2013年07月30日

ジャンク?

 
 アムリタの淫濁 (簡略プロット) (txtファイル)  2013/7/30

 アムリタの淫濁 (試し書き) (PDF形式)  2013/7/30

 アムリタの淫濁 (途中原稿) (PDF形式/フォント:MS 明朝)  2014/2/8

 アムリタの淫濁 (途中原稿) (PDF形式/フォント:MS ゴシック)  2014/2/8
 
 アムリタの淫濁 (ヒロインの身体描写が終わるまで)
 (PDF形式/フォント:MS 明朝)  2014/12/6
 ※概ね完成のつもり。マハの片言具合は修正する可能性有り。

 アムリタの淫濁 (ヒロインの身体描写が終わるまで)
 (PDF形式/フォント:MS ゴシック)  2014/12/6
 ※概ね完成のつもり。マハの片言具合は修正する可能性有り。
 
posted by 謡堂 at 11:34| ★名称未定(短編など)

2013年02月02日

縄供養 (ボツ文)

 
※DT四章の、縛り方を変えたので浮いた文章を、余文墓場の名前らしく活用をば。
※まあ、「書いてますよ、進んでますよ」ということで。
※途中で推敲を止めた文章なので、質はそれなり。と、予防線を張っておくよ!


 状況:ランセリィがミーティに菱縄縛りをされている。
 分量:40字×34行で2ページ程度。


 縄供養  (PDF形式)  2013/2/2


 何やらミーティが、はっちゃけて和風邪気眼と化しているけれど……。
 考えてみれば、ギルバとメデューナの同属だしね! キャラ崩壊じゃあないよね!
 
 ミーティ
「…………えー……」(物凄く傷ついた表情)
 
posted by 謡堂 at 09:23| ★名称未定(短編など)

2012年08月27日

淑女のお修行 魔界編

 
※シェリスエルネスとランセリィは、悪魔っ娘。茜は人間。三人共、女性。



「……手鏡? ……いや、フライパン……、か?」
「ではなくて。……なんでわざわざ、風情の無い方に言い直すのかしら」
 掌サイズの浅いお皿に、持ち手のような柄(え)が付いていれば、大抵はそこら辺が発想の候補になるだろう。
 多分。
 ちなみにシェリスエルネスがしてみせたことには……、
(尻尾で持つ用の取っ手かよ)
 魔姫の脇に並べられた、不確定名「? 上からぺちゃんこに潰されたカップ」やら「? 裏底に鏃型の窪みがある平皿」やらの正体が判明して、唸る茜である。
「まずは、これを揺らさずに『持つ』ことから始めるのですわ、ランセリィ」
 木戸茜のアパートの居間だった。そこの丸い卓袱台に上品に腰掛けて――彼女がそれを「貧相なベンチ」だと思い込んでいるのは疑う余地の無い所である――シェリスエルネスは、黒く艶やかなエナメル質に輝く尻尾をテイル・プレートの持ち手に巻き付け、娘に行儀作法の指導を行っていた。自分の皿は右斜め前方、肘掛け椅子ならアームレストがあるであろう位置に保持し、微動だにさせていない。
 素人の茜の目から見ても、その鏃型尻尾の落ち着いた佇まいからは、「手入れの行き届いた古城の鉄柵に、泰然と巻き付いている草蔓」などといった華美な印象を受けなくもない。いや、「樹木の枝に巻き付き、獲物が通りがかるのをじっと待ち受けている蛇」、かもしれない。
 どちらにしろ、異界の気品を感じさせるものではあった。
「あー、こっちにもあるな。頭の上に本を乗っけて、落とさずに歩け、みたいなの」
 日本人としての意地とあてつけで、魔姫の向かって右隣に、きちんと畳に胡座をかいて着座している赤毛の退魔師である。席順的には左側だ。それが常夜の姫君には、「椅子に座った主の傍らで、従者が床に膝を突いて控えている」ように見えたらしい。何やらご満悦な微笑みを浮かべて、「茜には五月蠅い指導の必要は無さそうですわね」などと仰られたことだった。
 まあ、シェリスエルネスの心臓を(彼女が正しい作法で卓袱台と向かい合って座ってさえいれば)守れる位置ではある。誤解では無い。自然に間違いに気づかせようという目論見は外れたが、何かが免除されたのならば、そのままにしておいても罰(ばち)は当たるまい。
「魔界では石板を乗せますわね。重いわ、ざらざらしているわ、あれは髪が傷んで戴けない風習でしたわ……。落とすと必ず爪先に当たるように呪いが掛けられているし」
 こちらは人界の物と変わらない様式のソーサーを左手で持ち上げ、ティーカップの把手(はしゅ)に右指を通し、優雅に紅茶を嗜みながら、当時のことを思い出したのか、コキコキと首を鳴らしてくる紫髪の魔姫だ。そこから尻尾に支えられ、衛星のように距離を置いているテイル・プレートが、お茶姿の良いアクセントになっている。
(中身は、あたしの淹れたインスタント・ティーなんだけどな)
 口に含んだ時、「あら、茜にしては……」などと怪訝な顔をされたが、やはり正体を知ったら怒るのだろうか? 元々他所の土地のお茶なので、味をとやかく言うつもりは無かったようだが、「自城菜園で摘む所から始めていない、お湯を注ぐ前は全て他所の手任せ」などという想像を絶する非礼をしでかされていたと彼女が想定に入れているのかいないのか。案外それが、命に危険が及ぶかどうかの分水嶺になるのかもしれない。
(ま、どうだっていいやなぁ。あたしにお行儀を求める方が間違ってらぁ)
 とっくの昔に開き直り、野性的な四肢で伸びをする茜の目の前で、すいっとシェリスの尻尾がプレートを動かした。まるでアメンボが池面を滑(すべ)るような滑(なめ)らかな動きを、ランセに見せている。
「ほら、慣れれば上下左右、四方八方、好きな所に動かして、ピタリと止められるようになりますわよ」
 ちなみにシェリスエルネスは実演の為に動かしたようなことを言っているが――。
(おかわりか……)
 腐れ縁の退魔師は、自分の膝の、コンビニ煎餅のビニール袋を、がさがさ、と開いた。
「ん、ん」と、鼻先に空のお皿を突き出されて催促されるがままに、その上に一口サイズの胡麻煎餅を数枚、乗せてやる。餌を咥えて引き上げる猫そのままに、すいっと、お皿が元の位置へと戻っていく。カリッ。魔姫の右手がソーサーにカップを置いて煎餅を摘む動きを見逃した。それぐらい洗練されていて隙の無い動作だった。これが高じると、乱戦中に、ひょいっ、と繊手を伸ばして相手の頸動脈を掻っ切れるようになるのだろう。
「ふぅむ。人界のクッキーは変わった味わいですのね」
(煎餅はクッキーかなぁ……。小麦粉使ってねぇから、違ぇだろうなぁ……)
 だが、ポテトチップスならぬ米粉チップスの生まれ出るご時世だ。些細な問題だろう。
「ん」
「ほい」
 どうやら、お気に召したようでもあるし。
 機会があれば、甘辛いザラメ付きの物も試して頂こう。
 そんな取り留めも無い思考を脳内に垂れ流しながら、茜は場繫ぎ程度に尋ねてみることだ。
「魔界に煎――こういうクッキーってねぇの?」
「さぁ、どうだったかしら。有ったかもしれないけれど、似たようなので大きいのをパルセイズがいつもバリバリと囓っていたから、穢れた食物のように思えて意識から削除していたのかもしれませんわね」
 ちなみにパルセイズというのはシェリスエルネスと仲の悪い異母妹で、人型はしておらず、魔姫とは全く思想の相容れない、この世の醜悪の全てを詰め込んだような大怪龍なのだそうだ。うわばみたる彼女が息を一つ吸うと、魔王の城の酒樽が全て干上がるらしい。
 そんなもんかね、と肩を竦めて適当な相槌を打ち、気を抜いた様子の退魔師は、さっきから会話に加わってこないランセリィを見遣った。六人掛けの卓袱台――部屋の主は一人暮らしだったので不要な広さに思えるが、作業台代わりでもあった――だ。今使われている面積は五分の二程度で、漆黒のゴシックドレスを銀糸と三日月のペンダントで飾った幼い少女が、茜を挟んだシェリスの斜め対面にいる。短い黒髪を戦慄かせ、茜譲りのアホ毛とシェリス譲りの蒼瞳とで、前方を刺すように睨み付けている。
「うーっ! う〜〜ぅぅぅっっ!!」
 本来なら。
 知識搾取などという反則技によって人界の常識を豊富に身につけている、この魔姫と退魔師の娘が、母体である所の常夜の姫君の間違いを意地悪く指摘して、とっととベンチ――卓袱台である。彼の名誉にかけて――から引き摺り降ろしていて然るべきである。
 だが、「ププーッ。たっぷり座らせてから指摘して、大恥掻かせてやろっと♪」と企みを巡らせていた間隙を突かれ、シェリスエルネスから行儀作法の鍛錬メニューを言い渡された瞬間から、彼女はこの場のヒエラルキーの最下層に叩き落とされ、そこを無惨にのたうち回らされ続けているのだった。
 とても今更、指摘出来るような状況では無い。
 課題をこなせないからと、むくれて別の事で反撃したように思われるのは、ランセリィ的に耐えられないことなのだ。
「こ、これっ、一時間、続けっ、て……! それっ、から、シェリ……に、土下座……させてやる……っ!」
 と、獰猛に八重歯を剥きつつ魔少女は、卓袱台の縁を両手で掴み、座布団も敷かずに正座して、目の前に回した尻尾で『握った』お皿を必死に睨(ね)め続けている。
 それには水が張られていて、表面に波を作らないように静かに持っていればいいのだが……。
 ――ぷるぷる。
 ――ぷるぷるぷる、ぶるっ。
 ――……ぷる、ぷる、ぶ。ぶ、るぷ、……ぶ。
 ――ブルブルッ、ブルブルブルルブル゛ル゛ル゛!
「あ゛、あ゛、あ゛――っ、ぅ〜〜ぅぅうう゛ううっっ!?」
 こちらのアメンボは、溺死寸前だ。
 どうにもこうにも、これが苦手であるらしい。かつて、このアパートで老執事の心を挫く程の華麗な曲芸を見せたとは思えない、目を覆う無様さだった。
 ランセリィも魔物の中では虚弱で、かなり基礎筋力の低い方ではある。だが、それでも尻尾でテイル・プレートを持ち上げる程度は、何でも無い筈なのだ。何せ、自分の銛型尻尾で剣の柄を握ってシェリスの首を落とそうと振り回したこともあれば、魔姫の知識を喰らってコツやら何やらは「識って」もいる筈なのだから。
 その気になれば簡単に実行出来るだけの能力を持ち合わせておきながら、ここまで苦戦しているのは、全て彼女の落ち着きのない性格が原因だった。睨み合いで場が膠着すれば、必ず自分から動いて引っ掻き回して状況を有利に持って行こうとする彼女である。
 じっと同じ姿勢や状態を保っていろと言われるのは、鰹(かつお)が泳ぐのを止めろと言われるに等しい。呼吸方法を泳ぐことに頼っている彼(か)の魚は、泳ぐのを止めると死んでしまうというのに。
 水を零さないように慌てながらも、悔し紛れに訴えるランセリィ。
「わた、わたたっし、つっ『月』で『炎』だっかかからっ、変化を求めてゆらゆら揺れ……っ……揺れれれッッ……揺れるのぉっ! じぃっとしてればいい闇の人とは違うんだからぁ!!」
「その闇が竜巻の如く猛ることもあれば、月光が致命的な真実だけを照らすことも、蝋燭の火が細い糸だけを灼き切ることもあってよ。出来なくてもいい理由にはなりませんわね」
 一蹴である。
 魔姫が嘆息する。
「思った通りの様子になっていますわ。貴方、技を多用した戦い方をするのに、何と言うか、こう、その技自体が力尽くで騒々しいのですわ」
 曰く、そのスタイル自体は否定しないし好きにやればいいだろうが、実際の動作に混じる微妙なブレが、ランセリィの攻撃から凄みを奪っている、……らしい。
「そんなことでは、尻尾で正確に相手の眼球を突いて抉り出すことなど、叶わなくってよ?」
 礼儀作法、どこ行った?
 と一瞬、心の中でつっこんだ茜であったが、思い直す。
 これで彼女基準の「誇り」さえ絡まなければ現実主義者のシェリスエルネスである。体面を飾らせるだけの理由で、ランセリィの持ち味を殺すような特訓をさせはすまい。寧ろ、下手に戦闘訓練などと言い出せば娘が猛反発するのが分かりきっていたから、立ち居振る舞いの話にかこつけて、別のことを伝えようとしているのだろう。
(何だかなぁ。血塗れだろうが、他の液体に塗れてようが、やっぱりこいつはお嬢様なんだよなぁ……。気遣いも微妙に出来やがるし)
 実はシェリスエルネス、もう一つの鍛錬も難なくこなしている。
 二対四枚の蝙蝠翼の先端に一枚ずつ折り紙を乗せていて、隙間風が吹いてもランセリィがガタガタ卓袱台を揺らしても、一回も落としていないのだ。
 彼女自身が身体を揺らしていない訳でも無い。紅茶を啜る時、クッキー(胡麻煎餅)を囓る時、緩やかにではあるものの、ごく自然に傾いたりしている。なのに折り紙に変化が生じないのは、羽根の根元が自然と角度を取って、風に対抗したり揺れを先端まで伝えずに吸収したりしているからだった。最先端のオートバランサーも吃驚である。
(大した無駄スペックなこって)
 でもないのか。こういった身の御し方の積み重ねが、気流に揉まれても平然と姿勢を保ち続けられる飛行法へと繋がっている、のかもしれない。
 ランセリィの羽根に乗せられていた物は、とうの昔に落っこちて、包みに仕舞い直されていた。「わっ、わたしは思春期だから、翼に触れている物は全部叩き落としたくなるんだよっ」とは、本人の談。
 既にそっちで張り合うのは諦めていたので、ますますお皿に懸命なのだった。
(なんつーか、身体のパーツが多いと、それはそれで大変なんだなぁ……)
 密かに、自分にも角があれば頭突きに便利なのにな、などと考えていた茜だったのだが、この様子では重心の取り方やら人への向け方やら、途方も無い作法がありそうだ。
(あたしも師匠直伝のタマの蹴り上げ方でも稽古つけてやりゃあ、こいつの役に立つのかねぇ?)
 どうも茜とは対等な関係を維持したいらしく、積極的には知識を奪ってこようとはしないランセリィである。身体を押さえ込まれて殆ど自由が効かない時用に、中国武術の寸勁を応用した蹴り方や、肉体の硬い部位をグリッと押しつけて胡桃を割る訓練などもあるのだが、それは彼女に伝わっていただろうか?
 いや、それよりも、シェリスエルネスにベンチと卓袱台の違いについて説明してやるのが先か。なるだけ、木戸茜や人界の人間は椅子をテーブル代わりに使うほど野蛮、もしくは困窮しているのかと、誤解を与えない言い方で、だ。
(しっかし考えてみりゃ、あたしゃぁなぁ……、いつもは平気でテーブルやらバーのカウンターやらに腰掛けっしなぁ……。卓袱台でだけ、偉そうに説教が出来る身分でもなかったやなぁ?)
 いやいや、それとこれとは違う筈なのだ。しかし、こうも堂々とやんごとない挙措を見せつけられてしまうと、まるでここは公園で噴水の周りに腰掛けの縁でも迫(せ)り出していて、皆でそこに集まってアフタヌーン・ティでも楽しんでいるかのような錯覚に陥ってしまうのである。一言で言えば、間違いを指摘する方が野暮、的な。
(案外、こいつがここに百年ぐれぇ居座ってたら、「卓袱台は腰掛ける物」ってことになってるかもしれねぇなぁ)
 そんな故事があった気がする。人界の常識を侵そうとする魔界の瘴気は、かくも強力な物なのだ。どのみち、夕飯時になって料理を並べ出したら判明してしまうことではあるが。事に依ると、食べ物を載せる場所に腰を下ろしていたことでシェリスエルネスは恥じ入るかもしれないし、それまでに適当なフォローを考えておこう。
 つらつらと、そんな物思いに沈んでいると、とうとうランセリィが根を上げた。
「だ……駄目ぇっ、もう駄目ぇぇっ!」
 変な行儀の良さと敢闘精神を発揮して、最後まで放り投げたりはしない魔少女である。あらかじめ広げておいたタオル型のスライムの上に、力尽きて取り零されたお皿が落下する。グニュリ、とプレートを受け止めた青い粘体魔法生物が、張られていた水を飛び散る前に掻き集め、無駄にしないよう再びプレートに戻すと、トライ・アゲインということなのか自分の頭の上に水平に置き直したことだ。
「ふふん、教えることが有って、母親役の面目が立ちましたわ?」
「負けた……。こんなのに負けたぁ……っ!」
 すっとぼけたお茶姿を晒す――ご丁寧にお尻の下にはハンカチーフを敷き、斜めに揃えて流した脚の爪先では、座布団を足乗せに使っている。ベンチを卓袱台として扱うべき正義は未だ姿を見せず、タイムリミットだかXデイだかまで惰眠を貪る腹らしい――母体を絶望の眼差しで眺めるランセリィ。がっくりと突っ伏し、打ち拉(ひし)がれ切った様子で、もそもそと卓袱台の下に身を埋(うず)めていこうとする。
 その頭を撫でてやりながら、茜は彼女の口にも、胡麻煎餅を放り込んでやるのだった。
「んじゃ、一段落した所で、カレー作ろうぜ」



※「仰られた」の誤用は、わざと。




○おまけ設定
 手鏡型の物より、さらに難度が高くて優雅とされているのが、「裏底に鏃型の窪みがある平皿」型のテイル・プレート。手の甲に乗せて持っているような感じ。
 
 
posted by 謡堂 at 09:40| ★名称未定(短編など)

賢母シェリスエルネス  & ランセリィ語検定

 
 
 お題:夏バテに負けないよう、ランセリィにカレーを作ってあげよう。


 シェリスエルネス
「見なさいな、茜。
 私(わたくし)がその気になれば、玉葱の微塵切りだって、お手の物ですわ。
 フフン♪ 涙など一滴も流すものですか! 爪を水で濡らすと良いのですわよーっ♪」
 ※包丁代わりに爪で切っているらしい。ノリノリ。

 木戸茜
「……確かに、見事なもんだ。
 お前さんが微塵切りにしているそれは、玉葱じゃなくって、タケノコだけどな」



 ランセリィ
「そういう汚い料理の仕方、やめてよね。
 シェリスの爪の垢なんて食べさせられたら、マゾ牝になっちゃうじゃない」


 


○おまけ
 

「秘技、オニオンの降らぬ雨!」
 くるくると回転をかけられて、ボウルの上に放られたタケノコである。
 予想される軌跡を魔姫の不敵な笑みがなぞったかと思うと、その上を無数の爪閃が通り過ぎる。一瞬の後、ボウルの中には微塵切りにされた鳥の子色の物体が、山となって降り積もっていた。
 無慈悲にして迅速なる截断(さいだん)であった。これでは仮にタケノコが断面から悪魔的なアリルプロピオンを分泌する能を備えていたとしても、あまりの業(わざ)の鋭さに、そんな暇(いとま)は与えられなかったであろう。
「で、そのタケノコというのは、刻んでカレーとやらに入れても無害なものなんですの?」
 とりあえず、思いついた技名は叫んでみたかったらしい。都合良くタイムラグを挟んで茜の指摘を受け入れてから、けろり、とした風情で確認を取ってくるシェリスエルネスだ。
「どうだかな。そいつはピーマンやらダシだの醤油だのやらとつるんで、カレーを和風味に変えてくる、ならず者だからな……」
 まあ、と驚いてみせて、常夜の姫君が腕を組む。
「それは問題ですわね。今後の相応しい処遇を考えねば」
 難しい顔をし、南瓜(カボチャ)と睨めっこ――それはピーマンでは無いと、どのタイミングで告げるべきか?――をし始めた魔姫を放っておいて、茜はやれやれと首を振った。
 実の所、シェリスエルネスのミスは茜にも責がある。ランセリィに食べさせてやる初めてのカレーが、はたして普通のカレーでいいものかとスーパーで悩んでしまったのは、彼女であった。結果、アパートのキッチンには、割と関係無さそうな食材まで並んでしまっているのだ。
(何でか、茄子もしめじも有るなぁ……。やべぇ、和風以外に作っちゃいけねぇ気がしてきやがった)
 味付けについて考え込みながら、サバイバルナイフでジャガイモの皮を剥き、生の状態のまま親指を使って適当な大きさに握り砕いていく。意識が他所に行っている所為で、普段のガサツな調理方法がそのまま出てしまっていることに本人は気づいていない。同業者と組んで野営をする時など、お上品にナイフでイモをカットなんてしていたら、かえって馬鹿にされてしまうのだ。
「じゃあ、わたし、具材を釜茹でにするのをやるねっ。栄養素を生かさず殺さず、最適の加熱で甚振ってやるーっ♪」
 特訓から解放されたランセリィは絶好調だった。
 ちょこまか動き回って良いとなれば、正(まさ)に水を得た魚。暫く使っていなかった鍋をゴシゴシと手際よく洗い上げ、コンロ代わりに鬼火のように練り上げた月焔らを精妙な操作でその周りに浮かべて、今や準備万端、と具材や水の投下を待っている。
 押し入れと化していた戸棚まで開けて、他の鍋やら鍋に代用出来そうな物やらを引っ張り出しているのは、暇になったからなのか、それとも、味付けが決まらずに複数の種類を作るのを見越してのことだろうか?
(一度に食い切れねぇ程作るってなぁ、上手くねぇよなぁ)
 実物を見知っている唯一の人間として、茜は全体の統括を任されている。
 可及的速やかに味付けを決定し、シェリスエルネスと連携せねばなるまい。
 その間、ランセリィが悪戯っ気を起こさぬよう、気を逸らしておくことも必要だろう。
「……野菜の王様が何かを命令すっと、必ず口答えしてくるイモって、な〜んだ」
「いきなりクイズだ! う〜んとね……?」
 シェリスエルネスまで手を止めて考え込み始めたが、それはそれで不都合ではないだろう。
 





○おまけのおまけ

 木戸茜
「どんなに意地悪で顰(しか)めっ面の婆さんでも、一口食べたら『うまいぞー!』って叫んじまう人界のお菓子って、な〜んだ」

 ランセリィ
「ん〜ぅんう?」



 
 
posted by 謡堂 at 07:36| ★名称未定(短編など)

2009年01月06日

魔が堕ちる夜5 断章 第一章、冒頭

 
冒頭  (PDF版)  2011/9/23
冒頭  (縦書き)
冒頭  (横書き)


・勿体つけていますが、3Pくらいしかありません。

・書いている時点では旧4巻4章だったのを、便宜上第一章として扱っています。
・この後、奇を衒わずに、十子を順番に喋らせてキャラ立てしていくという開き直り(要求でもある)。まぁ、そうした方がページ数は少なく収まるかと。
 読んでいて楽しいかどうかが腕の見せ所……とか張り切ってた。
・議題は「シェリスエルネスとランセリィの抹殺」。
 
posted by 謡堂 at 22:32| ★名称未定(短編など)

魔が堕ちる夜5 断章について

 
 旧稿から良さげな部分をピックアップして載せているだけです。

 そういえば十子に対する共通理解の土台が設定の羅列しか無かったので、
 動いている所を見せなきゃなぁ、と思い至りまして。

 溜まったら一章、二章として纏めたい所ですが、元稿が使い回せる部分をヴュゾフィアンカ・ルートやSS、百物語に抜き出した虫食い状態なのと、未完成の部分があるのとで、出来るかは怪しい所です。
 また、陵辱シーンは全部回収しているので、ありません。
 
posted by 謡堂 at 13:33| ★名称未定(短編など)

2008年11月12日

「テンガロンハットのガイスト・イェーガー」 序2 1/2

 
 氷上の妖精ペルセルミー・クロッカスは殺された。
 検閲によって無惨に屍を喰い荒らされた。
 故無きことではない。彼女の演技は暴力を誘発し過ぎたのだ。

 その魔性の発露は幼少の頃に遡る。
 奇縁でアイスダンスの個人レッスンを受けていた彼女が、振り付けから自分で組み立てた一人用の演技を初めて舞った時のことだ。宙を蹴るように伸び上がるエッジの力強く幻惑的な軌道を見守っていたコーチはやがて、精神の奥底より沸々と湧き上がるどす黒い憤怒の衝動が腹の中を掻き混ぜているのに気がついた。そして、行動を縛る倫理と理性による枷が教え子のステップが切り替わる毎に緩まされていく解放感に酔い痴れ、感涙に噎び泣き、その足で我が娘の首を絞めに向かおうとリンクを後にした。再三に渡る叱責を聞き入れず非行に走っていた愛するキャシーの首を。
 問題を起こして辞めていったコーチの代わりに次に犠牲になったのは、演技を見てくれとせがまれた実の母親であった。その魂に救済あれ! プライマリー・スクールに通う愛娘のトリプル・アクセルを披露された瞬間、神による天啓を受けて硬直し、続いてペルの頭に近くの台に置かれていた重い花瓶を打ち下ろしたのだ。一抹の喜びと共に。老いた己の前で輝かしい青春を謳歌する少女への憎悪に歯止めが利かなくなったのだった。母親は離婚調停の後に実家へと帰されたが、後日、鏡に小皺の増えた貌を打ち付けながら完全に正気を失ったという。
 それ以後、フィギュアの話題が家族にタブー視されることでスケートリンクに触れる機会を失ったまま、埋もれし異能の時は過ぎる。それで彼女が情熱を手放せば、人の世には束の間の平穏が続いていたかもしれない。
 しかし、事の本格的な起こりは、それからなのだった。

 富豪だったグランドファザーの誕生日パーティ。
 暗黒の釜の蓋が開く運命の日。
 彼女はずっと踊りたかった。バレェでも新体操でもなく、フィギュアスケートを。独学でこっそりと修練も積んできた。だから、バースデー・プレゼントにかこつけて大理石の床をアイスリンクに見立て、ローラースケートで滑る余興を思いつくのも、実行に移すのも、ごくごく自然な成り行きだった。
 ――それがどのような結末を招くかの予感は、あった。

 演目:ワルプルギス・フィーバー
 その後も彼女を代表する、魔女狩りのプログラム。

 それは爪先のトウピックを氷に突っかけるようにしてペンギン立ちする所から始まる。
 柔軟な股関節を駆使し、膝が肩に触れるほど、踵が正面から見えるほど、真っ直ぐに右足を跳ね上げる。そうして右と左を代わる代わる天に捧げては振り下ろし、連続する優雅で激しいクレセントを描きながら次第に助走をつけて、サーキットのコースに乗るのだ。
 続くのは氷を削って行われる、鼠花火にも似た大滑走。追われる少女に扮した彼女はディスコのリズムでフィールドを縦横無尽に駆け回り、片足を地に突き立て、後方に流したフリーレッグで兎を掴もうと腕を伸ばしてくる群衆のイメージを次々と薙ぎ飛ばす。氷煙すら昇るスピンを織り交ぜ、鍔迫り合いを繰り返すかのように幾度も進行方向を変える、つなぎのない殺人的ムーヴ。
 その間もスピードが弛まることはなく、トップに入った速度で全身のバネを使って飛ぶ三段ジャンプが一つのクライマックス。トウループ、フリップ、トリプル・アクセルジャンプ。最期の三回転半は嬰児のように折り曲げた両膝を軽く抱え、宙に二列からなる螺旋の溝を掘りながら。一跳び毎に高くなる狂気の放物線の果て、勢いで宙返りまでをも含み、あたかも透明人間の戦士と空中で斬り結んで、奈落へと降しているかのようだった。
 それを境に拮抗が崩れ、逃亡していた少女が殺戮に移る。敗走する敵への酷薄なる追撃劇、ガラス細工の惨殺ショーの始まりだ。
 民衆の頭蓋をスケートシューズで叩き割り、撒き散らされた脳漿を指で頬に塗りたくる。ブレードに引っ掛けた臓物を何メートルも引き摺って滑り、転がっていった目玉に追い縋り何分割にも踏み斬り躙る。身を捻った腹曲前屈から足の甲に繊手を添えて、一気呵成に背を反らし首を跳ね上げることでアピールする、一枚一枚手ずから剥ぎ取っていく人皮。それを紙吹雪の如く千切っては放り投げ、髪の後ろに煌びやかな戦勝品のミルキーウェイを架けていく。
 最期の一人が頸骨と腰骨を粉々にされる所まできっちりと表現して、ジャスト240秒。

 ジュニア・ハイスクールの終了を間近に控えた少女の高価な床を硬いローラーで走るという非常識に眉を顰めていた親戚縁者も、最期には惜しみない万雷の拍手を送っていた。
 祖父に至っては、めっきり立つことのなくなっていた電動車椅子から枯れ木もかくやといった両脚で立ち上がり、かねてより争議の的であった遺産分配の遺言書の全撤回を宣言したのだ。
 その言葉が終わるか終わらない内、常に背後に控えていた壮年の息子がビンテージ・ワインのボトルを棍棒代わりにしてクロッカス翁の頭に振り下ろし、凄惨なるエキシビションが始まった。ちなみに現在殺人罪で収監されている彼がペルの実の父親である。
 頑固一徹だった顧問弁護士は内から湧き上がる衝動を認められず、神の名を唱えひたすら壁に額を打ち付けた後、首を百八十度ぐるりと回転させて死亡した。母親の奪い合いを始めた四人兄弟の子供達が、四肢を引っ張って見事に母性の四分割を成し遂げる。
 隠れた交際相手だった部下と腕を絡めて堂々と事を始めようとした妻を夫が射殺し、屍嫁の衣を剥いで跨る彼の背後から心臓を、かつて上司に堕胎を迫られた秘書がテーブルナイフで突き刺した。グループに取り入ろうとするライバル関係にあった事業家達が鉄串で互いの眼を貫き合う決闘に及び、屈強な警備員がかねてから目障りだった経済誌の記者をネクタイで絞め殺していた。紅顔の給仕はテーブルに乗せられ腹を引き裂かれ、臓物を獰猛なご婦人方の饗宴に供される。
 幾人もの女が一番着飾った女を下敷きにして乗りかかり、一人一人と上に重なる度に、輝きに塗れた女の肉が歪み骨が軋んで逃れようともせず逆に襲ってきた女たちを引っ掻く爪が割れ肋骨が曲がり腹部が押しつけられた膝によってあり得ない陥没を見せ鬱血して青黒くなり血反吐が吐かれ大腿骨が砕け骨盤が不可逆の変化を見せた後、目玉が飛び出し頭蓋の亀裂から黄灰色の脳味噌が幾条もの糸を引いて覗き溢れ頭髪を引き千切られた勢いで脳漿が散り転がった指輪の宝石を目指して人体の山が移動し下で次々と別の肉塊が潰れていく。
 生まれてから清楚を強いられてきた深窓の令嬢が炙られた丸焼きチキンの腿肉を掴んでそれで股間を掻きむしり発狂し、長年EDに悩んできた男性が割れた硝子で股間を掻きむしり発狂し、強欲な叔父が姪に襲いかかり、ふしだらな性癖のあった姪が叔父にフレアスカートの股座を開き、二人が発狂した。
 ペルセルミー自身の元にも幾人もの男が白く濁った欲望を吐き出しに押し寄せてきていた。
 サバトである。果ては財閥の解体にまで発展した騒動の渦中にいた少女が、センセーショナルに取り上げられない筈がない。パーティの生き残りが熱烈な信奉者・後援者となったことも相まって、かくして彼女はフィギュアスケート界にオカルティックなデビューを果たしたのだった。

 フィギュアスケートの発祥は、凍った運河の上を芸術的な図形を描いて滑走しようとしたことにあるという。だとしたら、彼女のブレードが描く軌跡は狂気を貪る魔法陣であったに違いない。
 その妖しい天使の舞うスケートリンクを見に行くというのは、公開処刑を見物しに行くのと同義だった。そこに静謐さは有り得ようもなく、会場はフーリガンの熱狂に支配された。
 煮えたぎる憎悪の大釜を掻き回す魔女の素晴らしい演技に対するのは、どよめきの代わりにシュプレヒコール。時間に追い立てられて正気を失っていくアリスの如く、曲の演奏時間が終わりに近づくにつれ、会場を揺るがせるほどに足を踏み鳴らす。
 信奉者でもある主催者の計らいによって一人一演技の軛を解かれた妖精が氷上で繰り広げる様々な解体ショーを血走った目で追う観客は、激しい演奏のリズムに合わせて身体を揺さぶり、拳を振り上げ、乱杙の歯茎も整った歯並びも一様に剥き出しにした。
 怒号と嬌声、悲鳴と哀願。会場で一番身体の弱い者、立場の弱い者は例外なく虐め殺された。ペルの演技が始まる前からその選定は始まり、アイドルばりの連続ステージとアンコールを繰り返すペルセルミーの先導に合わせて人々が欲求を満たしていくのだ。
 全てが終了し、普通なら最高の美に触れた余韻に浸り客席で寛ぐ所で、観衆はナイフや銃を持ち街に繰り出した。芸術の模様はTV中継もされ、血腥いストライキや、衝動に駆られた母親が泣き止まない赤子を絞め殺す事件が続発した。街角でダンスを映すテレビは真っ先に盗難の対象になった。
 彼女も自分の踊りにそう反応を返されることを望み、歪な研究に余念がなかった。自由を教え日常の不満に気づかせる滑走様式、激情を擽る爪先の角度、凶器を握らんとする腕の筋肉動作を触発させる腰回転の捻り、秘めた殺意や欲望を揺り起こす指先のしならせ方。
 やりたいことと望まれていることとが一致した幸せな例であったと言って些かの誤謬もあるまい。人が奔放に振る舞う様を見ることは、彼女の喜びでもあったのだ。
 それは虚実の境を見失わせる幻想の女王。人の域を忘れさせ、破滅への恐怖を麻痺させて、地獄の太陽へと羽ばたくイカロスを産み堕とす灰被り姫サンドリヨン
 時代はレミング症候群の如く崩壊へ突き進みつつあった。

 ところで、こんな都市伝説フォークロアをご存じだろうか。
 メン・イン・ブラックを弄ったような、取るに足らないくだらぬ話だ。貴方が今後ろを振り向いたら、斧で頭を割られたゴーストが見つめてきているというような、ありふれた話だ。
 現代に生じた魔性の存在を人知れず捜索・殲滅する影の組織があるという。
 QOA(第四聖譚同盟/クアドリオラトリオ・アライアンス)。こうべを神による世界創世よりも更に三歩退かせ、その足元よりも三歩先に出でて尊き御心に従う者たち。
 欧州に起源を持つ、討滅結社。
 お察しの通り、実在する集団である。

 その行動原理は何よりも、否定をするところから始まる。
 排除対象が一定のカリスマを備えていた場合、後世への悪影響を根絶するために、抹殺における神格化の防止、聖性の徹底的な破壊・失墜を第一義とするのだ。
 また、公然と敵対する事は必ずやそれの英雄視と敵勢力の結集を招き、事態を深刻化させる。
 よって、彼らも当初は秘密裏かつ穏便な手段――ペルセルミーの人脈や資金の流れを絶つこと――で事態の解決を試みていた。資金援助者に対する病死を装った暗殺、賛同する発言をした評論家へのスキャンダルや犯罪行為の捏造による退場工作。まずは魔女から術を行使する場を奪えば、自ずと病禍は沈静化するとの考えに基づいて。特に協賛企業への買収・乗っ取りは、要人が経済活動に必要な理性を壊されていた為、非常に容易かった。
 しかし後から後から湧いて出る信奉者やドル束目当てで騒ぎの尻馬に乗る放送局・動画サイトの数は、討滅結社の予想を超えて止まる所を知らなかった。それはさながらヒュドラの首退治。気がつけば、僅か八ヶ月で敵の人間社会への浸透率曲線はカーブを描いて上昇し、対抗者達の掌から零れつつあった。
 しかも関係者に不幸災厄の続く呪われた舞姫として、その宣伝に一役買ってしまう始末。
 そのまま泥仕合を続け、いっそ貨幣経済その物を破壊することすら厭わない彼らであったが、結社の方の支援者から汚染者が現れる段に至って、方針の抜本的な変換を迫られた。
 やはり、本当のペルセルミーの資源である人餌ファンを切り離さねば、異変は止まぬのだと。
 折しも時は、全米横断十三日間アイスダンス・ツアー開催に向けたカウントダウンに、世間が沸き立つ最中。その表向きの目的はフィギュアスケートの一大商業化に向けた第一歩。誰もが知る裏の目的は、未だ知名度を反社会的音楽や氷上競技などに関心の高い層に止めていた少女の壮大なプロモーションだ。
 一日の公演の三分の二をペルに感化された新進気鋭の少女たちによる演技が占め、残りのラストスパートをペルセルミー・クロッカス本人が務める。
 最終日にはどういった政治的経緯か、大統領もVIP席に訪れるという。
 それは同盟の首脳部に聖戦を決意させるに十分な計画だった。

 ツアー出発前夜。その晩、全てのテレビ局とサーバーが、政治テロを装って爆破された。ジャーナリズム史上に残る最悪の事件、沈黙の七日間の幕開けである。
 情報を遮断し更なる拡大汚染を防いだ無菌室にて、良識の白衣を脱いだ彼らの攻撃は熾烈を極めた。
 交通も止められ、流言飛語に煽られた社会不安と異常高揚によって教区監視員が意図的に誘発した暴動において、当然ながら先頭に立ち、テロルの標的として爆殺されたペルセルミーの信奉者は多数。ツアーで先触れを務める筈だった巫女たちは、混乱の中で悉く不審死を遂げた。
 レコンキスタ(再征服運動)の進行中、無線による連絡の取り合い等で悪性ウィルスの映像が流れる怖れのある情報流通を回復させようとした無辜の有志は、目的や善悪を問わず皆殺し。
 それに伴う動画記録の隠滅や、最古の降霊術と電脳化されたダウジングを併用して割り出した個人映像所持者への廃棄脅迫、多くの場合それを省略した回収&殺害は、国家非常事態宣言や各発令、軍隊の出動を遙かに上回るペースで進められた。
 それはマジックショーのブラインド&サプライズ。ペルの影響下に置かれつつあった大衆に、更なる現実的なショックを与えて正気を上書きする、劇薬処方。
 事実、パニックの収束後、中止されていた公演がプログラム表に手酷い修正を受けて再発表されても、精神汚染度が低いと判断されて放置された人々からは声高に抗議の声をあげる者は現れなかったのだ。
 最重要目標のペルセルミーはといえば、吹き荒れる粛正祓魔の嵐の間、実行部隊によって強引に精神病院に収容されていた。そこで立つことも儘ならぬほど脚の腱を痛めつけられ、生涯を賭けた足運びすら脳細胞ごと忘れさせてしまうほどの、祖父のパーティでの交わりは自分が犯されたのではなく自分が男共を抱いていたのだと悟らされるほどの、凄惨なレイプを昼夜の別なく続けられていた。
 そして、去勢の済んだ害獣が清潔な病院の檻から出される頃には、世間はすっかり様変わり。コーチやスタッフ達も聖譚同盟の息の掛かった非協力的な者たちに一新されていた。
 主催者の交代したツアーは正統と邪道の対決と銘打たれ、前半に踊るのは予てよりペルの存在に不快感を表明していた演技者ばかり。ラスト・セレモニーでペルセルミーが否定者たちが用意した刺客から叩きつけられるのは挑戦状。互いの演技の美醜を競おうという決死の申し込みだ。全日程十二番勝負で、優劣を定めるのは会場の観衆とネットとによる投票のみ。様式に拘る審査員はいない。それだけ聞けば、さぞかし公平な現代のパンクラチオンなのだろうと思えるが。
 そして執行の十二日間。萎えた足で処刑台に登ることになった哀れなペルセルミー。純白の可能性を剥ぎ取られた惨めな家鴨。
 自身に課してきた求道を許す超人的な伎倆は既に失われ、にも関わらず意固地に過去の振り付けに拘泥して失敗を重ねる姿は、有り体に言って無様で滑稽だった。近代化された陶片追放を待たずとも、少女はとっくに終わっていたのだ。
 それでも滑り切った執念と精神力が裏目に出た。誰の眼にも明らかなバランス・ロストを繰り返し、凡庸以下のお遊戯を見せたことで、魔女の評価は地に墜ちた。実況のアナウンサーは大舞台に立った十五歳の美少女の精神的未熟さを声高に宣告し、スポーツ面の記事は無言を強いられていた遅れを取り戻すかのように場違いな演技者の醜態を書き立てた。
 一度は軽度な薫陶を受けた群衆の負のベクトルを、かつての女王への嘲笑に向けて固定させることに成功し、締め括りは厳かに。最終日、期待外れの演技を見せられて激情に駆られたファンの凶行として放たれた銃弾によって、銀盤の魔性は心臓を撃ち抜かれたのだった。後はクルセイダーズの目論見通り、忘却が屍を食い荒らしてくれることだろう。
 しかし、その末路を悟りつつも、ペルの死に顔は嗤っていた。これで自分を否定していた得体の知れない集団も堕ちた、と。彼らはこの反攻作戦の為に、あまりに多くの犯罪に手を浸している。故に、自分の舞は彼らにも届いたのだと。惜しむらくは、少女の想像を超えて元から第四聖譚同盟が狂信的過激派集団であったことだが、それは兎に角。

 こうしてペルセルミー・クロッカスは正常化のモニュメントとして表舞台から葬り去られ、一連の怪奇は幕を閉じた。――そして、彼女は磔秤梟の御使いに見初められたのだ。
 
posted by 謡堂 at 23:38| ★名称未定(短編など)

2008年08月14日

「テンガロンハットのガイスト・イェーガー」 序1

 
 ズィーケナ・ノーマンは廃棄物である。
 廃棄物は、元は女性警官であった。
 
 Apices Smile社に纏わる犯罪を単独で捜査している最中、謎の黒服達に拉致連行された彼女は、言い尽くせぬ性的陵辱を受けた後に極秘の人体実験に饗されたのである。生還の見込みのない臨床実験の生きた献体として。人型を留めぬまでに冒涜されて生涯を終え、有意義な実証例を遺したカルテに名を記されることもなく、生ゴミとしてダストシュートに投棄されたのだった。

 ところで、こんなホラーをご存じだろうか。
 月をも霞ませる夜のクライム・シティのネオン街。其処を屍人が徘徊しているという。
 気怠い身体を引き摺って、耳元でぼそぼそと囁かれる見えざる少女の声に導かれるがままに。

 ズィーケナ・ノーマン。過去の墓標から削り取られし名。
 その身に彼女を蘇らせた存在が埋め込んだのは、邪悪な科学者達が数多の犠牲を踏みつけにしながら血眼で開発を追い求めている、未だ完成為されぬ筈の、人の身をして魔へと至らしめるPerihelion Generator。

 彷徨う亡者の足元に何処からか、音が届く。食卓を彩る歓談の音が。
 テーブルクロスの代わりにされた処女の貞操。ナイフで切り分けられる嬰児の声無き悲鳴。豪奢なスプーンで運ばれる、無辜の死者の血の涙。
 Apices Smile社の暗部にて地表に溢れ出る機を伺っている怪奇にして傲慢なる生者たちの、それは哄笑。

 一度壊された精神が再び心の痛みを掴む時、
 轟く憤怒の雷鳴が、異形の魔人を現世に解き放つ。
 漲る正義感と、それを凌駕する復讐心に駆られて、彼女は巨悪に闘いを挑むのだ。

「フリーズ! 睾丸腐りのアスホール共っ、ミーの新生を祝って派手にタマァ散らすがいいネーッ! HENSHIN! Perihelion Generator、ファニング・ベンジェンス――骸殻装甲・ファック・スッターァトォ! アイ・アム・ゴールデン・シェリフスター!! 真紅の涙をワイプ・アウェイするシルクのハンカチーフ!!」

 いずれPerihelion Generatorは解析され戦闘員用に量産される日が来るが。
 敵の怪人はよりハイスペックな上位設計思想にある数々のジェネレーターを搭載しているが。
 それでも彼女は闘い抜くのだ。

「推参、惡猟戰鬼、ガンズ・ブルボックス・チェイサー!!! ユーをホールドアップ、即判決射殺掃滅デース! HA――HAHAHAHAHA――!!」

※ファック=形成、程度の意で使っているらしい。
 
posted by 謡堂 at 18:12| ★名称未定(短編など)

「テンガロンハットのガイスト・イェーガー」 補足

 
「Apices Smile Trading Co.(Company)」は、
「Pistily Acme grasp dominance.」のアナグラム。

※「Apices:頂点ら Pistily:雌ずいの」くらいのつもり。
 
posted by 謡堂 at 18:07| ★名称未定(短編など)