガチッ!
posted by 謡堂 at 05:39| ◆聊枕百物語
百物語・対岸の火事 2/2 /ロード=アザルハ(の絵本) (魔が堕ち・十子)
必死に泣き喚いている所で目が覚めたそうです。
そう締めることが出来れば、どんなにか素晴らしいことだったでしょう。
現実は無情に刻を過ぎ去らせていくのでした。
ガチガチッガチガチッッ!! ガチガチッガチガチッッ!!
鳩尾の辺りに荒い息遣いを感じて半狂乱になり、眼球だけを金魚みたいに飛び出させてぎょろぎょろと回していた少年は、今度は、見上げた枕元の向こう側にある学習机に一人の女の子が腰掛けているのに気がつきました。
くすんだ金髪をした外国の女の子でした。熱気の籠もってきた室内が紅葉色の明かりに照らされる中、その周囲だけが何千年も閉ざされた霊廟の如き重苦しい沈黙と静謐な冷気に満たされています。昏く沈んで生者の世界から隔絶されています。
吐息の音すらさせません。瞳は日本人よりも濃い漆黒。まるで深淵を覗いたまま、ずぅっと戻って来ていないかのように虚ろな焦点の眼差しが、じぃっと、たー君を見つめていました。
纏うのは破調の美。お婆ちゃんが大切にしていた西洋人形が着ているようなゴシックロリータじみたドレスは左右が揃わず、とても、ちぐはぐ。頭部だけでも、右側だけに結わえられたサイド・テールと、左目のフック船長を思わせる眼帯、その側だけに真っ直ぐ伸ばされたストレートの前髪が、バランスを傾けて不安定感を誘います。
背中のブロンド・ウェーブの更に後ろからは、左側に片いっぽだけ、長年手入れを放棄された風に見える鉤状に乱れた天使の翼が冗談みたいに生えていました。まるで粉塵に塗れた都会の鳩のよう。どこで売っているアクセサリーなのでしょうか。
腰から向かい斜めにすっぱりと裁たれたスカートからは、本当は陶磁器製のビスクドールが等身大で座っているのではないかと思わせるほど病的に白い、血管が透けて見えそうな片脚が、何も履かずにすべすべとあどけなく零れていました。
気味が悪いほどに一致を欠いた、見事なまでのアシメトリー。
四肢が揃っているのが不思議なくらいです。
両腕で抱えられている大きなウサギの人形は継ぎ接ぎだらけで、大雑把なジグザグで縫われた口の端が上に引っ張られていて、何だかこちらを嘲笑している気がしました。
(まぁ、手ぐらいは繋いであげてもいいかな?)
状況も忘れて一時そんなことを思うなんて、おませさんですね。それはさておき。
定命の者の直感が、コイツこそが自分の末路の決定権を握っている存在だと告げます。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっっ!!!
女の子は無言です。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっっ!!!
やはり女の子は無言でした。
ここで算数の問題です。生首達磨は少年の喉元へと、0.6メートル/秒で一秒間引っ込んで、1.2メートル/秒で一秒間飛び出して、進みます。到達までは残り30センチ。火の手が彼の布団を包み込むまでは、後1分かかります。
さて、たー君が喉笛を食い千切られて死ぬのと、焼け死ぬの、どちらが早いでしょう?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃぃぃっっっ!!! なんでこんなに謝ってるのに無視するんだよっっ、馬鹿野郎ッッッ!!!
ここで社会の問題です。
「ごめんなさい」には、心の底から謝罪の意を伝えようとする物と、おざなりに場を済ませようとする物、そしてその状況に至っては相手の憎悪を掻き立てるだけの類の物の、三通りがあるとします。この場合はどれに該当するでしょう?
聞けよ、コンチクショウ、殴るぞ! 殴るぞ!! 本気だぞっっ!!
ここで国語の問題です。
たー君は、二度、死者に赦して貰うチャンスがありました。
それはこの御話の何処と何処でしょう?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっっ!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさ――ブギャッ! ぐべぇぇェッ、ぎゃべぇぇぇゲぇぇェェっッ!!
ここで理科の問題です。
人間は死後、何処に行くのでしょう?
…………、…………、…………ッ、…………ッッ!
ここで地理の問題です。
たー君は今、何処に居るのでしょう?
――――――ッ――――――ッ、ッ――――――ッッ!! ッァ゛ァァ!!!
ここで倫理の問題です。
この世の誰が温かい肉の罪を定め、この世の誰がそれを裁くのでしょう。
この問題だけは答えを教えてあげましょう。
その権能を持つ者こそが。
死者の霊魂に呼びかけ、彼らの集積される地を創ることの出来る者こそが。
――条件は、たったそれだけなのです。
だから冥府では、死後の安寧と罪の規定とを巡り、無数の地獄が争覇を繰り広げています。
哀れなたー君の目撃した女の子の名は、昏暝公ロード=アザルハ。
戯れに狩られた兎に怨學を説き、訃嶽を巡りし猛獣へと変えて現世へ送り返す、辺境の小地獄の支配者。蒼褪めた霊魂のトランペッターを率い、鐙を鳴らす骨樂団の指揮棒を振るう者。黄昏に凍てついた瘴気を撒き散らし、故ある憤墓を荒らすペイルライダー。
罪ある亡者を地に敷き栄える、晶
群れ成し隊伍を組むガイスト・イェーガー。
統べるは生者の律の天秤を揺らさんと挑む、隻眼片翼の昏天使。己の棺桶に腰掛けた。
posted by 謡堂 at 05:27| ◆聊枕百物語
2008年07月29日
百物語・キャンドル /カーリンカーラ (魔が堕ち・十子)
にゃっははは〜☆ 怪談なんて、つまんない!
カーラちゃん、楽しいおまじないの話をするんだゾッ♪
うんとねっ、バースデーケーキに立てる蝋燭のお話〜!
自分の年の数だけ、ぐるぅって並べるでしょ?
その時に桃色のキャンドルを並べると、次のお誕生日までに恋人が出来ちゃうんだって!
レッドとホワイトを順番に並べると、ゴ〜ル、インッ♪
だけど黒い蝋燭は並べちゃダメ〜。
顔の見えない王子様が迎えに来て、真っ暗な世界に連れてかれちゃうんだゾッ。
posted by 謡堂 at 17:48| ◆聊枕百物語
百物語・キャンドル 黒い蝋燭編 /カーリンカーラ (魔が堕ち・十子)
面白がって黒い蝋燭を並べちゃったMちゃんの話〜。
お誕生日の次の日にね、学校に通う途中の交差点でね。
信号待ちしてたの。
そしたらそしたらね、目の前をトラックが通り過ぎる瞬間に、誰かに後ろから突き飛ばれそうな気が急にして、はっと振り向いたんだって。
でもね。誰もいないの。
だけど耳元で「ちっ」って、知らない誰か男の人が舌打ちしたのが、確かに聞こえたんだって。
周りに人は居なかったのにね。
あんまりその声が嫌な感じだったから頭に来て、思わず叫んじゃったの。
「あんたなんか、わたしの趣味じゃない!」って。
その後もちょっと変なことは続いたんだけど、それっきり。
次のお誕生日からは何も起きなくなったんだってさー。
posted by 謡堂 at 17:43| ◆聊枕百物語
百物語・ヨウドウ /ヤキナ・オブゼ (魔が堕ち・十子)
ケッケッケ。
皆が大好き、2chの話さぁ。
エッチィ小説のよぉ、スレッド、ってぇのがあんだろ、あそこによ。
でよぉ、……出るんだよ、あそこ。
他の作家が誉められてっと、のそっと出てきて……、
――その作家さんの描写と僕の作品の描写……どっちが上手いぃ……?
とか爆笑もんの質問してっくる幽霊がよ!
ケッケ、噂じゃぁ、気ぃが狂ってお陀仏になっちまった作家が、死んだのに気づかねぇで彷徨ってるんだとかよ。後生大事に水子ぉ抱えて、ネット中を徘徊してるらしいぜぇ。
聞くまでもねぇだろってぇ話だが、まぁ、相手の望むように応えてやんな。
でねぇと、憑き殺されっから。
問題はよぉ、バッティングした場合なんよ。何と、とは言わねっけど。
あっちをおっ立てりゃぁ、こっちが立たず。
正直どうでもいいってぇのが、怨霊共にゃぁ分かりゃしねぇ。
あたしゃ、チャネラーの皆々様が心配さぁね。
ま、二重遭遇したら、諦めるこったぁね。
この世の名残に有り金はたいて外食でもしてきなするこっさ。
その帰りに本屋にでも寄って、その手の本の最新刊でも買い漁ってよぉ、それ読みながら……大往生って奴じゃあねぇですかい。
あん? 都合よく退散させる呪文なんざ知らねぇよ。
怪奇現象に対抗策なんかあるけぇ♪
posted by 謡堂 at 17:36| ◆聊枕百物語
2008年07月23日
百物語・雷粧姫の秘密 /ヤキナ・オブゼ (魔が堕ち・十子)
ケッケッケ。
パル公の逆鱗は世界にたぁった一つの菊の花ん中ぁに収まってんのさぁ。
いんやいや、致す度に刺激されちまって、大変だぁな!
パルセイズ「どっこが怪談な訳よっ。くだらない与太話してっと、冬の日本海に叩っ込むわよ!? 怖い話をしろってぇのよ!!」
ノァヨァヅィクタ「然様、絶世の年増が、ちと怖い」
ネイフェレム「はいはーいっ! お姉さん、歯応えのある強敵が怖ーい!」
カーリンカーラ「うんと、ラブレターを貰ったら、カーリンちゃんは死んじゃうんだゾッ。★ミ」
パルセイズ「うっわ、どいつもこいつも、だまれ?!」
※人物紹介
ヤキナ・オブゼ:ケケケ道化師、パルセイズ:癇癪持ち龍娘
ノァヨァヅィクタ:甲殻蟹将軍、ネイフェレム:獣耳バトルマニア
カーリンカーラ:お花畑魔法少女
posted by 謡堂 at 21:16| ◆聊枕百物語
2008年07月17日
百物語・実話 /謡堂
子供の頃の私は親にこっぴどく叱られると部屋の押し入れに閉じこもる習性がありました。
引き戸を閉めて暗くして。
ある日そうしていると、耳の後ろ辺りから甲高い声で「ごはんだよっ」と囁かれたのです。
もう夕飯か、と思って台所に行くと、まだ何も用意されていませんでした。
なんだ、と思って押し入れに戻ってみても、特に変化はありませんでした。
……何だったのでしょうか、あれは。
※文にして気づいたのですが、「ごはんだよっ」と言っても、「人間だ、餌だ、喰ってやる」という感じではありませんでした。友達が、「お前んち、もう飯の時間だぜ」と教えてくれるような感じ。
posted by 謡堂 at 12:05| ◆聊枕百物語
百物語・蟻男 /ミーティ (魔が堕ちる夜)
幽霊なんて、出られても鼻で笑うボクですけれど。
ギルバ様が付き合ってやれと仰せであれば、一つくらいは話しましょうか。
ギルバ様が付き合ってやれと仰せですので、一つくらいは話しましょうね。
皆さんの家のダイニング、天井に蛍光灯があると思うんですけど、カバーはどんな形状ですか?
これはフードタイプの――隙間のない密閉タイプってことですね、家に住んでいた、とある男の話です。
このタイプは内部に埃が積もらない、羽虫が入り込まないと重宝されます。
ところが隅などに罅が入ると逆に悲惨で、光に誘われた蟲が中に溜まっちゃうんですよ。
特にこの時期、近所に蟻の巣があると大当たり。繁殖期なので、巣から飛び出してきた羽蟻がわんさと突撃してくるんですね。
虫って頭が悪いですし、入り口は一カ所にしかなくて中が広いから、彷徨ってなかなか出られないんですよ。勿論幸運な連中は脱出できるんでしょうけど。
夕飯時なんかに見上げると、白いアクリルカバーをスクリーンに無数の黒い点が蠢いていて、なかなか見物だそうです。
……あれって、ずっと電気を点けて一思いに焦死させてあげるのと、人間の生活通りに点けたり消したりして、永劫の苦痛に一時の休息と低い脱出のチャンスを与えてあげるのと、どちらが慈悲のある行動なんでしょうね?
ん? フードを取って中の羽蟻を全部外に出して助けてやってから、罅を塞いどけ?
あはは、その発想はありませんでした!
そうだねぇ、そういう君には全く縁のない話かも知れないな。
君の家で白蟻が繁殖しないように祈ってあげよう。
この男はね、全く逆のタイプだったんだ。続きを聞けば、すぐに分かりますよ。
さて、そのうち、哀れな犠牲者たちの大半は蛍光灯の熱で死にます。
夏が終わった辺りに干涸らびている黒い残骸の山を、カバーを外して掃除機でザザーッと吸い取るのが住人の嗜みです。
ホースの内部に硬い死骸の当たるコッコッコッて振動が手首の骨にまで響いてさ、まるで蟻の頭に恨みを篭めて直に小突かれているような気分になるのだとか。
で。
よせばいいのにその男、毎年のその行事が楽しくなっちゃったんだ。
もっと、もっと、もっともっと、この感触を味わいたい。奴らが死に瀕して足掻く様を、安全な地獄の外から、ずぅぅっと観賞していたい。
それには絶対的に死骸の量が足りなかった。
ついに思い余って、大型のライトスタンドを改造した集蟻灯とでも呼ぶべき器具を庭に設置してしまったそうです。あ、ちなみに、彼が住んでいるのは一戸建てです。
大量って言うのかな。
場所が虫の生活圏内ですからね、室内照明とは比べ物にならない収穫だったそうで。
子供が覗いたら泣きますね。天井の一カ所にだけ穴の空いた丸いボールカバーの中に、溜まるわ溜まるわ、昆虫の群れが。酷い時には、下に黒い亡骸が夥しく降り積もって土になり、その上だけを地蟲やら蛾やら飛んで蠢いていたそうです。食料には困らなさそうですけど、電球が側にありますからね、熱くて、やっぱり脱出しようとバタバタゴツゴツと暴れ回りますよ。それを眺めるのと、夏の終わりに掃除機で吸い取るのが、男の無上の娯楽になりました。
昼間も灯りは点けっぱなしですよ。何故ならば、夕暮れから夜にかけての男性が出社していて不在の間を、飛んで火にいる虫たちの狩り時に当てていたからです。
そして本番は深夜。
会社勤めから帰ってきては、電球カバーの内部でざわざわと蠢く虜囚たちを、じぃぃぃ、っと見つめていたんだってさ。一晩中。
稀に大きな百足やらの『大物』がかかっている事があるのが、手応えを感じられて楽しいのだとか。
それからというものです。
彼はその残虐な趣味にのめり込み始めました。
寝不足の所為か、目は落ち窪み、時折、眼光がギラギラと剣呑に輝くようになります。
奥さんの心配もお構いなし。
他の奇行も目立つようになりました。
台所のサッシは必ず薄く開けておく。羽蟻が忍び込み易いように。
蚊や蝿がダイニングを飛び回っていても、ドアを閉めて件の蛍光灯の方へ手で追いやるだけで、相好を緩めて喜ぶ。夏の前には桶に汚い水を張って庭に置いておく。
極めつけは家の前のマンホールの蓋を開けて、下水道に集魚灯を吊してみたことでしょうか。
ゴキブリホイホイにも嵌っちゃって、わざと洗い物や生ゴミを放置したり、カップラーメンの容器をそのままにするようになってしまったりね。夏場ですよ? 饐えて堪った物じゃないと思うんですけどねー。
蟲は欲求を満たしてくれる、お客様。耳掻きをする時、垢が溜まっていた方が大きいのが取れて楽しい。フケを落とすとき、小粒な粉より、大粒な欠片がボロボロ零れた方が嬉しい。そんな感覚だったんでしょうね。
手作りだった照明は、いつしか本格的なガーデンライトに。
罅穴は蛸壺の入り口の如く巧妙な造りに。脱出できる蟲は居なくなったそうです。
それを幾つも庭に並べて。……夜の漁船じゃないんだから、と苦笑しておきましょう。
電源のスイッチは夕方から三十分毎に、一時間の休憩を挟んで自動で切り替わるよう改良されました。生かさず殺さず、近い三つ同士でローテーションさせて、罠の網は常に張られている状態にして。男の帰宅前に焼け死なれていては興醒めですからね。
ちなみに。餌も用意していたそうです。蜂蜜や生肉なんかを内部にね。
情熱的ですね。
ご近所から苦情が出るかと思いきや、そんなことは無かったそうです。それまでは普通の会社員でしたし、夜も明るければ防犯になるとでも思ったんでしょうね。おそらく、ご主人がガーデニングに凝り始めた、程度の認識だったのでしょう。生贄を集めようと、豪勢な花壇も作っていましたし、実際間違いではありません。
だけど今じゃそいつの家、ポールに長いゲジゲジが巻き付いてじっとしているような、ドアノブから太った蜘蛛が垂れているような、不気味なお屋敷になってしまったそうですよ。
壁面に黒い灰がチリチリ舞っているからどうしたのかとよく見たら、蛾の集まりだったとかさ。
こうなると……どちらが飼われているんでしょうか。あれ。確かに蟲は、今では季節を問わずに大量に焦がし殺されていますけど、それを上回る量の同族たちが、男の家を中心にコロニーを形成している訳で。共生関係としては上等な部類ですよね。餌を用意する、代わりに娯楽を提供する、言葉にすれば非常にシンプルです。
まぁ、いいや。
些細な事から歪んだ精神の行き着く果て、無惨に殺された虫たちの呪い、そんなフレーズで話を締めましょうか。
男は相も変わらず、ですよ。蛆虫を大量発生させたいって言って、肉を大量に買い込もうとしたり。流石にお嫁さんと大喧嘩。毎晩怒鳴り合って、近所の耳目も集めたみたいです。
……奥さんですか? それっきり蒸発してしまって、未だに行方不明だそうですが。何か。
ふくよかな方だったそうですよ。
posted by 謡堂 at 12:01| ◆聊枕百物語
百物語・全知全能の神の怖い物 /復讐と刑罰の魔王 ザーバッハ (魔が堕ちる夜)
宇宙を統べる全知全能の神とやらを一つ怖がらせてやろうと思ってね、怪談勝負を仕掛けたことがある。
だが奴め、どんな話を聞かせても一向に眉一つ動かさぬ。
宣っていたよ。この世で最も恐ろしいのは人間の存在だと。それに比ぶれば真夏の蜃気楼の如く儚いお伽話の数々だったと。
肌色で気持ちが悪い。失敗作だが間違えを認めるのもプライドが許さない。
だからエデンの園で、衣服を着るように知恵を与えてから追い出してやったのだと。
ある日、ふと地球を見たら、地表を食い潰すほどに蔓延っていた。怖くなって目を逸らした。
ある日、ふと月を見たら、奴らが象徴と仰ぐ旗が燦然とはためいていた。自分に祈るべき神のいないことを初めて呪った。
ある日、おそるおそる海王星を見たら、付近をボイジャー2号が飛んでいた。宗教だ、最早宗教に走る以外に心の平穏を得る道はない。
鼠算的に数を増やしていくのが悍ましい。やがて宇宙全土に犇めくのだろうと、頭を抱えていたとも。
その上、奴らの犯した最大級の禁が、夜毎に彼に一発の鉛弾の詰まった拳銃への耐え難い誘惑の思念を迸らさせるのだそうだ。
曰く、人間同士の絡みを描いた悍ましい書物があると伝え聞き、魂が凍え心が折れた。
神とて慄然たる焦燥を禁じ得ない万魔殿を遙かに越える醜悪な所業を克明に綴り、知性体には到底理解し難い繁殖への旺盛な意欲を悪夢じみた芸術に高めんと奮起する忌まわしき書物の一群が。
おお、おお! 造物主の呪いを受けし者どもが、かくも仔を孕む! 高らかに退嬰的な交配の素晴らしさを謳い、腰を打ち付け合わせる渇き汚濁した宇宙的恐怖の根源たる湿音が響いてくる――。フルートではない、狂ったキューピッドの吹き鳴らす背徳のトランペットだ! 腐敗を極めたキャベツ畑で、近親婚を繰り返して原形を留めぬほど畸形化したコウノトリに似た別の何かが生への侮蔑に満ちた甲高い嬌声を上げるのだ!!
正に涜神の究極系、癌の癌細胞たる由縁、フランケンシュタインの古来より被造物は創造主に弓を引かねば気が済まぬのか! 怖い怖い、と。
些か露骨過ぎる催促だったのでね、無視した。余の完敗だ。
posted by 謡堂 at 11:56| ◆聊枕百物語